優しさの味
あのあとバーベキューはつつがなく……終わらなかった。
何を思ったのかペッくんがカメラを取り出しリア様の写真を撮り出した。高橋さんを初めとする取り巻きたちはなんとか止めさせたい様子だったのに、なぜかリア様がノリノリだったので誰も口出しできず、ペッくんがさらに調子に乗っていく。
「それじゃあ次はこのソーセージを口に含んで……」
「こうですか?」
「おお!ワンダホー!じゃあ次は舐めてみよう」
「舐める?食べるではなくて?」
リア様気付いて、それセクハラだ!
なお、このあとリア様以外の女子集団にどこかへ連れて行かれたペッくんは、もうバーベキューパーティーに戻ってくる事は無かった。調子に乗りすぎちゃったね。
でも大学警察に引き渡されるよりはマシだと思うよ、うん。
辺りを見回すとケイがホワイト教授から解放されていた。
「そういえばケイ」
「どうした?」
「ニコラが言ってたんだけど、彼女の寮には男の子が遊びにくるらしいよ」
「なんだって!?」
「どの寮も男子エリアと女子エリアに分かれてはいるけど、別に入っちゃダメってことではないみたいだね」
「なんてこった……」
「これで堂々と遊びにいけるじゃん。よかったね」
「……」
「ケイ?どうした?」
ケイがまた黙考の海へ泳ぎだしてしまった。しょうがない、おまえの分の肉は僕が食べておいてあげるよ。焦がしちゃったらもったいないからね。
僕が2人分のバーベキューを楽しんでいると森の方から真由子さんがやってきた。
「シュウスケー」
「先輩!」
「合格したんだってね、おめでとう!」
笑顔で祝ってくれる真由子さんの息が少し弾んでいる。ひょっとして走ってきてくれたのだろうか。
「ありがとうございます」
「連絡を受けて飛んできちゃった。」
ぐは!真っ先に名前を呼んでくれたことといい、走ってきてくれた事といいこの人僕の事好きなんじゃないの?勘違いしますよ!
「でも浮かれてちゃダメだよ。シュウスケはこれからまだまだ頑張らなくちゃいけないんだから」
この状態で浮かれるなって方が無理じゃない?さっきから口角が上がったまんま下がりません。
「頑張るためにも今日はここでしっかり食いだめしておきます」
「あら、おいしそうね。私もちょっともらっていい?」
「どうぞどうぞ。お肉はいっぱいありますから」
ありがとな、ケイ。もうしばらくそのままぼーっとしててくれ。
「でもこんなにいっぱい食べたらおばちゃんのチャーハンは入らないかな?」
おばちゃんのチャーハン?それってつまり——
「合格祝いに今日の夜にでも行こうと思ってたんだけど……」
「おばちゃんのチャーハンは別腹です!」
その日の夜、僕は真由子さんに連れられておばちゃんの店にやって来た。
「真由子、それにシュウも!よく来たね!今日は何をつくろうかね?」
「実は今日シュウがね……」
僕が試験に合格した事を真由子さんが説明すると、おばちゃんは我が事のように喜んでくれた。お祝いだと言って出してくれたごまだんごがとても香ばしくておいしい。
次来た時も頼もうと思ってメニューでごまだんごを探してみる。英語にしたらセサミボールかな?
「ごめんよシュウ。それは特別なお客様にだけしか出してないからメニューには書いてないんだよ」
と、おばちゃんが僕にこっそり教えてくれた。このだんごがおいしいのは、おばちゃんの優しさがつまっているからに違いない。
お腹いっぱいになるまで食べた後は、やはり勉強会が待っていた。ホワイト教授には悪いけど真由子さんに教えてもらった方が断然身に付くような気がする。きっと真由子さん自身が苦労して覚えたことだから、こんなにも教えるのがうまいんだろう。それにしても真由子さん、僕にばかりかまっていて、自分の課題は大丈夫なんですか?
「平気へいき。こっちは基本的に長期休暇中に課題が出る事って無いから」
「え!?じゃあアメリカの子供たちには夏休みの宿敵がいないってことですか!?」
「どうだろうね。さすがの私も小学生の事情はわからないや」
アメリカの子供たちは宿敵もなしに長い夏休みをどうやって過ごしているのだろう。ピザでも食べているんだろうか。
「アメリカの小学生に興味があるなら休暇中にホストファミリーの所にいくのも良いかもね」
「ホストファミリーですか?」
「私の友達も何人か経験してるのよ。学校というコミュニティだけじゃわからないアメリカ人家族の暖かさがわかるんだって。友達がホストファミリーの小学生のかわいさにメロメロだったよ」
それも結構楽しそうだな。機会があったらやってみたいけど、今はトーフルに集中集中!
……真由子さんと一緒にホストファミリーのところへいけたら楽しいだろうなぁ。
……はっ!?集中!!