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ひとり部屋騒動

 僕が朝起きた時にはまだ寝てたのに、いったいケイはどこに消えてしまったんだろう?ここのところ落ち込んだり元気になったり……ひょっとして何かの病気だったのか?


 などと僕が途方に暮れていたらドアの錠が開く音がした。


「ケイ!?」

「ごめんねケイじゃなくって」


 現れたのは真由子さんだった。


「これからしばらくひとりでこの部屋使えるんだね。よかったじゃん」

「先輩!?これどういうことです?」

「あれ、ケイから何も聞いてない?ケイね、ひとり部屋に移る事にしたんだよ」

「ええっ!?」


 どういうことだ?一言も相談されてないぞ!


「あの子志望校を変えたんだってね。だからひとりで勉強に集中できる環境がいるってことで——」

「そんな!僕が邪魔ってことかよ、ケイ」

「アハハ、ちがうちがう。落ち込まなくて良いよ。勉強はただの建前なんだから」


……建前?


「いったいどういうことですか?」

「とにかく引っ越し先を見ればわかるよ。ついてきて!」



 引っ越し先は寮から歩いて3分ほどの所にあった。ニューイングランドを感じさせるオシャレな作りの寮である。


「ここがケイの新しい寮よ」

「でも、ここって……」


 戸惑う僕にかまわずズカズカと中に入って行く真由子さん。扉が閉まる前に僕も中に入らないと!


 エントランスの右側にあるエリアの扉をくぐって突き当たりの部屋にどうやらケイはいるらしい。真由子さんがその部屋の扉をノックする。


「ケイ、入っても良い?」

「高岡先輩ですか?今開けますね!」


 ケイが扉を開ける前にすっと真由子さんの前に割り込んでみた。


「よお、ケイ」

「どわぁっ!?……なんだ、シュウもいっしょだったの?驚かすなよ」

「これ、どういうことだよ?」

「いいだろ?ひとり部屋」

「おまえがいなくなったおかげで僕もしばらくひとり部屋なんだけどね」

「ああ、そうなるのか。お互い得したな!」

「得したな!じゃないよ!なんだよ突然!」


 ひょっとしたら学校辞めちゃったんじゃないかって心配したんだぞこの野郎!


「やっぱり、集中して勉強するにはひとり部屋が必要だろ?だから……」

「だからニコラのいるこの寮にきたの?」


 まったく、人を心配させておいてこの男は……。僕より1歩も2歩も先を行ってやがる。




「……そもそもシュウが変なこと言うからだぞ」


あれ?僕何かケイに言ったかな?


「ニコラの部屋に男が遊びにくるなんて聞いて、俺が平気でいられるわけないだろ!」


 おいおいちょっとおちつけ?


「誰もニコラの部屋に男が来るなんて言ってないよ。『ニコラの寮の女子エリアに男子生徒が遊びにくる事がある』って言っただけ」

「……え?」

「だからケイも遊びにいけるね、よかったじゃん。って話だったのに……」


 つまりは全部ケイの早とちりって事だ。こいつはニコラが絡むとホントに周りが見えなくなるな。いつもの紳士モードだったら絶対こんなミスは犯さないだろう。


「ま、まあ、結果オーライだな!これですぐに遊びにいけるようになったし、お互いひとり部屋が手に入ったし……」


 まったく、僕の心配を返せよなぁ。ここは皮肉のひとつでもぶつけておこう。


「おまえはこの部屋で『勉強』するんだろ?誰かと遊んでる暇なんてあるわけないよね」

「そんな事言うなよ……」

「冗談だよ。おまえの恋は応援してやるって」

「ありがとな、シュウ。俺もおまえを応援してるよ」

「あら、シュウスケも誰か好きな子がいるの?」


 ゲッ!真由子さんが後ろにいるのすっかり忘れてた!


「ハハハ……シュウスケの奨学金獲得を応援するって意味ですよ。」


 ナイスフォローケイ!って、そもそもおまえの失言だったな。


「な〜んだ。せっかく後輩の恋バナが聞けると思ったのに」


 この話題が続くのはたぶんまずい。なんとか話題を変えないと……そうだ!


「そういえば先輩、リアさんが先輩とスポーツで懇親会を開きたいって言ってましたよ」

「え!?何でそんな話になってるの?」


 おや、先輩のテンションだだ下がり?やっぱりこの前の事件で苦手意識持ってるのかな。


「リアさんはボストンコモンでそういう約束をしたって言ってましたけど……」

「え?そんな約束してない……


『スポーツの方はいずれジムでお手合わせください。それではごきげんよう』


 ……してたかも。えー?でもあれってどう考えても社交辞令だよねぇ?」


 ああ、先輩をわずらわせてしまいすいません。でも本当のリア様を知ればきっと先輩も仲良くなれると思うんです。


「あいつ案外いい奴なんですよ。先輩もきっとすぐ仲良くなれますって」

「あれ?シュウいつのまにあいつと仲良くなったんだ?」


 ケイが不思議そうに訊いてくる。そうか、おまえはここのところずーっと放心状態だったから知らないよな。


「おまえがパンツ1枚でロックアウトされてたときに仲良くなったんだよ」

「パン1じゃねーよ!シャツも着てたから!」


 ちなみに靴下も履いてたよね、ぷふぅっ。


「そうねぇ、スポーツもいいけど、今度こそみんなでちゃんと観光しない?」


 いいですね!僕は真由子さんと個人的な観光旅行の方がいいですけど。


「ん〜俺はやめた方がいいと思いますよ。あいつらもうボストン近郊はほとんど観光しつくしてますし。次はナイアガラの滝でも見に行かないかって言ってましたよ。よっぽどのものが見れない限りあいつらはノってきませんって」


 ケイがここまでひとを悪し様に言うなんて、何か嫌な目にでもあったのかな?


「もし私が『あの子たちがまだ見た事の無いボストンを見せてあげる』と言ったら……どう?」


 な、なんだってー!?

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