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好きなわけないでしょ!

 とっさに自分の部屋へ逃げようとしたら、ミラの長い脚にランドリーの出口を塞がれてしまった。


「女がここまでしてるのにどうして逃げるの?」

「当たり前だろ!そっちこそどうして初対面の人間にそこまで積極的になれるんだ?」

「一目で恋に落ちた……って言ったら信じる?」

「信じないよ!どうみたってそれは獲物プレイを狩る目だ!」

「気に入ったのは本当なのになぁ〜」


 ああ、絶体絶命。ミラの目がネコ科の大型動物のように光っている。僕はこんな所でバージンを失ってしまうのか?


「こんなところで男を漁るな!」


 真由子さんの空手チョップがミラの頭に入った!助かりました、ナイスタイミングです。危うくプレイになるところでした。


「くっそ痛いんだけど……なんで邪魔するの真由子ぉ?」

「いい加減にしないと今日泊めてあげないよ!」

「……ちょっとくらいいいじゃん。こうでもしなきゃお金持ちと知り合う機会なんてなかなか無いんだからさぁ」


 お金持ち?ひょっとしてこいつ僕がお金持ってると踏んでモーションかけてきたの?残念、貧乏人でしたー!


「留学生が狙い目だからってシュウスケを口説くのはやめて!」

「あらぁ?ひょっとして真由子、その子の事好きなの?」


 え?このタイミングででそんなこと訊いちゃうの?僕にはまだ心の準備が——


「違うわよ!好きなわけないでしょ!」


 ……違うのかー。好きじゃないのかー。まあ、うすうすわかっていたけどさ……。ケイが僕の恋バナをした時興味津々でしたもんね。


 それにしても、実際にあなたの口からそう言われるとダメージが大きいですね。


「シュウスケはもうすぐ大事なテストを控えてるの!その邪魔をするようならミラでも容赦しないからね!」

「そんなことより……ちょっと少年……大丈夫?」

「……大丈夫。ノープロブレム」

「真由子、あんたがトドメさしてどうすんの」

「へ?」


 ミラ、それ以上は何も言わないで。どうかこれ以上僕の傷を拡げないで!なんとか話の流れを変えなくちゃ……


「そういえばミラ、僕は金持ちでもなんでもないよ」

「え、マジで!?留学生って真由子以外はみんなお金持ちなんじゃないの?」

「私以外はって何よ」

「だって真由子ずいぶん苦労してるでしょ?この子のメンター引き受けたのだって、学校の寮がしまってる間、住処が確保できるからだって言ってたじゃない」

「ちょっと、今そんなこと言わなくても!」


 あれー?流れを変えたはずなのになー。なんで僕はまたダメージうけてるんだろう。

 最初からこれが仕事だってことはわかってたんだけどなー。なんか真由子さんのあの優しさが全部お金のためだったように思えて……


 あれ?洗剤が目に入ったかな。アメリカ製はよく染みやがる。


「シュウスケ、違うの!……最初はたしかに住む場所のためにやってたけど、今は心からあなたの事を応援してるのよ?だから……次のトーフルも頑張ろう!ね?」

「アハハ、もちろんですヨ。次はちゃんと奨学金をもぎ取ってみせます」

「……じゃあまたね。ほらミラ、私の部屋にいくよ!」


 そう言って真由子さんはミラの腕を引っ張っていく。


「ごめんなさいね少年ボーイ。今度はアーグルトンであいましょう!バーイ」


 真由子さんに引きずられミラはランドリーから姿を消した。




 地下で呆然としていたらニコラがやって来たのでいつものようにプールを始める。


「今日のシュウは一段と弱いねー。真由子と何かあったの?」


 ニコラが9番の玉を落としながら訊いてくる。


「ど、どうしてそのことを……」

「シュウがそんなに動揺するなんて真由子の事くらいかな〜と」

「べ、別に僕たちはなんでもないし……」

「あれ、そうなの?私てっきり真由子とシュウは付き合ってるんだと思ってたけど」


 そうか、ニコラにはそんなふうに見えていたのか。できるのなら僕の記憶を、ニコラの見ていた光景で上書きしてしまいたい。


「よければ私が話を聞こうか?」


 気付けば僕はニコラに僕の気持ちを、そして今日起こったことをありのまま話していた。




「——というわけで目の前で振られちゃったんだよ。これで僕の恋は終わった。まあおかげでトーフルに集中できるからいいんだけどね……」

「ねえ、私にはどこがダメか全然わからないんだけど?」

「どこって……全部?」


 ニコラはいったい何を言ってるんだ?もうどこにも希望なんて無いのに。


「話を聞く限り、シュウはまだ真由子に好きだって言ってないんでしょ?」

「いや、そのまえに好きじゃないって言われたんだから……」

「それはそのビッチにけしかけられてそう言っただけでしょ?シュウが好きだって言えば、真由子の気持ちも変わるかもしれないじゃない!」


 えー?さすがにそれは無いだろう。あの真由子さんの申し訳なさそうな顔を見たらニコラもこんな事は言えまい。


「それにしても、ニコラがそんなに僕の恋路を応援してくれるだなんて意外だな。やっぱりイタリア人はそう言う話が好きなの?」

「そんなんじゃないよ……。ただ、もしこれで2人の中が悪くなったら前みたいに4人で出かける事できなくなっちゃうんだよね?」


 あ、そうか。このままお互い気まずくなったら、あの楽しい時間はもう戻ってこないのか。せっかく僕なりのボストンデートコースを考えてたのにそれも無駄になってしまうんだ。


「ねえ、シュウはもう晩ご飯食べた?」

「僕はお金無いからいつも夜は食べてないよ」

「それじゃあ私が何か食べさせてあげようか?真由子の事とかもっといろいろ話したいし」


『えー悪いよー』と普段の僕なら言うだろう。しかし精神的に参っている僕にはニコラの暖かさが救いだった。


「ゴチになります、ニコラさん」

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