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中院凛愛の迷走①

 地下での会食は大成功と言うわけにはまいりませんでしたが、そこそこいい結果を出すことができました。


 おいしい料理を目の前にして初めはおどおどとしていたマキちゃんでしたが、お米の入っているミネストローネをきっかけにニコラと話せるようになり、最終的にはみんなと英語で会話をすることができたのです。


 食後のお菓子を食べているときにマキちゃんが、「こんなことならもっとしっかり英語を勉強しておくんでした」と言ったときは『遅いです!』と言いたい気持ちと同時に温かい感情が胸にあふれてきました。どうやらマキちゃんは友達と言う宝を見つけることができたようです。




 マキちゃんが食後のお菓子を食べ過ぎるという微笑ましいハプニングがあった後、ニコラと桜井くんが寮に帰りました。その流れで加納くんもそのまま部屋に帰ろうとしていますがダメです、帰らせません。いい加減トーフルの家庭教師になってもらえるよう話を付けなくては!


 私はマキちゃんに先に部屋に戻ってもらい、加納くんと2人きりになったところで話をしようとしたんですが……なぜか本題が上手く切り出せません。手にはなんだか嫌な汗をかいています。どうして『勉強教えて』の一言が言えないのでしょう?


 私が悩んでる間に加納くんは自分の夢を語りだしました。


「僕の将来の夢は……ハリウッドで活躍することなんだ」

「それは素晴らしい夢をお持ちですね。私応援しますよ!」

「……あ、ありがとうリアさん」


 あれ?なんだか反応が微妙ですね。あ、ひょっとして私上の空だったでしょうか!?私ほんとに加納くんの夢を応援してるんですよ!え、えーっと、


「では夢の手前、今度のオーディションは確実に勝ち上がらなくてはいけませんね!」

「オーディション?……ああ!僕なら大丈夫。一番競争率低そうなロレンス修道士をやろうと思ってるから」

「はぁ!?何を言ってるんですか!俳優を目指してる方が主役を狙わないでどうしますか!」


 ハリウッドで活躍したいと言う人がデカプリオを目指さずにどうすると言うのです!


「脇役には脇役なりの演じる価値というものが……」

「そんなものはオーディションに落ちたら考えればいいんです。私が加納くんの夢を応援すると言ったんです。ですからちゃんとロミオ役に立候補するんですよ!」

「う〜ん……。じゃあ、もしリアさんがジュリエットに立候補するって言うなら考えてもいいよ」


 ええっ!?そ、それって私に加納くんの恋人役をやれってことですか!?無茶です!未だに私舞台の上で稽古させてもらえてないんですよ?あ、そうです、どうせ私がジュリエットに立候補したところで他の子に決まるでしょうし、ここはハリウッドを目指す加納くんのためにも優しい嘘をつくことにしましょう。


「私なら最初からジュリエットに立候補するつもりでしたよ。それでは加納くんもロミオ役しっかりつかみ取ってくださいね」

「……オッケー。わかったよ」

「加納くんの自決シーン楽しみにしてますね」


 きっと加納くんなら最高に切ないラストにしてくれることでしょう。私は客席からそれを楽しませてもらいますね!




「ずいぶん話がそれてしまったような……。ええっと、何の話でしたっけ?」

「僕の夢の話?」

「そうではなくて……あ、ボストン観光の話でした」


 この話からさりげなく家庭教師の話へ結びつけるのです!


「この話なんですけど……大学に入ってからというわけには行きませんか?」

「なんで?あ、リアさんたちはこの期間中に友達とナイアガラの滝に行くんだっけ。そりゃそっちを優先させた方がいいよ」

「確かにそんな予定もありましたが、そうではなくてですね……その……」


 ああ、神様仏様!どうか私にほんの少しでいいから勇気をください!!


「私、志望校をアーグルトンに変えようかと思ってますの!」


 言えた!ついに言えました!!


「え?僕と同じ大学に……?いったいどういう……」


 あ、まだ言えていません!本題は加納くんに家庭教師になってもらうことでした!焦るな私!!

 あれ?でもどうやってこの状況を加納くんに説明したらいいでしょう?


『お父様に日本に帰らなきゃマキちゃんの支援を打ち切るように言われたから、奨学金など学生への支援が豊富なアーグルトンへ行き、私財を投じてマキちゃんを美容師学校へ入れてあげる』何て言えませんよね。これではいくら何でもお父様が狭量すぎます。……実際そうなのかもしれませんが、身内の恥を高らかに謳うのははばかれますし……。

 あ、そうです。以前加納くんに言ったことを利用して——


「私独り立ちするためにアメリカに来てますでしょ?それなのに私の行く大学には大勢の日本人がいて、この語学研修所からも大勢の友達が来ます」

「あ〜、たしかに独り立ちするには難しい環境かもしれないね。でも支えてくれる友達がいるってのは大切な事だと思うよ」

「ひょっとしてマキちゃんの事を心配してくれてます?実はあの子には別の学校を受けさせる事を考えてるんですよ」

「え、どうしてそんなことに?」

「マキちゃんには加納くんと同じように夢がありまして、昔から美容師さんになりたかったそうです。それが高校3年生の時に、つまり私が留学を決めたときにですね、突然彼女のお父様から留学して私のお世話を見るように言われたそうなんです。言い換えれば私のせいでマキちゃんの夢を奪ってしまったのに、それでも彼女は精一杯私の面倒を見てくれました。だから私は彼女に報むくいようと思うのです!」

「具体的にはどうしてあげるの?」


 そのことに関しては留学アドバイザーの方に相談し既に候補を3つにまで絞りました。あとはマキちゃんと話し合うだけになっています。



「現在、美容師学校は日本よりむしろアメリカの方が立派なんだそうです。ですからマキちゃんにはこちらの美容師学校に通ってもらおうかと思ってます」

「本人にはそのこと……」

「言ってません。まだ計画の段階ですから」

「でも、リアパ……リアさんのお父さんはマキちゃんをお世話係として雇ってるんだよね?それなのに美容師学校って、お金出してくれるの?」


 くれないんです!ひどいですよね!ああ、何もかも愚痴ってしまいたい。


「学費はお父様に面倒を見させます。彼女の未来を奪おうとしたんだから当然ですよね!」


 ……なんだか嘘に嘘を重ねている感じがしますが、ケチで狭量なお父様と思われるよりはましでしょう。


「じゃあマキちゃんは美容の道を進むとして、どうしてリアさんはアーグルトンに?独り立ちするなら他の学校でも……」


 その瞬間、私の頭の中にチェリーマートで購入した雑誌の文面が思い起こされました。


『好きな人が他の女の子にもちゃんづけしてたら要注意。特別感があなたたちの絆を深めるのよ。2人だけの特別な呼び方を考えてみてね♡』


 ちょっと一緒に晩ご飯を食べただけでどうしてそんなに仲良くなってるんですか!!

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