真由子プレゼンツ ボストン観光
目的地で降りると、すぐそこに広大な芝の公園が広がっていた。こんな規模の公園、日本ではなかなかお目にかかれない。いったいどれぐらい広いんだろう!
「ここが有名なボストンコモンです。今日はここでみんなで遊びましょう!」
「遊ぶってなにするんですかー」とリア軍団から茶々が入る。
たしかに素敵な場所だが、ここでできる遊びと言えば鬼ごっこや警泥なんかだろうか。
「よっこいっしょっと」と言いながら真由子さんが背負っていた荷物をおろす。どこかで「庶民」がどうとかつぶやく声が聞こえるが気にしない。気にしない!
「さあ、バドミントンのラケットに、サッカーボール、バレーボール、いろいろもってきたよ!みんな何がやりたい?」
どうりで大きな荷物になるわけだ。帰りは絶対もってあげなくちゃ。さて、真由子さんとやるならなにがいいだろう?やっぱり2人でできるバドミントンかな?
「ラケットふたつ貸してください」
真っ先に言い放ったのはケイだった。どうやらニコラと2人きりの世界に引きこもるつもりらしい。うん順調順調。あ、そうだ!
「先輩、僕たちでチームつくってケイたちとダブルスやりませんか?」
「いいわね!ケイたちもそれでいい?」
「オフコース!」
これは重畳!チームで闘えば連帯感が生まれて、いずれはそれが……フフフ。よし、バドミントン県大会ベスト4の姉ちゃんに鍛えられたバドミントンの腕前、いっちょみせてやろうじゃないの!
「すいませーん、高岡先輩。私たちこんな事するなんて聞いてなかったんですけどー」
うっ、さっそくリアの軍団からいちゃもんがつく。まあ、奴らからしたら当然の反応か。スポーツをやらされそうになっている上、ケイとも遊べそうにないんだから。そのケイはスーツでラケットぶんぶん振り回してるけど。
「私たち、観光名所に行けると思ってついてきたんです。このヒールでどうやってスポーツをすればいいんでしょうか?」
「せっかくオシャレしてきたのに汚れるのはちょっと」
「日焼け止めも塗ってないのにこんな所に長くいられませーん」
「ご、ごめんなさい……」
ああ、真由子さんが謝っている。確かに事前にちゃんと説明しなかったのはまずかったと思う。実際僕もスーツでオシャレに決めてきてたし。だからといってそろって責め立てるのは間違ってないか?せめて僕だけは真由子さんの味方でいたい。
「おまえら、そんな言い方ないだろ!」
口論するなら1度も2度も変わらない。さあかかってこい、第2ラウンドだ!
「加納くんは本当に高岡先輩が大切でいらっしゃるのね」
グハァッ!?突然リアのカウンターがぼくを襲う!まさかそんな切り返しをしてくるとは。
「そ、そりゃあ同じ大学の先輩だからな」
「ええ、もちろんそうなんでしょう。それにしてもラケットを握りしめる姿がお姫様を守るナイトのようですね」
「な……」
何でぼくが恥ずかしがっているんだ?恥ずかしがるべきはあんなセリフを言い放つリアの方じゃないか?どうなんだ?よくわからなくなってきた。リアの言葉のパンチで脳が揺れているような気がする。
「高岡先輩。私たちスポーツをする用意が整っておりませんので、今日は失礼させていただきます」
「そ、そう……。じゃあ私が学校まで……」
「結構です。みんなでショッピングをしたらタクシーを拾って帰りますので。スポーツの方はいずれジムでお手合わせください。それではごきげんよう」
ごきげんようってホントに言うんだ……。初めて聞いたよ。って、そんな事考えてる場合じゃない!
結局公園に残ったのはぼくと真由子さん、ケイとニコラの4人だけだった。ニコラにまで気まずい空気が伝わったのか、いつもの明るさがどこにもない。僕がなんとかこの空気を変えなくては!
「先輩、ほら、バドミントンやりましょうよ!ケイとニコラはそっちな」
「おう、オッケー」
「カモーン!」
「……ごめんなさい。私がふがいないばっかりに。ちゃんとみんなに伝えてたら……」
だめだ、真由子さんすっかり落ち込んでる。
「ニコラはバドミントンやった事あるの?」
「あるよー!絶対負けないんだから!」
「でもネットもないし、スマッシュは禁止ね」
「えー、それじゃあ面白くないよぉ」
「だからさ、こんな特別ルールで……」
僕がみんなにルールを説明するとそれでいこうとケイがのってきてくれた。
「それじゃあ始めるよー。『アメリカに来て驚いた事』!」スパン
僕がお題を出すと同時にシャトルがケイの上に落ちていく。
「料理がうまい!」スパン
もっとまずい物を想像していたと前に言ってたっけ。でもうまいのはあの学校だからかもしれないぞ?
シャトルが僕の上に返ってくる。
「シャワーが動かない!」スパン!
アメリカのシャワーにはホースなんてついていない。壁から直にシャワーヘッドが生えているだけだ。だからお尻を洗いたい時はお尻をシャワーに向けるしかない。シャトルはニコラの方へと流れていく。
「日本人が優しい!」スパン
光栄です。これから先もいろんな国の人と仲良くなれたらいいな!
今度は真由子さんの方に行った!
「お金持ちがいっぱい!」ズバンッ!
これはお金持ち留学生の事だろうか。うーん、すごい滞空時間。
シャトルは2人の間に落ちそうだが、ケイが「任せろ!」と一歩踏み出す。
「教室の机!」スパン
たしかに椅子と一体になっているプラスチックの机には僕も驚いた。
「その裏のガム!」スパン!
ニコラが僕の答えを聞いて笑っている。それでちゃんと答えられるのか?
「たくさんのリス!」カコン
おっと、フレームに当たった。ここでゲームセットか?
「ごきげんようってホントに言うんだね!」ズバシッ!!
最後は真由子さんがおもいっきり場外ホームランして終了。彼女の発言にケイが思わず吹き出す。釣られて僕も、そして真由子さん自身も笑い出す。
日本語だったせいでニコラは何が面白いのかわかってなかったけど、ケイが英語でなにやら説明するうちに彼女もまた笑い出した。いったいなんて言ったんだろう?上手くいってるようでなによりだ。
「ありがとう。おかげで元気出たよ」
そう言う真由子さんの顔は、どこかさみしげなんだけど、いつものようにエネルギーに満ちあふれている。お役に立てたなら幸いです。
この日を境に僕たちは4人でボストンに繰り出すようになった。




