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中院凛愛の躊躇

「ありがとうございました。それではそろそろニコラたちの元に戻りましょう」


 ポケットティッシュのお礼をしてみんなと合流することを提案したのですが、加納くんはまた私が泣き出しやしないかと心配しているようです。


「もう、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ」

「でも……」


 ああ、めんどくさいですねぇ。やっぱり私が加納くんを好きになることなんてあり得ませんわ!

 英語を話してる時はかっこいいのにどうして日本語になるとこんなにダメダメなのかしら。


 ここはいつも通り話をそらしてこの場を切り抜けましょう。


「ところで加納くん、携帯のアドレスを伺ってもよろしいですか?」

「え、僕の?何で?」

「レディーが勇気を出して訊いているのにその態度は無いんじゃありません?」

「ご、ごめん……(勇気?)」

「まあ、何でかと訊かれたら、以前独立記念日のとき友達と連絡が取り合えなくなったからですね。もうあんな事態はこりごりです」

「それってつまり……僕たちは友達ってことなのかな?」

「違うんですか?私は洗濯の仕方を習った時からそうだと思ってたんですが」

「僕はリアさんのこと恋のキューピッドだと思ってたよ」

「うっ……役立たずのキューピッドですいません」

「まったくだよ。女子の中に誰か僕のこと好きな人とかいないの?」


 ええっ!?さっき自分で『みんなから嫌われてる』とか言ってたくせになんですかその物言いは!


 あれ?……ひょっとしてこれは私を笑わそうとしてくださってる?だとしたらわかりにくすぎですよ……。


「残念ながら今のところ加納くんと仲良くしたいのは私だけのようですね」

「じゃあ仲良くなった記念にアドレス交換しようか」

「はい」


 加納くんはもっとスマートにアドレス交換ができるようにならないと女の子と付き合うのは難しいかもしれませんね。それこそ真由子さんのように心が広くて加納くんの優しさに気付ける人でないと彼女になるのは無理でしょう。


「それじゃあケイたちを探しに行こっか」




 桜井くんたちと合流した私たちは水族館のお土産屋にやってきました。ニコラは桜井くんの手を取って楽しそうにぬいぐるみを見ています。付き合うようになったようでめでたしめでたしですね。

 だというのになぜ加納くんはしかめっ面をしているのでしょう?桜井くんに先を行かれてしまったのが面白くないんでしょうか。


「不満そうな顔をしてますね」

「ん?そう見える?」

「レディーといっしょにいるのにそんな顔をしてはダメですわ」

「リアさんと一緒にまわるのは楽しいんだけどさ……」

「まあ、ありがとうございます」


 加納くんの頭の中は真由子さん一色かと思っていましたが、私との時間を楽しんでもらえたなら嬉しいですね。


「ねえ、リアさんは何か買わないの?」

「そうですねぇ……高橋さんたちに何かおそろいのものを買っていこうかしら。そういう加納くんは真由子さんに何か……あっ」


 真由子さんの名前を出したとたん加納くんが遠くを見つめてしまいました。加納くんにデリカシーが無いって言っておきながら、実際は私もデリカシーに欠けているようです。もうしわけありません加納くん。


 う〜ん、お詫びに何かプレゼントしてみようかしら。今日の記念にもなるしいい考えですよね!

 ふと商品棚を見るとかわいらしいペンギンのフォトフレームがあったので、私・友達・そして加納くんの分をまとめて購入いたしました。


 さて、あとはこれを加納くんに渡せば……

 え?加納くんに……渡す?どうやって?


『さっきは酷いこと言ってごめんなさい。これ、お詫びに受け取ってくださる?』


 無理無理無理!私そんなキャラじゃありませんし!そもそも私お父様やお爺様以外の異性にプレゼントを贈ったことがありませんでした!


 ……万策尽きました。このフォトフレームはあとでニコラにでもあげることにしましょう。




 お土産屋を出たあとは加納くんが予約していたステキなフレンチレストランでディナーとなったのですが、マナーのことで桜井くんともめてしまってニコラと加納くんをすっかり怯えさせてしまいました。加納くんなどすっかり固くなってロボットのような動きをしています。あれで料理の味が楽しめるとは思えません。

 料理を楽しむはずの場で友達を萎縮させてしまった私たちこそマナー違反ですよね。

 そっと桜井くんに目をやると向こうもニコラの惨状に心を痛めていたようで、私たちは無言の内に停戦協定を結びました。

 加納くんがプチフールの中身が見たいからとポロポロタルトをこぼしても注意しなかった私偉い。

 桜井くんも、なぜかびっくりした顔で口を開けっ放しのニコラを注意することもなく冷静にコーヒーにミルクを注いでいます。

 テーブルマナーを守るばかりがマナーではないんですね。いい勉強になりました。




 レストランを出てもう一度水族館の前を通った所で桜井くんが大きなペンギンのぬいぐるみを持ってきました。プレゼントされたニコラは子供のようにはしゃいでいます。あ、ニコラは子供でしたっけ。


 それにしてもあんなにスマートにプレゼントを渡せるなんてさすがは桜井グループの御曹司ですね。私だって中院グループの一人娘なのに何をやっているんでしょう……。


 そんなことを考えていたら加納くんの悲痛なつぶやきが聞こえてきました。


「ちくしょういいなぁ……」


 ここです!このタイミングしかありません!


「あら、うらやましいんですか?でしたら今日の記念にこちらをどうぞ。ペンギンのフォトフレームです。よろしければ使ってください」


 渡せました!やればできるじゃないですか私!……もっとも加納くんを傷つけたお詫びだとは言えませんでしたが。


「……まさかもらえると思ってなかったからすごくうれしいよ、ありがとう」

「こちらこそ。突然参加した私に1日付き合ってくださりありがとうございました」

「あ、ひょっとしてこれ友達へのプレゼントじゃないの?」

「よ、よく考えたら1個余分に買っていたのでどうぞもらってください」


 余ってるわけないじゃないですか!何を口走っているんでしょう私は!?ああ、案の定加納くんがいぶかしげな目で私を見てます。


「へぇ、フォトフレームか。だったら記念写真も撮っておかないとな!」


 焦る私に気付いてか桜井くんが私をフォローしてくれました!この方はホントにそつがないですね。

 私はお父様に溺愛されてきたのでゆるっゆるな空気の中で育ってきましたが、きっと桜井くんは厳しい環境下で育ってきたのでしょう。行動の端々には磨き抜かれた所作があり、言葉の裏には積み重ねた知性を感じさせます。イケメンで背も高く、ホストのような髪型もかわいいと評判です。


 それでも私が魅力を感じるのは桜井くんじゃないんですよね……。いったいどういうことなんでしょう?

 あ、ひょっとしてこれが今流行のだめんずウォーカーというやつでしょうか?

 うわぁ〜そんな流行追いたくありません!!

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