中院凛愛の遭遇
本日2話目
私としてはもう何度も乗っているので地下鉄での移動でも良かったのですが、女の子たちが電車に乗るのをを嫌がったので、今回はタクシーに分乗してボストンの街に向かうことになりました。加納くん、桜井くん、そして高岡先輩の3名はTを利用するため私たちより少し遅れるかもしれないとのことでした。
タクシーで街に向かうと待っていたのはかつて無い渋滞でした。どうやら全ての車が独立記念日のお祭りのために来た様で遅々として前に進みません。あちらこちらからクラクションが鳴り響き、スぺースが空いたかと思えば車体をねじ込むように前へ前へと進もうとするものですから、余計に渋滞が悪化してしまいます。
気付けば他の子たちが乗ったタクシーの姿は見えなくなり、マキちゃんと私が目的地についてもそこには誰もいませんでした。
「これはどういうことでしょうか?」
「ひょっとしたら別の駅に向かってしまったのかもしれませんね。この辺はたくさん駅がありますから……」
「先輩たちは?もうついてるはずでしょう?」
「すでに合流予定時刻から15分も過ぎているので、もう会場の奥の方に行ってしまったかもしれませんね」
ああ!日本人同士の親睦を深めるはずがどうしていつもトラブルに見舞われてしまうのでしょう。
「高岡先輩に連絡を……あ、携帯のバッテリーが切れてます!ここの所ずっとホテル暮らしだったから充電するのを忘れてました!マキちゃんは高岡先輩か桜井くんの連絡先……」
「すいません、私がちゃんと訊いてればよかったんですが……。あ、でもみんなとは連絡つくのでちょっと走って呼んできますよ。リアさんはこの広場にいてください。もし桜井くんたちを見つけられたらついでに連れてきますから!」
そう言うわけで私は広場に取り残されてしまったのですが、周囲には大勢のアメリカ人の流れができていて油断していたらあっという間に奥の方まで飲みこまれてしまいそうです。どこか休める場所は無いかと探していると、すぐ近くからどっと歓声があがりました。
声をの方に目をやるとそこにはなんと加納くんがいて、銅像の扮装をしたお姉さんと楽しそうに握手をしていました。こちらは必死に皆さんを探しているというのになんとのんきなんでしょう!
「加納くん、こんなところでなにをやってるんですか?」
「リアさんたちを探してたんだよ」
「その割にはずいぶんと楽しそうでしたね」
「こうしてればきっとそちらから見つけてくれると思ってね!」
「まあ、じゃあ私はあなたの作戦にまんまとハマってしまったんですね」
考えてみれば加納くんたちは私たちより先について、ずっと私たちを探してくれていたはずです。その方法としてこんな奇抜な方法を思いつくなんて、ひょっとしたら加納くんはかなり柔軟な発想の持ち主かもしれません。
「他の子たちはどこにいるの?」
「それが皆さん迷子になってしまって、今マキちゃんが探しにいってくれてます」
「携帯でみんなに連絡とればいいんじゃない?」
「それが携帯のバッテリーが切れてしまいまして……」
「え!?じゃあ僕の使っていいから、みんなに場所教えてあげなよ。きっと大慌てで探してるって」
言われてみたらそうですね。慌てているのは私だけじゃないはずです。みんなろくに英語も喋れないのに知らない土地に放り出されて不安になっているかもしれません。
私は加納くんの携帯を受け取ろうとしてふとあることに思い当たります。
「あ……私誰も番号のわかる人がいません!」
文明の利器に頼るとこういうことがあるからダメですね……。今度からちゃんとメモ帳にも書き留めておくことにしましょう。
私たちが途方に暮れていると加納くんの携帯に桜井くんから連絡が入りました。どうやらマキちゃんたちと合流したはいいものの、私たちとかなり距離があいてしまったうえ、人の流れが激しすぎて戻ってくるのが難しいそうです。
「はぁ……ご迷惑をかけて申し訳ありません」
「気にする事無いよ。これだけ人がいたら仕方ないって」
「ありがとうございます……あら、雨?」
なんということでしょう!私の折り畳み傘はマキちゃんの荷物の中です。これではせっかく早起きしてセットした髪が台無しになってしまいます。
私が今の空模様と似た心持ちでいたら、加納くんがさっと大きな折り畳み傘を取り出しました。ひょ、ひょっとしてこの流れは相合い傘をすることになるのでしょうか?私は構わないのですが、もしマキちゃんたちに見られたらなんと言われることか——
「折り畳み傘とレインコート、どっちがいい?」
そう言って加納くんがカバンから取り出したのはかわいらしい水玉模様のレインコートでした。
「……なぜそんなに準備がいいんですか?」
「以前ケイが紳士的にハンカチを取り出すのをみて以来、こういう事態に備えてるんだよね」
ああ、なるほど。加納くんも桜井くんと過ごすことで紳士的な振る舞いを勉強なさっているんですね。これなら高岡先輩との仲も……あ、ひょっとしてこのかわいいレインコートは!
「高岡先輩のためですね?」
私がそう指摘すると加納くんは耳まで顔を真っ赤にし顔をそらしてしまいました。フフフ、何て純情なのでしょう。
その心情をごまかしたいのか加納くんがぶっきらぼうに訊いてきます。
「……ほら、どっちにするの?」
「では折り畳み傘を貸していただけますか?」
高岡先輩のためのレインコートに私が腕を通すわけにはいきませんものね。
私が折り畳み傘を受け取ると、加納くんは何の躊躇もせずにかわいらしいレインコートに腕を通してしまいました!確かに私の選択はこうなることを意味していたのかもしれませんけど……
あら?ずいぶんレインコートが似合ってますね。ちょっと意外ですが加納くんはこういうかわいい格好をさせると映えるかもしれません。お父様には似合わなかったピンクのシャツやネクタイも彼なら着こなせるでしょうか?是非一度着せ替え人形にしてみたいですね。




