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俺は13歳の女の子を好きになった覚えはない

 談話室に降りるとジョージがいた。一人でプールの練習をしている。僕の目の前でボールをさっさと落としていくジョージはなんともかっこよく見えた。


「やあジョージ。大統領のジョージ」

「ああ、靴のシュウじゃん。調子どう?」


 おいしいものを食べて体調は万全だけど、精神面は絶賛モヤモヤ中だよ。


「君もこの寮に住むことになったの?」

「いや、俺は車で」

「免許持ってるんだ?そういえばジョージって今いくつなの?」

「20歳だよ」


 こいつは年上だったのか。まあ英語だからため口も敬語も関係ない。誰とでもフランクに話せるのは英語のいい所かもしれないな。


「シュウは?」

「18歳。免許は持ってるんだけど、アメリカでは運転できないんだ」


 ホントは日本で国際免許も取るつもりだったのだが、ビザの手続きをしているうちにすっぽりと忘れてしまっていたのだ。


「俺と逆だな。俺はアメリカでは免許を取ったから、本国では運転できない」

「じゃあこっちでの生活は結構長いの?」

「ちょうど2年くらいになるな」


 そんなやつでも語学研修所にくるんだなぁ。よっぽどレベルの高い大学でも狙ってるのかな?


「どうだ、シュウもやらないか?」


 そういってジョージはプールのキューをこちらに差し出した。


「ありがとう。でもこれから人と会う約束をしてるから」

「ひょっとしてここでか?席はずすよ」

「外で話してくるからいいよ。どうぞごゆっくり」


 こいつやっぱりいい奴っぽいなぁ。新しいルームメイトじゃないのが残念だ。

 そんな事を思っていたら外へと続くドアをケイがノックしていた。


「それじゃあジョージ、またね」

「ああ、またな、シュウ」


 別れの挨拶もそこそこに、外へのドアを開けると夏の夜風が吹き込んできた。ケイに外を歩きながら話そうと提案したらあっさりと承諾してくれた。


「ところであれ誰だ?見たこと無いけど」

「ジョージ。今日来たばかりみたいだよ」

「へぇ。アジア人ぽい顔つきだけど生まれは?」

「あれ?そういえば訊いてないや。たぶんタイとかそのへんじゃない?」


 語学研修所で様々な外国人と接するうちに顔を見るだけでどこの出身か少しずつわかるようになってきた。ジョージの顔はどことなくペッくんと同じ遺伝子を感じる。ただ体つきがやけにしっかりしてるから、キックボクシングでもやってるかもしれないな。


「まあ、そんなことはどうでもいい。俺の話を聞いてくれ」


 そういうとケイは月夜の森の小径に歩き出した。さあ、どうやってニコラの年齢の事を切り出そうか。

 僕が話あぐねていると、ケイの方から話を振ってきた。


「今日おまえらがいなくなって2人っきりになってな」


まずい、このまま話が進んだらとても言い出せそうにない。


「ケイ、その前に僕からひとついいか?」

「先に言わせてくれよ。おまえの話は後で聞くから」


 後じゃまずいんだって。おまえののろけ話を聞いたあとで、どんな顔してニコラの年齢を打ち明ければいいって言うんだ!


「いいから聞けって。ケイ、おまえ二コラの年齢を知ってるか?」

「……なんだ、その話か。13歳だろ?」


 え?知ってたの!?じゃあおまえは初めから13歳の女の子を狙って……


「言っとくけど、13歳って知ったのは今日だからな!」


 僕の心の中を読んだのかケイが少し焦って付け加えた。


「ニコラから打ち明けられたの?」

「だからその話をしてやるから黙って聞けって」


 おう。納得できる説明をお願いします。




「おまえらがいなくなったあと、2人きりでいろいろ見て回ってたら、だんだんいい雰囲気になってきてな。ほら、ニコラって海が好きだろ?水族館って場所が良かったんだな」


 そうだろそうだろ。僕のデートスポットチョイスに間違いはなかった。ガイドブック様さまだね。


「あの水族館、まるで海の中にいるようなガラスのトンネルがあるだろ?ちょうどいいからあそこで告白する事にしたんだ。それで告白しようと思った矢先に、ニコラが『ごめん、私ケイに秘密にしてた事があるの』って言うんだ。それで話を聞くと13歳だって事を秘密にしてたらしくて」

