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中院凛愛の社交

 留学をやめて日本に帰る……?お父様は一体何の話をしているのでしょうか?


 たしかにお父様に自分の人生を歩んでもらうため私は留学を決意しましたが、お父様が自分の人生を歩みだしたら私も留学をやめるなんて一言も言った覚えがありません。

 そもそも本当に自分の人生を歩めると言うなら私がいなくても問題ないではありませんか!


 私が懇々とお父様を説き伏せようとしたそのタイミングで、エステサロンのバスローブを着た皆様がやってきました。


「おっと、それでは私は男子諸君のところへ退散するとしよう。それでは皆さん、またのちほど」


 そう言い残すとお父様はすたすたと自室に向かわれてしまいました。




「うわぁ、これウエディングドレスじゃないですか!綺麗ですね」


 マキちゃんが興味津々といった様子で純白のドレスを眺めています。今はお父様のことをあれこれ悩むより皆さんとのドレス選びを楽しみましょうか。


「今日選んだドレスはお父様がプレゼントしてくださるようですよ。マキちゃんはこれにしますか?」

「!?いえ、さすがにこれは……」

「冗談ですよ。でもマキちゃんには白いドレスがよく似合いそうですね」

「そ、そんなことありませんよ。こういうドレスはリアさんの方が、その……」


 恥ずかしがるマキちゃんを楽しんでいると、そこに私の赤いドレスを持った笹塚さんがやってきました。


「リア様〜♪せっかくステキなドレスなのにまだ雅哉様に一度もコレ見せてないでしょ?」


 そういえばせっかくドレスを新調したのに、お父様に約束をすっぽかされたせいでお披露目がまだでしたね。こういった大人っぽいドレスが似合うようになったんだということを知らしめれば、お父様も私の留学に賛同してくださらないかしら。




 着付けとメイクを笹塚さんとホテルのスタッフにやってもらい(アメリカ人スタッフに任せたマキちゃんはハリウッド女優のようになっています!)私たちはお父様の部屋へと向かいます。


「おお!素敵なレディのお出ましだ」


 お父様が両手を広げてみんなを出迎えてくれました。さすがにこの場で『私日本には帰りません!』とは言えないのでとりあえず微笑んでおきます。私は空気の読める女なのです。


 皆様との挨拶を軽く交わしたお父様は私のドレスを見ると困ったようにくしゃっと顔を歪めました!レディにたいしてこんな態度を取るなんてあとでお説教が必要かもしれませんね!

 あ、私は空気の読める女でした!にっこり。


「……さあ、紳士諸君!この花たちをより美しく見せるのが君たちの役割だ。衣装は用意してあるから好きな物を着てきなさい」


 私たちと入れ替わるようにバスローブを着た殿方が衣装室へと移動します。最後に立ち上がった加納くんが入り口付近でやっと高岡先輩を見つけました。ピンクのドレスにすっかり見蕩れています。どうやらキューピッドえらんだドレスはバッチリ加納くんのハートを打ち抜いたようですね。




 男性陣が去ったあとで私たちはパーティー会場へと案内されました。少し時間が早まってしまったにもかかわらずビュッフェの料理が着々とテーブルの上にならんでいきます。これなら今日という日をステキな思い出にすることができるでしょう。


「ねえリアさん、こんなに素敵なディナーを用意してもらったのに、そのうえドレスまでもらっちゃっていいのかしら」


 真由子さんが申し訳なさそうに話しかけてきました。


「気にしないでください。全部娘に気に入られたいお父様の浅知恵ですから」

「そう?ところで……やっぱりこのドレス私に似合ってないんじゃないかな?」

「何を言っているんですか!?とっても先輩に似合ってますよ。私と笹塚さんの2人で厳選したんだから間違いありません。男の子たちもみんな先輩のドレスに釘付けだったじゃないですか!」

「そ、それが問題なんだってば……」


 そう言うと先輩は1人で壁際に行ってしまいました。はぁ、きれいな背中をしてるんですからもっと見せびらかせばよろしいのに。




 しばらくみんなでドリンクと会話を楽しんでいたら颯爽とタキシードに身を包んだ殿方が現れました!衣装のせいかどなたも普段より大人びて見えます。桜井くんなど会場に入ってきただけで女性陣がため息をついたほどです。


 たいして加納くんはと言うと……なんとも地味な感じですね。白いタキシードが目立つ中1人だけ夜空のような濃紺をまとっています。笹塚さんに選んでもらわなかったのでしょうか?


 加納くんのチョイスにがっかりして料理に手を伸ばしていたら桜井くんが私のドレスを褒めてくださいました。


「中院さんのドレスとてもステキだね。大人っぽくて」


 なんともそつのない褒めかたですね。私としては少々恥じらいながら褒めてくれるくらいの方が好感が持てるんですが。


「ありがとうございます」

「特にその色がいいよね。君の深い緑色の目によく似合ってる」

「よく私の目の色をご存知でしたね!」


 小さいころはもっと明るい緑色だったのですが、今では言わなければわからないほど濃くなってしまいました。


「小さいころよくその目の色を自慢してたよね」

「え?桜井くんは昔のこと覚えてるんですか!?」

「俺も中院会長に言われるまで忘れてたんだけどさ。中院さん昔はもっと外国人っぽい印象だったから全然気がつかなかったよ」


 どうやら桜井くんには昔の記憶があるようですね。少しも思い出せないのがなんだか心苦しいです。


「正直に言いますと私、桜井くんと遊んだことを全く覚えていないんです」

「え……?全く?本当に!?」

「ええ、申し訳ありません」

「じゃあ、うちのパーティーで一緒に踊ったことも?」

「あら、桜井くんはダンスができますの?」

「ああ。……でも当時は緊張して中院さんの足を何度も踏んづけちゃって」


 その瞬間、私の中の記憶の引き出しが勢いよく飛び出しました!


「あのときのへたくそ!?」

「……うん、そうだね。中院さん俺のことずっと『へたくそ、へたくそ』って……」

「それを見かねたお母様が相手を交代してくださって……」

「ああ。アメリアさんには乗馬に社交ダンス、紳士としての振る舞いかた、いろんなことを教えてもらったよ。本当に惜しい人をなくした」


 まさかこんな所でお母様のことを知る人と出会えるなんて、なんだか少し運命的ですね!


「もしよろしければもっとお母様の話をきかせてもらえませんか?」

「よろこんで。……でもその前に」

「なんでしょう?」

「よろしければ一曲踊ってくださいませんか?」

「喜んで」


 差し出された桜井くんの手を取って、生演奏の流れるホールへと一緒に歩みだします。


「……『へたくそ』って呼ばれたのが悔しくてずっとダンスを習ってきたんだ」


 そんなことを恥ずかしそうにつぶやく桜井くんに思わず吹き出しそうになりました。




 ダンスが終わると女性陣の熱い視線が桜井くんに注がれていることに気がつきました。加藤くんとイイ感じになっていた鈴木さんまで桜井くんにメロメロになっています。


 う〜ん、これはひょっとしたらまずいことをしてしまったかもしれません。

 申し訳ありません加藤くん。

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