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中院凛愛の本音

本日1話目

 お父様との買物は正直あまり気分のいい物ではありませんでした。なぜならお父様の態度がレディーに対する物ではなく、幼いこどもに接するものだったからです。


「凛愛、このドレスはどうだい?とっても似合うと思うよ。今度の独立記念日に着てくれないか?」


 そう言ってお父様が差し出したドレスはピンクのヒラヒラのとてもかわいらしいドレスでした。たしかに私はピンクが好きですけどそれは明らかに子供用ではありませんか!お父様には私がまだあんな服を喜んできる子供に見えているのでしょうか。


「お父様。あいにく皆様が平服でいらっしゃる場に私だけドレスを着ていくわけにはまいりません」

「そ、それもそうだな。じゃあパーティー用のドレスとして仕立ててみないか?」

「それなら私こちらの方が好みです」


 私はすっきりしたシルエットでウエストを強調するものを選びました。昨日1日ずっと動き回った私のウエストは今がベストコンディションなのです!


「ちょっと大人っぽすぎないかな……。凛愛にはもっとかわいいお姫様のようなドレスが似合うと思うよ」

「でしたらドレスはいりません。さあ、ホテルへ戻りましょう」


 私の言葉がよほど意外だったのか、お父様は一瞬だけエキゾチックショートヘアのように顔をくしゃっと歪めたかと思うと私の選んだ服をオーダーしてくれました。




 お父様の私に対する子供扱いはやむことをしらず、夜には「パパと一緒に寝ないかい?」などといい、朝には「学校は行かなくてもいいからパパと一緒に過ごそう」などと、私が小学校に上がったばかりの頃に戻ったかのような態度を取るようになりました。こんな姿を秘書の方々にみれらたらなんと言い訳するつもりなのでしょう。


 もちろん学校には行きましたが、ホテルに帰ってくるなりお父様の子供扱いが再開しました!


「凛愛、パパと一緒においしいアイスクリームを食べにいこうか」

「凛愛、パパのチョコミントも食べてみないかい?」

「凛愛、1人で歩いたら迷子になってしまうよ。パパと手をつなごう」


 そして極めつけはホテルに戻ったあとのこの発言でした。


「凛愛、久しぶりにパパと一緒にお風呂に入らないかい?」


 さすがにこれにはギリギリつながっていた私の堪忍袋の尾もブチッと引き千切れました。


「いい加減にしてくださいませ!何を考えてるんですか!私を子供扱いするのはもうやめてください!それになんですか『パパ』って。お父様はお父様でしょ!?自分の立場と年齢を考えてください!」

「幼稚園の頃は毎日パパ、パパ〜って抱きついてきたじゃないか」

「それが子供扱いだと言うのです!私はもう幼稚園児じゃないんですよ!もう立派な大学生です」

「そんなに急いで大人にならなくてもいいじゃないか。凛愛にはずっとわたしの天使でいてほしいんだ」

「お母様をうしなった寂しさを私で紛らわすのはもうおやめください!!」


 ……はっ。長年思ってきたにも関わらず口にできなかったことをついつい言ってしまいました!ええ、これが私の本音です。もう亡くなったお母様の代わりにお父様を慰め続けるのはうんざりなのです。いつまでも親バカやってないで早く子離れしてください!!


「ずっと……そんなことを思っていたのかい……?」

「ええ、中学に上がったころからずっと」

「どうして……どうして言ってくれなかったんだ?」

「言えるわけないじゃないですか。『私を愛してくれるのは代償行動なんですか?』なんて!」


 大好きなお父様だからこそ、その愛情が偽物なのではないかと考えるたびに胸がつぶれるように痛みました。そこへくだんの教育実習生が来て恋を知り、私は思い切ってお父様からの独り立ちを決意したのです。


