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頭の中の歯車

 学校のシャトルバスは何も駅との間だけを往復するわけではないようだ。近所のショッピングモールや郵便局にも寄ってくれる。そして夜にはレストラン街などにも行くとのことだった。


 うーん……手持ちが心許ないけど大丈夫だろうか。いざとなれば日本で作ってきたカードがあるけど、これはいざと言うときのためできる限り節約したい。そんな事を考えながらバスを出て歩くこと数分、僕たちは小さな中華料理屋にたどり着いた。


「あ、シュウスケは中華平気?」

「はい。大好物です」

「よかったー。ここの中華はね、台湾出身のおばちゃんが作ってくれるチャーハンがおいしいんだ」


 お店の中に入ると様々な香辛料と揚げ油の香りが押し寄せてきた。ああ、久しぶりだなこの感覚。高校生の時下校途中に寄った餃子のお店がこんな匂いだったっけ。そう思ったら一気にお腹がすいてきた!


「チャーハンは定食コンボについてくるから、メインとサイドメニューを選ぶんだけど、食べたいものある?」


 そういって渡されたメニューには英語で品名が書いてあるだけで、いまいち料理がイメージできない。日本の写真つきメニューって親切だったんだなぁ。


「うーん、何たのんだらいいかわかりません」

「シュウスケの好きな中華料理は?」

「えーっと、酢豚とか春巻き……あ、このスプリングロールってひょっとして春巻きの事ですか?」

「そうよ。よく見つけたわね」


 なるほど、英語を漢字に直せばある程度メニューがわかるかもしれない!春巻きがスプリングロールなら、酢豚はビネガーポークかな?


「でもここで春巻きが食べたいならスプリングロールよりエッグロールがおすすめね」

「エッグロールですか。どう違うんです?」

「うーん、お店によっても違うんだけど、ここではスプリングロールは中身がキャベツなんかの野菜がメインで、エッグロールはお肉が入ってるね。私はエッグロールの方が好き」

「じゃあエッグロールで!酢豚はビネガーポークとでもいうんですか?」

「ビネガーポーク?ああ、たしか酢豚って日本でできた言葉じゃなかったっけ」

「え、そうなんですか?」

「ここで酢豚と似たような物が食べたいなら……ベイジン スタイル フライド ポークがオススメだよ」

「米人スタイル?アメリカ人向けってことですか?」

「違う違う」


 何か変なことでも言っただろうか?真由子さんが必至で笑いをこらえている。


「ベイジンはペキンの英語読み。つまり北京風ってことだよ」


 なるほど。北京ダックならぬ北京ポークか。そいつは楽しみだ。


「ただ、見た目は日本の酢豚とかなり違うんだけどね」


 ん?どういうことだろう。酢豚の見た目なんて変えようがない気がするけど。


「おばちゃーん!チャーハンコンボ二つ!私はいつもので、もうひとつはエッグロールとベイジン スタイル フライド ポークで」


 おお、なんて注文慣れしてるんだろう。この店にはよく来てるんだろうか?


「あら、真由子。そっちは初めて見る子じゃない?ボーイフレンド?」

「まさか〜。チェスナットマナーに語学研修に来てる子だよ。休みが明けたら私と同じ大学にくるんだ」


 まさか〜って言われちゃったよ、とほほ。でも僕の事を楽しそうに説明する姿を見るのはなんだか嬉しい。


「うちの娘もチェスナットマナーに行かせてるんだよ!もっとも正規の学生だから今は夏休みで遊びにいってるけどね!すぐにつくるからお茶でも飲んでまっててね!」


 でかいポットに入っている無料のホットウーロン茶を紙コップに入れて席に着く。


「ひょっとしてポットの隣りの白いのは砂糖ですか?」

「そうだよ。アメリカ人にとって緑茶やウーロン茶は苦味が強いんだって。だから砂糖を入れて飲むらしいよ」


 へぇ、国によって味覚に違いがあるのか。他にはどんな違いがあるんだろう。こういう文化や風習の違いを肌で体感できるのは留学の良い所だなぁ。


「とりあえず、SAT高得点おめでとう!カンパイ!」

「カンパイ」


 そういってウーロン茶の入った紙コップをぶつけあう姿はなんか滑稽だけど、じんわりと幸せを感じる。


「明日はいよいよトーフルだね。自身のほどは?」

「模擬テストでは確実に合格点が取れるようになりました。でもまだ奨学金ゲットにはほど遠いですね」


 僕が現状を話すと真由子さんも当時を振り返っていろいろ教えてくれた。真由子さんの場合は2度目で合格点を取り、3度目の正直で奨学金をもぎ取ったらしい。


「まだ実感が無いかもしれないけど、今シュウスケの頭の中では英語の歯車がどんどん作られてるのね。でもそれはまだかみ合っていない。失敗を怖がらずに何度も何度も英語を使ううちにどんどん歯車が噛み合っていくの」

「そうなんですか……。僕にはまだ噛み合ったって瞬間がないんですけど、どうなったら歯車が噛み合ったってわかるんです?」

「そうねぇ。私の場合は夢だったかな」

「夢?」

「そう。夢の中でも英語を喋ってたの。それ以来英語で物事を考えるのがだいぶ自然にできるようになったかな」


 うーん……僕にはまだまだ縁のなさそうな話だ。昨日見たのはカリカリベーコンが逃げていく夢だったかな?

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