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語学研修スタート

 歓迎会は実に和やかに終わった。高校在籍中は女の子と話すのが苦手だった僕だけど、真由子さんとはなんだか会話が弾んだ気がする。真由子さんも楽しんでくれてたらいいんだけど……。


 一方ケイは持ち前の紳士スキルで留学生だけじゃなく、メンター全員と仲良くなっていた。その日の夜、シャワーを浴びて部屋に戻ると、パジャマ姿のケイがさっそくいろんな情報を教えてくれた。


「○○は××大学に経営学を勉強しにきてるんだってさ。メンターの△△さんがちょうど同じ専攻だからいろいろ話が聴けるんじゃないかな。それと□□は……」

「……なあケイ、いくつか質問があるんだけど」

「なんだい?」

「おまえみんなの名前だけじゃなく、メンターの名前まで覚えたの?」

「もちろん。名前だけじゃなく大学と専攻もね」


 なんだこいつ。記憶魔人?僕なんて真由子さん以外の情報は結構うろ覚えだっていうのに。これが紳士の持つ力なのか。あれ、そういえばケイは何を専攻するんだっけ?


「俺?俺は航空学を勉強しにきたんだよ」

「ということは将来はパイロットになりたいんだ?」

「うーん、なれたらいいんだけどね……」


 いつも笑顔を浮かべているケイの顔が少し曇る。


「俺はさ、祖父の会社を引き継ぐことが決まってるから、パイロットにはなれないんだ」

「だったらなんで航空学を?」

「……パイロットは俺の子供のころからの夢だったから。せめて学生の間だけは好きにやらせてもらおうと思ってるんだよ。それでいつかはプライベートジェットを買って、世界中を飛び回りたいんだ」


 なんだこれ、夢のスケールが違いすぎる。何で僕こんなやつと同室になってるの?


「こんな庶民が同室でごめんね」

「何言ってるんだよ。俺たちはこれから一緒に生活する仲間なんだ。仲良くしようぜ」


 金持ちな上に人格者って……。なんだか僕がものすごく陳腐な存在に思えてきた。僕がケイに勝ってる可能性があるのは語学力くらいだろうか?


「うん。よろしく、ケイ。お互いトーフル合格目指して頑張ろう」

「あ、実は俺、もうトーフルは合格してるんだ」

「……マジで?」


 トーフルは日本でも受けることができ、ケイはすでに合格した上でこの語学研修に臨んでいるらしい。これじゃあ僕が勝ってる所なんてひとつもないじゃないか!


「そんなに落ち込むなよ。俺のトーフルスコアはシュウより低いんだから」


 トーフル合格点は志望大学によって大きく開きがあり、僕の志望するアーグルトン州立大学はそこそこのスコアが必要になる。現在の僕のスコアなら、ケイの志望する大学には受かるようなのだが……


「……僕、ケイにトーフルスコア教えたっけ?」


 未だ合格点に達していない僕は、真由子さんにさえ自分のスコアを秘密にしている。それをどうしてケイが知っているんだ。


「ハハッ、情報収集は一通りね」


 こいつは笑顔の裏に何を隠しているんだ。怖いなぁ。


「そんなに怖がらなくていいよ」


 ぎゃーっ!心を読まれた!?紳士は読心術までたしなんでるものなのか!?

 僕の心配をよそにケイはもぞもぞとベッドに潜り込んで行く。


「それじゃあお休み。明日からお互い頑張ろうな」

「う、うん、おやすみ……」


 一抹の不安を抱えながらも、移動で疲れきっていた体は泥のように眠りに落ちていく。ケイが「ベッドが堅い」と愚痴っているような気がしたが、すでにベッドと一体になった僕には何も答えることができなかった。




「グッモーニン、エブリワン!」


 カフェテリアで朝食を済ませた僕らは、大学の講堂に集められていた。そこにはいろんな国の留学生がいて、みんな所長のパメラの話に耳を傾けている。


「5月で正規の学生がいなくなり、今日からこの学校はアンタたち留学生のもんだ!8月の終わりまでの3ヶ月間をぜひ有意義に使って欲しい!」


 なるほど、今まで正規学生が使っていた設備を夏休みの間は留学生に使わせるのか。うまくできてるなぁ。


「アンタたちは生まれた国は違えど、みんな私の生徒で、みんな平等だ!ただし、能力の伸びは平等じゃない!それはアンタたちそれぞれが、この研修所でどれだけ真面目に勉強したかにかかってくる。幸いここには優秀なスタッフがそろっているからね!知りたいことがあったらなんでも尋ねるんだよ!」


 いい事言うなぁ。僕たちにわかりやすいよう簡単な英語でゆっくり喋ってくれてるし。パメラはいい人だと真由子さんが言ってたのもうなずける。このひとの元でなら3ヶ月間頑張っていけそうだ。

 パメラの話が終わると隣りにいた金髪美少女が少しなまりのある英語で話しかけてきた。


「いい話だったね」

「うん、僕もそう思うよ」

「私はニコラ、イタリア人よ」


 そう言うと彼女は手を差し出してきた。あ、握手ってことね。


「僕は……シュウ。日本人」

「シウ?」

「シュウ。えっと……シュウと同じだよ」


 そう言いながら片足をあげてみせると何が面白かったのか、ニコラは突然笑い出した。周りにいた留学生たちの目がいっせいに集まる!


「面白いひと!同じクラスになるといいわね!」

「そうだね……」


 まったくなんてハイテンションな女の子だ。イタリア人ってみんなあんな感じなのかな?

 あ、そういえば今の英会話が通訳を介さない初めての交流じゃないか。うん、我ながらなかなかうまくできたと思う。この調子なら授業も問題ないかもな!

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