最高の額縁
女性陣を待つ事1時間、ついに彼女らの準備が終わったようだ。部屋の扉がノックされる。
真由子さんのバスローブ姿……楽しみだなぁ。などと考えていた僕の期待は裏切られた。といってもいい意味で。女の子たちがドレスアップして現れたのだ!
「おお!素敵なレディたちのお出ましだ」
ドレスで着飾った淑女たちをリアパパが腕を拡げて出迎える。
「こんな素敵なドレスをありがとうございます、おじさま」
そういってきれいな女の子がリアパパとハグをした。あれ?あんな子さっきまでいたっけ?
「高橋の娘さんだね。こんなに大きくなって……」
え!?あれ高橋さん?『こんなに大きくなって』とは目のサイズの話ですか?いつもの5割増で大きいんですが。
リア様を見ると大人の魅力が際立つドレスを着ていて目のやり場に困る。その姿を見たリアパパは一瞬困ったパグのように顔をくしゃっと歪めた。それを見てリア様が笑ってるという事はきっと計算づくであの格好をしてきたんだろう。うーん、少し険悪なムード?
「……さあ、紳士諸君!この花たちをより美しく見せるのが君たちの役割だ。衣装は用意してあるから好きな物を着てきなさい」
なるほど、これからが僕たちの着替えタイムか。ところで真由子さんをまだ見てないんだけど……?
部屋を出ようとしたら入り口の近くに真由子さんを見つけた。華やかなピンクのドレスがとてもよく似合っている。キレイなんだからもっと自信たっぷり部屋の真ん中に出て行けばいいのに。
そんなことを思いながら横を通り過ぎると、ドレスの背面が腰まで大きく開いていた。セクシー!
ホテルのスタッフに案内されて入った部屋には様々なパーティードレスやタキシードかズラッと並べてあった。なるほどこの中からレンタルする感じなんだね。
「ケイ、僕どんなの選べばいいかわからないから教えてくれよ」
「えー、めんどくさいなぁ。基本ここにある物はサイズさえあえばどれでも大丈夫だよ」
そういうとケイは自分の服探しに専念してしまった。僕はいったいどうすればいいのだろう?
「あら、何かお困りかしら?」
「ええ、何を選んだらいいのかわからなくて……」
振り返るとそこにガタイのいい“オネエ”さんがいた。
「サイズはこのスーツと同じものでお願いします」
「あら。流行の型ではないけどシルエットがいいわね。探してるのはモード?クラシック?」
スーツ好きはみんなシルエットが大好きなんだなぁ。ところでモードとかクラシックってなんのこと?
「ケイ〜!モードってなんのこと〜?」
「クラシックにしておけ〜!」
ケイがああ言ってるんだ。クラシック?でお願いします。
「さあ、あなたはどんなふうになりたいのかしら?」
「たしかおじさんは花をキレイに見せるのが僕の役割だ、って」
「あら、おじさんって雅哉様の事?渋いわよねあの方♡」
「え、ええ……」
この人に任せておいて大丈夫だろうか。シースルーとか裸ジャケットとか着せられそうで怖い。
「それであなたは誰の額縁になりたいの?」
「額縁?」
「そう。女の子が花であり絵画なら、男は花瓶であり額縁。あなたたち次第で花は咲き誇りもし枯れもする……」
そういいながら僕の体をまさぐってるのは体のサイズを測ってるだけですよね?そうだといってよオネエさん……。
「あなたが飾るのは華麗な赤いバラ?それとも大きなお目々の白百合かしら?」
きっとこれはリア様と高橋さんのことだな。
「僕なんかじゃあの人たちの相手はとてもとても……。レベルが違いますから」
「それじゃあピンクのカーネーションかしら?」
あ、これは真由子さんのことっぽい。
「どうしたらそのカーネーションをきれいに見せることができますか?」
「オッケー。あの子のドレスも私の見立てなのよ。あなたを最高の額縁にしてあげる♪」
それはうれしいけど僕の耳元で喋るその癖、どうにかなりません?
オネエさんの見立てでいくつものタキシードを試着し、サイズをつめ、ようやく額縁になることができた。
「素敵だわぁ。それであの子といっしょに踊ってご覧なさい?一躍パーティーのスターよ」
「いや僕、踊りとか無理ですから」
「じゃああの子の隣りを常にキープしておきなさい。それだけで雅哉様からお声がかかるはずよ」
別にお声はかけられたくないけど、アドバイス通り隣りに立とうと思います!
髪のセットが終わると女性陣の待つパーティー会場へと案内された。きらびやかな空間に散る女性陣はまさに美しい花のようだ。大きな窓からはきっといつもならボストンの夜景を楽しむことができるのだろうが、あいにく今は小雨がぱらついていて、見るものもない。だから僕の視線は自然とピンクのドレスを探していた。
女の子たちは飲み物を片手に談笑しながらも、入ってきた男どもをしっかりチェックしているようだ。『私にふさわしい王子様は誰?』とでも言いたげな雰囲気。男子5人に対して女子は11人もいるので、まずあぶれる男はいないだろう。
案の定男どもは散りぢりにお目当ての女子の所へ向かっていく。ただしケイだけは興味が無いようで、さっそく料理をつまみだした。もっともやつにはほっといても女の子が集まっていくのだが。
僕の目当ての女の子は壁際に背中を向けて存在感を殺そうとしていた。きっと大きく開いた背中を見られるのが恥ずかしくて、あの場を離れられないのだろう。僕は目についたカナッペの皿をふたつとり真由子さんの元へと向かう。