表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/174

すれ違い×かん違い

 7月のトーフルを目前に控え留学生たちの目の色が変わってきた。このテストに合格しなければ、あと1回しかチャンスがないのだから当然だろう。かくいう僕も奨学金ゲットのために寝食を惜しんで勉強した。決してお金がないからご飯が食べられないとか、好きな人にふられて時間が有り余ってるとか、そういう事ではない。


 しかしいくら勉強しても模擬テストの結果は少しも良くならず、トーフル本番が近づくにつれ僕はどんどんやつれていった。


 真由子さんとはビッチの一件以来あまり話せないでいる。カフェテリアで会っても別々の席に座ってしまうし、寮でも一緒になる事はない。うーん、このままではデートに誘えないじゃないか。こうなったらケイから頼んでもらおうかな。あいつならニコラ以外の女性の扱いは慣れたものだろう。


「なあケイ、今度のトーフルが終わったらさ、また4人でどっかいかない?」

「……おまえよくそんなこと言えるな?」


 あれ?ケイなんか切れてる?


「そりゃ、トーフルを前に少し浮かれすぎてるとは思うよ。でもご褒美があるからこそがんばれる事もあるだろ?」

「ご褒美って……ニコラの事か?」

「そう。ニコラとデートできればおまえもハッピー、ダブルデートで僕もハッピー!だろ?」


 それにこのデートが終わったら、たぶんおまえたちは正式なカップルになれるんだし。


「なあ、それっておまえがニコラに俺とデートするよう頼んでるの?」


 ん?ケイは何を訊きたいんだ?たしかにこのデートをニコラにはもう提案してあるから……


「まあ、そういえなくもないかな」

「だったらもうそういう事はもうやめてくれ!!」


 そう叫ぶとケイはカフェテリアを飛び出していった。

 な、なんだよケイの奴。人の好意を無下にしやがって。たしかにこっちの思惑もあるけれど、それと同じくらいおまえたちには幸せになって欲しいのに!




 演劇のクラスで台本の読み合わせをしていたらパメラに心配されてしまった。


「シュウ、あなた大丈夫なの?せっかくのコメディーも怒りながら演じたら台無しよ!」

「すいません……」

「毎日ちゃんとご飯食べてる?お腹がすくと人は怒りっぽくなるもんだよ!」

「そういえばここのところちゃんと食べてないかもしれません」

「ああ、原因はそれだね!今日はちゃんと晩ご飯を食べるんだよ!いいね!」


 そんなこと言われても、食べる気力も、お金も底をついてしまっている。

 授業を終え部屋で一人空腹と闘いながらトーフルの勉強をしていたら真由子さんがやって来た。


「シュウスケ、いる?開けてくれない?」


 はぁ、どうしよう。前までだったら一も二もなく開けていただろうに。ここの所のごたごたによるストレスで、僕はどう真由子さんと接すればいいか完全にわからなくなっていた。


「シュウスケ、いるんでしょ?大丈夫?開けるよ!」


 ま、待ってくれよ。もし僕が裸で寝てたりしたらどうするつもりなんだ。ああ、もう。こうなったら寝たフリでやり過ごそう。僕は音を立てないように机に突っ伏した。


「あ、寝てたのか……」


 僕の狸寝入りが上手くいったのか、真由子さんは僕を起こさないように声を殺している。やがてドアのしまる音がしたのでドアの方を振り向いてみると、そこには真由子さんがいた。


「どうして寝たフリなんか?」

「あ、真由子さん、どうして僕の部屋に?」


 今起きたのだとすっとぼけてみる。


「パメラがシュウのことが心配だから話を聞いてやってくれって」

「ああ、パメラに言われたから来たんですね」


 そりゃそうだ。じゃなきゃ自分から会いにきてくれるわけがないよね。


「もちろんそれもあるけど、私もずっとあなたの事心配してたのよ。どうして突然私の事避けるようになったの?」


 え?それ本気で言ってます?


「僕が避ける?先によそよそしくなったのは先輩じゃありませんか」

「そりゃあ、ミラのことがあって、シュウにあんなこと言っちゃったのが申し訳なくて……。でも私がそのことを謝ろうとしてもシュウはいつも私を避けてたでしょ?」


 あれ?ひょっとしてこの人には僕の気持ちが全く伝わっていないのか?……まあそれも当然か。僕は伝えるべき事を何も言ってないんだから。どうせなら今ここで言っちゃうか?そうすればきっとスッキリトーフルに向き合えるだろう。


「先輩、あの実は……僕……」


 喉の奥がどんどん締め付けられていく。言え、言っちまうんだシュウスケ!


「実は僕、今度のトーフルいい点取れそうになくて……。それで先輩に会わせる顔がなかったんです」


 ああ〜!ここまで来て僕は何も言い出せないのか。


「なんだー。そんなことだったの?わたしはてっきり……」


 てっきり……なんですか?


「そういうことならまたおばちゃんのところで勉強会しようか。おばちゃんのチャーハン食べればシュウスケもあっという間に元気になるって」

「……そうですね。じゃあそのうち……」

「今からじゃだめ?」

「今からですか!?」


 この人は一体何を考えているんだろう……?




 おばちゃんのレストランに移動し、いつも通りチャーハンコンボを注文する。しかしいつもなら飲み物のようにお腹に入っていくおばちゃんのチャーハンも今日は少しも食べる気が起きない。


「ほんとに体調悪いんだね。勉強はまた今度にする?」


 僕の体調の善し悪しはおばちゃんのチャーハンが食べれるかどうかで決まるんですね。

 そう思ったらなんだか笑えて少し元気が出た。


「大丈夫ですよ。もう少し食べてればちゃんと元気になりますから」


 そんな気は全くしないが、また2人でここに出直す事を考えるとそれだけで胃が痛くなる。


「ねえ、シュウスケ……こんな事訊いて嫌な思いさせたらごめんね」


 ああ、来たぞ。やっぱり真由子さんは僕が好きだってことに気付いてたんだ!そして僕はもう1度ふられるんだ!


「ケイとニコラを取り合ってるって噂、本当なの?」


……ふぇ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