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謎のアジア人ジョージ

 トーフルまで残り数日、ケイはおばちゃんのチャーハンが気に入ったのか僕と真由子さんを引き連れて毎日お店に訪れた。


「ここのチャーハンを食べるとなんか調子がいいんだよ」


 そうだろ、そうだろ。おばちゃんのチャーハンは世界一だろ。


「それにしてもこんなに安くて採算が合うのか……」


 それは僕も心配だけど、この値段だからかろうじて通えるわけでして。どうか経営アドバイスとかしないでね。




 おばちゃんのチャーハンを続けて食べたおかげか、僕の体調はすっかり回復した。

 トーフル本番にいたってはこれ以上ないコンディションで受けることができた。これは高得点の予感がする。どうか上手くいってますように!


 テストを終えキャンパスを出ると、夏のギラギラした太陽が僕を出迎えてくれた。冷房で冷えた体に暑い陽射しが心地いい。まあ、もってあと数分ってところだろうけど。


 アメリカは日本より湿気がない分夏は過ごしやすいなんて言うが、やはり陽射しの元にいるとあっという間にへばってしまう。森の小径なら日陰になってて涼しいかもと思いたち、歩いて帰ることにした。

 すると森の小径から男が一人現れた。


「ヘイ、君!ちょっといいかな?」


 見かけない人だな。真っ黒に日焼けしてるけど、顔つきはアジア人。……東南アジア系の人だろうか?


「語学研修所の所長に会いたいんだけど、どこにいるかわからないかい?」


 ああ、新しい留学生かな。僕たちは6月の頭から授業を受けているが、それはむしろ少数で大半は少し遅れてやってくる。こいつも僕らと同じようにパメラに挨拶しにきたのだろう。


「彼女ならさっきまで試験官をしてたから、この建物の3階にいると思うよ」

「おーサンキュー!」

「なんてことないさ」

「君名前は?」


 おお、この流れで名前聞くなんて、ひょっとして友達になりたいのかな?


「僕はシュウ。靴のシュウといっしょさ」

「俺はジョージ。ジョージ・ワシントンのジョージでおぼえてくれればいいよ」


 靴と大統領……くそ、少し負けた気分。


「それじゃあまたそのうち!」


 そういうとジョージは軽い足取りで階段を駆け上がっていった。あんな明るい奴だったらルームメイトになっても問題ないのにな。


 ひとり部屋は嬉しいけど、次どんな奴が来るのかと思うと少し不安になることがある。まあ僕の力じゃどうしようもない事をいくら考えたって無駄なんだけど。今はそんなことより、これからのダブルデートに見落としがないかを考えようじゃないか!



 オシャレをして集合場所に行くとすでにニコラとケイが待っていた。


「シュウおそいよ!なにしてたの〜?」

「ごめんごめん。今日のプランを確認してたらこんな時間に……って、真由子さんは?」

「さあ?俺らは見てないけど。ケータイかけてみたら?」


 僕が真由子さんの携帯に電話をかけていると寮からリア様が出てきた。一人で行動してるなんて珍しいな。また高橋さんとけんかでもしたのかな?


「もしもし」

「あ、先輩、どうしたんですか?もうすぐバス来ちゃいますよ」

「それが今日はどうしてもはずせない用事ができちゃって」

「ええっ!?」


 そんな!せっかく真由子さんのために最高のフレンチレストランを予約したのに!(支払いはケイだけど)


「ディナー4人分予約しちゃったんですけど、なんとか間に合いませんか?」

「うん、ちょっと間に合いそうにないかな。あ、でも代役立てたから大丈夫!」

「代役……ですか?」

「うん。リアちゃんそっちに行ってない?」


「お待たせしました皆さん。さあ、行きましょうか!」


 いったいどうしてこうなった!?




「皆さん、本日はよろしくお願いしますね」

「……どうして中院さんが?」


 ケイが不思議に思うのも仕方ないね。僕だって頭の中がクエスチョンマークだらけなんだから。


「真由子さんはどうしてもはずせない用事ができてしまったとかで、私が変わりにきたのですわ」


 いや、だからってなんでリア様が?ハッ!?そういえば『リアちゃん』、『真由子さん』呼びになってる!


「いつのまにそんなに仲良くなったの?」

「皆さんがトーフルのクラスを受けているときにちょっと仲良くなりまして」


 そうか!トーフルに合格してたら真由子さんと仲良くなるチャンスだったんだ!くそぉ、1ヶ月前に戻ってやり直……しても無駄だったな。真由子さんには彼氏がいるんだから。ああ〜、今日のデートはそんな彼女への思いを断ち切るための物だったのにどうしてくれる!



 バスに乗り込むとケイは首尾よくニコラの隣りに腰掛けた。はいはい、僕は一人でむなしく座りますよ。


「隣り、よろしいですか?」


 え、むしろ僕が訊きたいんですけど。


「ただでさえ僕に関する変な噂たってるのに、こんなことして大丈夫?っていうか噂に巻き込んじゃってごめん!!」


 そうだよ、僕には『リア様の部屋に着替えを持って訪れた疑惑』があるのだ。そんな2人がバスに並んで座ってる所を誰かに見られでもしたらリア様の名誉をさらに傷つけてしまいかねない!


「気にしないでください。そもそもあの時は全面的に私が悪かったんですし。加納くんが気にやむ事じゃありません」

「でももし誰かに見られてあらぬ噂でも立てられたりしたら……」

「大丈夫です。以前の噂は桜井君がちゃんと火消ししてくれましたから」


 ケイが!?いつのまに……。ちゃんと僕との約束守ってくれたんだな。ありがとよ、ケイ。さすがは僕が認めたスーパー紳士!


「ところで今日はどちらに行くんですか?突然の事で私真由子さんに何も聞いてませんの」


 何も聞いてないのに来てくれるなんて、よっぽど真由子さんと仲良くなったんだね。……僕でも『真由子さん』って呼べてないのに。


「『リアちゃん』、『真由子さん』の仲なんだね」

「ええ。いっしょにバドミントンをするうちに意気投合しまして」


 ああ、ダイエットまだ続いてたんだ。そんなに痩せてたらやる必要ないだろうに。単純にバドミントンが好きなのかな?


「今加納くんからリアちゃんって呼ばれたのかと思って、一瞬ドキッとしてしまいました」


 え、何その反応?かわいいじゃねえか!


「じゃあこれからはリアちゃんって呼ぼうか?」

「それはやめてください」


 けっこう勇気を出して言ったのに即否定かよ!……まあいいけどさ。


「それで今日はどちらに?」

「ボストンにある水族館だよ。リアさんたちはもう行ったことあるんじゃない?」

「え!?ボストンに水族館があるんですか!?」


 お、まだ行った事がなかったのか。これならちゃんと4人で楽しめるかもしれないぞ。

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