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中院凛愛の配役

 私が加納くんのことをシュウと呼び始めて2日目、今日はロミオとジュリエットのオーディション当日です。

 もともとシュウにロミオ役を受けさせるために仕組んだこのオーディションの特訓でしたが、思いのほか興が乗ってしまい、昨日は私もずいぶんと真剣にジュリエットの稽古をしてしまいました。


「これならリアもきっとジュリエットに合格できるよ!」


とシュウは笑顔で言っていましたが、受かったら受かったで結構たいへんなのですよ。トーフルの勉強時間は少なくなってしまいますし、それに……もし私がジュリエットをやることになれば彼とキスシーンを演じなくてはならないんですから!


 ステージの脇でそんな事を考えていたら、ロミオ役のオーディションをしているステージ中央がにわかに騒がしくなりました。何が起こったのかよくわからなかったので、隣でジュリエットのセリフを暗唱しているスペイン人の女の子に訊いてみます。


「いったいどうしたんですか?」

「あんた聞いてなかったの?ロミオに立候補した男子5人が全員合格したんだよ」

「どういうことですか!?」

「なんでも卒業発表まで時間がないから、場面ごとでキャストを変えて行くんだってさ。これなら私たちもみんな合格できるんじゃない?」


 それは非常にまずいです。シュウと一緒の舞台に立てるならともかく、他の殿方と恋愛劇をやるだなんてことになりでもしたら……。ここはまずいことになる前に辞退してしまいましょう。


 私がパメラに辞意を表明しようと舞台中央に数歩踏み出したら、パメラとシュウの話し声が聞こえてきました。


「僕は第5部がやりたいんですけどいいですか?」

「オ〜ウ!わたしもラストはシュウに任せようと思ってたんだよ!とびっきり泣かせる話にしておくれ」


 第5部?……ええっ!?どうして2度もキスシーンが出てくる箇所を選ぶんですか!あなたがそんな人だとは私思いもしませんでした!どなたとでも見境無くキスするなんて……。


 あれ?ひょっとしてシュウは私とキスがしたくてこのシーンを選んだのでしょうか?昨日は私に合格の太鼓判を押してくれましたし、私がオーディションに合格すると確信した上での犯行?

 ……犯行ってなんですか!落ち着きましょう、私。


 私が思考の迷路に陥っているとパメラのやたらと大きい声がホール中に響き渡りました!


「このあとはジュリエットのオーディションだよ!さあ男ども、さっさと場所をあけな!」


 どどどどうしましょう!このまま辞退してしまうと加納くんと他の子のラブシーンを見るはめになります。もともとはそういう計画だったのに、どうしてこんなに動揺してしまってるんでしょう。

 だからと言ってこのままオーディションに合格してしまっては、私が他の男性とラブシーンを演じなければならないかもしれません!いったい私はどうすれば!?


 パニクる私の横をロミオになった方々が台本のセリフを読みながら通り過ぎていきます。その最後尾にシュウはいて、すれ違いざま私に「リアならできるよ」と甘い囁きを残して去っていきました——。




 結局オーディションは志望した全員が合格してしまいました。ええ、もちろん私も含めてです。

 合格した様々な人種の女の子たちを見回してパメラがそれぞれにどの場面をやっていくかをふっていきます。先程シュウにはやりたいシーンを選ばせていましたのに!


「さてリア!あんたがやるのは……」

「パメラ!私第5部をやりたいです!」


 どうせやるならせめてシュウと同じシーンをやらせてください!


「オウ、それはちょうどよかった!私もそうしようと思ってた所だよ!」

「え、どうして?」

「理由は3つある!ひとつ目はアンタはこの中で一番線が細いからだ!」


 え?今私がこの中で一番痩せてるって言いました!?なんだか突然ジュリエットをやってもいいような気がしてきました!!


「第5部のジュリエットは仮死状態にならなきゃならない!そんな儚げな雰囲気が一番しっくりくるのがリア、アンタなんだよ」

「わかりました。頑張ります!」

「おや、もう納得したのかい?じゃあ他の理由は聞かなくていいね!」

「いえ、ぜひ聞かせてください」

「オウケイ!ふたつ目にロミオ役とジュリエット役の出身国を合わせてみようと思ってね。タイ人はタイ人同士、スペイン人はスペイン同士って具合にね!」


 なるほど、それぞれの地域ごとに特色のある劇となればとても面白いものができるんじゃないでしょうか。


「そして3つ目は……」


 そう言うとパメラは私を手招きし嬉しそうな声で囁きます。


「私は恋する生徒を応援してやりたいんだよ!」


 私はパメラの口からそんな言葉が出るとは思いもせずポカンとしてしまいました。


「シュウを注意深く見ていたら、ヤツがリアのことを想定しながら演技をしている事がわかったよ!そしてあんたがシュウに熱い視線を送っている事もね!」

「ち、ちが」

「違うとはいわせないよ!それともなにかい?2人で第5部をやろうって約束でもしてたのかい?」

「複数人でジュリエットをやると言ったのが先程なのにそんな約束なんて……」


 そう言った瞬間、この間の加納くんとの会話が頭の中でフラッシュバックいたしました。


『加納くんの自決シーン楽しみにしてますね』


 ……シュウに第5部を選ばせたの私じゃないですか〜〜っ!

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