「代償行動なわけないじゃないか。私は凛愛をただ1人の娘として愛しているよ」

「それならどうして新しい奥さんをもらわないんですか!?」

「それは前にも言ったじゃないか。リアのママはずっとアメリアだけだよって」

「私を言い訳にしないでください!お父様自身の気持ちはどうなんですか!」

「私自身の気持ち……?」

「私はお父様に自分の人生を歩んでもらいたくてアメリカへの留学を決意したんです!」

「凛愛とともに生きていくのが私の幸せだよ」

「私はそれが辛くてたまりませんでした!今日はもう学校に帰ります!」

「待ちなさい、凛愛!」


 私はお父様の制止を振り切ってグリーンラインの駅を目指して走りました。お父様はきっと地下鉄の使い方などご存じないでしょうから。


 案の定改札でお父様を撒いた私は、なんともいえない虚無感を抱えて寮の自室に戻りました。

 私の様子がおかしいことに気付いたマキちゃんが「どうしたんですか?」と私に寄り添ってくれます。私が何も言わずにベッドに腰掛けていると、マキちゃんは私の隣に座り優しく手を握ってくれました。そして私の気持ちが落ち着くまで、独立記念日のお祭りの話を落ち着いた声でしてくれました。


「ありがとうございますマキちゃん」

「Anytime.」


 このエニータイムという表現は会話カンバセーションのクラスで習ったばかりのものです。アメリカにおける「どういたしまして」という言葉なのですが、「これくらいのことだったらいつだって助けるよ」という意味が込められているそうです。私はマキちゃんがエニータイムに込めた意味が嬉しくて、ついマキちゃんを抱きしめてしまいました。


「リアさん!?」

「本当にありがとうございますマキちゃん。大好きです」

「わ、私もリアさんのことが大好きですよ」

「これからもずっと私の親友でいてくださいね」

「親友、ですか?」


 どさくさにまぎれて親友と呼んでみたらなんだかとても不服そうな顔をされてしまいました。やっぱりまだ親友と呼ぶにはお互いの距離が開きすぎですよね……。


「……すいません。突然親友なんて呼んでしまって……」


 私が抱きしめていた手を緩めようとしたらマキちゃんの方から私を抱きしめ返してくれました。


「私は親友でも構いません。ずっとリアさんの側にいさせてください」

「マキちゃん……」


 この夜、私はマキちゃんのベッドで眠りに落ちるまでお互いにいろいろなことを話しました。私の初恋のこと、マキちゃんの彼氏のこと、お父様が大学合格を一言も褒めてくれなかったこと、マキちゃんの美容師になるという夢のこと、お父様がこの歳になっても私をお風呂に誘ってきたことなどなど……


「別にお風呂くらい良いんじゃないですか?」

「マキちゃんはご自分のお父様とお風呂に入れるんですか!?」

「いえ、そう言う意味じゃなくて、あのホテルのお風呂ってみんなで水着で入ったジャグジーのことだと思ったんですけど……」


 え!?もしかしてお父様もそのつもりで誘ったのでしょうか。もしそうだとしたらひとりぶち切れてしまった私が馬鹿みたいじゃありませんか!


「どうしましょうマキちゃん……私お父様に酷いことをしてしまったでしょうか?」

「いえ、リアさんの態度は当然の物ですよ。お風呂のことはともかく、大学合格を祝ってもらえないなんて、うちだったら親子ゲンカのうえ数ヶ月は口ききませんね」

「マキちゃんはお父様と仲が良くないんですか?」

「仲良く無いわけじゃないんですけど……うちの親父も合気道やってるんでケンカをすると技の掛け合いになるんですよ。しかも最終的には親父の圧勝で」


 なんだか凄まじい世界ですね。想像しただけで頭がくらくらしてしまいます。


「まあ、そんな感じですから私からしたらお二人のケンカは生易しいものに聞こえますね。もっとガツンといってもいいんじゃないですか?」

「ガツンとですか……」


 私としては十分ガツンと言葉のハンマーをふるってしまったような気がします。今頃お父様は何を考えているのでしょうか……。




 翌朝、目覚めたらマキちゃんが隣で寒そうに身を縮めていました。どうやら私がブランケットを全て剥ぎ取ってしまったようです。私がマキちゃんにそっとブランケットをかけるとマキちゃんも目を覚ましました。


「おはようございますリアさん。よく眠れましたか?」

「はい、マキちゃんのおかげですね。でも寒かったなら言ってくれれば良かったのに」

「リアさんの寝顔を見てたらとてもそんなこと言えませんでしたよ」

「やだ、私よだれたらしてませんでしたか!?」

「とてもかわいかったですよ。さあ、今日は独立記念日、ジュライフォースです。みんなでお祭りを楽しみましょう!」

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