スタチューオブボストン
7月4日。
今日は真由子さんがリア様たちとの懇親会を計画した日だ。この日はアメリカの独立記念日で学校が休みになるらしい。
前回の反省もふまえて集合場所は現地とし、僕たちは電車でリア様ご一行はタクシーで移動する事にしていた。
電車の中には僕とケイと真由子さんの3人しかいない。ニコラはケイが一応誘ってみたが、他の人たちもくるならと、すげなく断られてしまった。
「あー……ニコラこないならやっぱり帰ってもいいですか?」
「ちょっと、そんなこと言わないでよケイ!あなたを連れて行かなかったら私がみんなに責められるじゃない!」
「そうだぞ人気者。ちょっとは紳士らしい所を見せてくれよ」
有名税ならぬイケメン税だと思ってくれや。
目的の駅で降りるとすでにすごいひとごみだった。
「え、なんですかこれ!?こんなに規模の大きいお祭りなんですか?」
「そうよ!ボストンポップスっていう人気のある楽団が無料コンサートを毎年開いてるの!有名人がゲストに来たりするそうだから、音楽ファンが50万人集まるそうよ」
「50万人!?」
だめだ、規模がでかすぎて想像できない。地元の人口の10倍以上ってどういうこと!?
「さて、はやく中院さんたちと合流しなくちゃね。誰か携帯かけてくれる?」
「ケイ、早くかけてよ」
「は?何で俺が?っていうかあいつの番号なんて知らないよ?」
あれ?ひょっとして誰も番号知らないの!?このままじゃ合流できないじゃん!
あぁ……駅周辺なんて曖昧な集合場所にすべきじゃなかった。人が多すぎる上、流れにのってそのまま会場入りしててもおかしくない。とりあえず手分けして探し、見つけたら連絡するという手はずで僕たちはちりぢりになった。
しかしどう考えてもこの人ごみで誰かが見つかるわけも無い。7月にしては寒い風が吹いてるし、やつらはとっくにどこかに避難済みかもしれない。
どこか人目につきそうな座れそうな場所がないかを探すと、ちょうど銅像の前で
写真を撮っていた人たちがいなくなるところだった。
像の台座に座って一息つく。ボストンにはこういう歴史的な像があって観光するにはおもしろい。しかしもう少しベンチを増やしてくれてもいいと思うんだが。
そんな事を思っていると突然誰かが後ろからツンツンと僕の肩を叩いた。ひょっとしてリア様の方が僕を見つけてくれたのかな?ところが振り向くとそこには誰もいなかった。
え?リアルな錯覚?ひょっとして霊現象?台座の裏にも誰も隠れていない。これはひょっとしてひょっとするかも?僕がキョロキョロしてると周りの人たちがこちらを見てなにやら囁きあっている。あの人たちには何かが見えているのだろうか!?
僕には何も見えないので耳をすましてみる。するとすぐ後ろでかすかな物音がした!バッと振り向くと銅像がぴたっと動きを止める所だった。
ああ、これ大道芸だ!僕が気付いた途端周りの人から笑いが溢れた。つられて僕も笑い出す。銅像が差し出す手に握手で応えると周りからフラッシュがたかれて、
一時的に人気者の気持ちが味わえた。
「加納くん、こんなところでなにをやってるんですか?」
リア様が探すまでもなく現れてくれた。
「リアさんたちを探してたんだよ」
「その割にはずいぶんと楽しそうでしたね」
「こうしてればきっとそちらから見つけてくれると思ってね!」
「まあ、じゃあ私はあなたの作戦にまんまとハマってしまったんですね」
まあもちろん作戦なんて無かったんだけど。リア様が笑ってくれてるならそれでオッケー。
「それで他の子たちはどこにいるの?」
「それが皆さん迷子になってしまって……」
迷子はひょっとしてリア様の方では?と思ったけど我慢して飲み込む。デリカシー。
「携帯でみんなに連絡とればいいんじゃない?」
「それが携帯のバッテリーが切れてしまいまして……」
「え!?じゃあ僕の使っていいから、みんなに場所教えてあげなよ。きっと大慌てで探してるって」
「それが……誰も番号のわかる人がいなくって……」
ああ、これで役立たずが4人になってしまった。
ケイから連絡があったので、みんなで1度近くのカフェに集まることになった。どうやらリア様の取り巻きたちは会場の奥の方まで探しに行ってしまい、簡単には集まれないそうだ。
「ご迷惑をかけて申し訳ありません」
「気にする事無いよ。これだけ人がいたら仕方ないって」
「ありがとうございます……あら、雨?」
うわー。泣きっ面に蜂とはこの事だな。しかしリア様は運がよろしいようで。
「折り畳み傘とレインコート、どっちがいい?」
「なぜそんなに準備がいいんですか?」
「以前ケイが紳士的にハンカチを取り出すのをみて以来、こういう事態に備えてるんだよね」
「高岡先輩のためですね?」
「……ほら、どっちにするの?」
あぁクソ。女の子に自分の好きな人を知られてるのってこっ恥ずかしいなぁ。