「へえ、ニコラから打ち明けたんだ」


 これまで秘密にしてたのにどうしてここで言う気になったんだろう?ケイと付き合いたいならむしろ黙ってた方がよかっただろうに。


「たぶん俺が告白することを察知したうえで教えてくれたんだろうな。俺が告白してから傷つかないように。告白してから13歳と知るのと、13歳と知って告白しないのでは雲泥の差だろ?」


 ああなるほど。ケイを傷つけないためのニコラなりに配慮したんだな。僕ももうケイが廃人のようになるのは見たくなかったし、ナイス判断だニコラ!


「これはニコラが俺の告白のあとに教えてくれたんだけど、ニコラの年齢を知って俺の気持ちが彼女から少しでも離れるようだったら、そこまでにするつもりだったんだってさ」


 あぁ、ニコラも腹くくってたんだなぁ。13歳でそこまで真剣に恋愛に打ち込めるなんてお兄さん感動しちゃったよ。僕が中学生のときなんてたんなる坊主頭の合唱小僧だったよ?


「それでケイはニコラの打ち明け話を聞いてなんて言ったの?さすがに13歳はショックだったろ?」


 もし僕の好きな子が13歳だったらどう思うだろうな?真由子さんが13歳だったら……。ダメだリアリティがなさ過ぎてイメージできない。13歳の真由子さんも見てみたいなぁ。おっと、ちゃんとケイの話は聞いてるよ。だからそんな目で睨むなってば。


「たしかに少しはショックだったな。でもすぐに言ってやったんだよ。『俺は13歳の女の子を好きになった覚えはない。大好きな人がたまたま5歳年下だっただけだ!』ってな」


 おお、さすがはケイ!僕には言えないセリフをさらりと言ってのける!こんなかっこいい事言えるようになってみたいな。


「そしたらニコラが『私の大好きな人も5歳年上なんだけど……どうすればいいと思う?』って!もうね、『死んでもいいわ』って思ったね!」

「はいはい、おめでと」

「あれ?なんか冷たくね?」

「僕は今日リア様からニコラが13歳だって教えられて、どうやって伝えたらおまえが傷つかないかずーっと考えてたっていうのに……」


 こんなことならもっとリア様との散策を楽しんでおくんだった。


「あ、だからおまえデートからこっち、ずっと難しい顔してたのか」

「それなのに本人同士で解決しちゃってさ」

「ハハハ。俺の事そんなに心配してくれてたんだ。ありがとな、シュウ」


 笑い事じゃないよ、全く。どういたしまして。




「それでこれからどうするの?」


 僕は1番気になってる事を訊いてみた。


「ん?これから?」


 どうやらとぼけているわけではなくホントに僕の言ってる意味が分かっていないようだ。


「2人のあの様子だと付き合う事にはなったのは一目瞭然だけど……それって法的に大丈夫なの?」


 アメリカは児童ポルノなんかの取り締まりが強いと聞く。もしもケイがその取り締まり対象なんかになってしまったら大事おおごとだ。


「さあどうだろうな。俺もその辺は詳しくないから……。でも愛があればそんなの関係ないよ」

「愛があっても問題になる事があるだろうが。たとえ恋人同士でも」


 もし子供ができたなんてことになったらシャレじゃ済まされない。下手したら2人そろって強制送還のうえ、離ればなれなんて事もあるんじゃないか?


「まあその辺はいずれ時間が解決してくれるさ。大学で4年間いっしょに過ごせばニコラは17で、俺は22歳。ほら、これなら何の問題もないだろう?」


 ずいぶん気の長い話だけどな。まあケイがそれでいいなら僕から言う事は何もないけど。

 どうぞ合法なラインでお幸せになってください!

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