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壁の花の真由子

「どうですか?いっしょに」


 カナッペの皿を真由子さんに差し出しながら訊いてみる。すると彼女はいつもの元気はどこへやら、力なく皿を受け取った。


「ありがとう。シュウスケ……」


『それ、似合ってますね』と言ってみようか迷ったけど、ただでさえ恥ずかしがってるのに追い討ちをかけることになるかもしれないのでやめておいた。

 なんていうのは言い訳で、ホントはそんなセリフ恥ずかしくて本人を目の前にして言えないだけなんだけどね。

 ああ、どうしたら女の子を素直に褒められるんだろう。ケイは興味の無い女の子の服装ですらちゃんと褒めてあげてるというのに。

 そんな事を考えていたらなんと真由子さんの方から話を振ってくれた。


「ねえ、このドレス変だよね?」


 ここで『いえ、似合ってますよ』と言えばミッションコンプリートだ!


「へ、変じゃないです」


 どもった!これじゃあ本心では変だと思っているように取られかねない!


「スタイリストさんも褒めてましたし……僕もいいと思います」

「ありがと」


 よし、あのオネエさんを隠れ蓑にしたが、自分の気持ちをなんとか伝えることができたぞ。真由子さんも少しだけ笑顔になった気がする。


「あ〜あ、これが壁の花ってやつなのかな〜?」


 ん?壁の花ってなんだ?きれいな女性の事かな?あなたが花なら僕がキレイに咲かせたい、なんてね。言えないけどね。


「欲しいモノがあれば言ってください。僕が取ってきますから」

「ありがとう、シュウスケ。じゃあ、あそこのエビをお願いできる?」


 僕は壁の花にたっぷりと栄養を与える庭師となった。



「加納くん、壁の花を愛でるのも一興だが、独り占めは良くないよ。2人ともこちらに来たまえ」


デザートも食べきって油断していた所にリアパパからのお誘いが入った。


「シュウスケ、お願い。背中かくして」

「え!?」


 真由子さんが泣きそうな声で嘆願してくる。でも隠すってどうやって?逡巡の隙に真由子さんはリアパパの方へと歩いていく。ああ、あなたの後ろについて他の人から背中を見えないようにしろってことですね!

 真由子さんの背中はとてもきれいな曲線を描き、うねりながら前へと進む。緊張のためか肩甲骨の動きがどこかぎこちない。がんばれ真由子さん!

 僕の役目は他の人にこの白磁のような肌を見せないのことだ。しっかり後ろについてますからね!うーん、役得。


「おいおい、加納くん。君は彼女の付き人かい?パートナーならしっかり並んで歩きたまえよ」


 え?そんなこといわれても!この場所こそが僕のベストポジションなのに?どうしましょう真由子さん?

 あれ?真由子さん、なんで足を止めてるの?それは僕に横に来いっていってるんですか?恥ずかしがる真由子さんを横目に僕は彼女の隣りに立つ。


「そうそう。それでこそ絵になるというものだ」


 両の指をL字にした窓から僕たちを覗きながら、リアパパがうれしそうにうなずいた。あなたのせいで真由子さんがゆでだこになってますよ〜!


「よし、あとは腕を組むんだ。組むと言っても加納くんは何もする必要ないぞ。女性の方から腕をかけるんだ」


 え?なにそれ!?


 真由子さんが僕の腕に手を絡めてくる。女の子と最後に手をつないだのって……あ、これまで女の子と手をつないだ事なんて無いや。全神経が腕に集中する。真由子さんの腕がかかる肘だけが燃えるように熱い!


「桜色の優雅なドレスに、女性を際立たせる漆黒のタキシード。テーマは日本人にあわせて夜桜ってところかな。あいつも粋な真似をする」


 あいつってオネエさんのことかな。まあ、そんなことはどうでもいい。はやくどうにかしないと2匹のゆでだこが煮崩れしてしまう。


「もうすぐ独立記念日の花火が始まるそうだよ。せっかくだからここから見ていってくれ。なかなか素晴らしい花火だそうだよ」


 リアパパはそういうと他の人たちのところへ行ってしまった。僕たちは腕を組んだままそっと壁際に戻る。


「先輩……顔、真っ赤です」

「そういうシュウスケこそ」

「女の子と腕組んだのなんてはじめてで……」

「あ、ごめん!」


 ああ、離さなくってもいいのに!


 そんなことがあったせいで、ホテルの窓から見る花火には少しも集中できなかった。右腕の残り火だけが「これが恋だ!」と熱を放っている。


 結局この日は独立記念日のお祭りに参加することはできなかったが、それ以上に素晴らしい経験をつんだ1日だった。花火のあとはホテルのバスがリア様をのぞくメンバーを全員学校に運んでくれる運びとなった。


「今日は最高だったな……」


 柔らかい座席に沈み込みながら僕がもらすと隣りに座っているケイが愚痴をたれた。


「俺だってニコラがきてくれていたら……」


 すまんな、ケイ。ひょっとしたらお先にカップル成立なんて事も……グフフ。ん、よだれが……おっと、借り物の服で拭うわけにはいかないな。


「ケイ、この服いつ返せばいいの?」

「何言ってんだ?これ中院会長からのプレゼントだぜ?」


 え、まじで?ここにいるみんなのドレスとタキシードをプレゼント?ゆでだこになってたからろくにお礼も言えてないのに!


「まあ、娘を雨から守ってやったんだから、堂々と受け取っておけばいいさ」


 雨でこれなら銃弾の雨から守ったら家でも立っちゃいそうだな。いや、マジで。

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