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中院凛愛の約束

本日2話目

 ジャグジーでの会話は、なかば私がその場を逃げ去るような形で終わりました。


 「加納くんの好きな人って誰なんですか?どうして知ってるんですか」という質問に対しは「見てればわかりますよ」と言うだけに留めることができました。きっとそれ以上喋ったら加納くんの想い人が高岡先輩だと口を滑らせてしまっていたでしょう。それにしても人からよく鈍いと言われる私でさえわかったのに何で皆さんにはわからないんでしょうか。ひょっとして皆さん私よりも鈍いのかしら?




 夜は男子と合流しみんなでシーフードレストランに行きボストン名物のロブスターを食べました。女子は皆ネイルを綺麗にしてもらったばかりだったので、ロブスターの殻は全て殿方が取り除いてくれました。レディーファースト万歳です。肉厚な身を溶かしバターにつけていただくのですが、お刺身のように醤油でいただきたくなってしまった私はどうやら少し和食が恋しくなっているようです。


 帰りは笹塚さんの手配してくれたバスに乗り、みんな寮へと帰っていきました。


 ……はっ!さりげにマキちゃんまで帰ってしまっているではありませんか!今夜私はあの広い部屋に一人きりで泊まらなくちゃ行けないんですか!?マキちゃんカムバーーーーーック!!




 翌朝、私はもうトーフルの授業を受ける必要がないのでゆっくりと朝の支度をしました。ホテルの朝食は優雅でおいしかったのですが、1人きりで食べるのが寂しくて笹塚さんに話し相手になってもらいました。日本にいたころは1人きりの朝食が当たり前だったはずなのに、マキちゃんと一緒に生活するようになって私はずいぶん甘えん坊になっているかもしれません。


 ハイヤーで学校へと送ってもらい、次の授業までカフェテリアでお茶を飲みながら時間をつぶすことにしました。今日は友達が誰もいないので様々なジュースのオシャレなブレンド方法を探すことにします。なぜか私が作るとジュースの色が綺麗に別れてくれないので特訓です!


 研究に没頭していたら突如後ろから日本語で話しかけられました!


「こんにちは中院さん」

「こ、こんにちは高岡先輩。ご機嫌いかがですか?」


 私はさっと茶色く濁った液体を背中に隠して高岡先輩に挨拶をします。ところが高岡先輩は私が何をやっていたかお見通しのようで、「ちょっと見てて」と言うと私の目の前で3色に別れた綺麗なカクテルを作って私にグラスをくれました。


「なんちゃってアメリカンフラッグだよ。ポイントはサーバーから出る原液と炭酸水をふたつのグラスにわけて注いで、濃度を調節してからそっとひとつのグラスに注ぐことかな」

「すごい……とっても綺麗ですね。どうしてこんなことできるんですか!?」

「ここに通ってた頃ここのシェフと友達になっていろいろ教えてもらったんだよ。さあ、立ち話もなんだし座ろうよ」


 そう言うと高岡先輩は私の作った謎ジュースと炭酸水を席に持っていってしまいました。慌ててとめようとしましたが、綺麗なカクテルが崩れてしまうのをためらってゆっくりと歩いている間に、先輩は席についてジュースを半分近く飲んでいました。

 私が席に着くと先輩が半分になったグラスをつきだします。


「まずはトーフル合格おめでとう。これで朝はゆっくりできるね」

「ありがとうございます。ひょっとしてこのジュースは合格祝いですか?」

「そんなつもりは無かったけど、そういうことにしてもらってもいいよ?」

「フフフ、ではそういうことにさせていただきます」


 先輩の作ってくれたカクテルは飲むほどに甘さを増す強烈な味わいでした。


「甘いでしょ。無理しなくていいからね」

「いいえ、せっかく高岡先輩に作っていただいたんですから……」

「こういう時は無理せずに炭酸水を入れれば良いんだよ」


 なるほど、作成時に出る炭酸水にはちゃんと使い道があったんですね。私は炭酸水を受け取ってカクテルに注ぎ込みます。ちょっと味見してみたらちょうど良い甘さになっていました。


「そういえばシュウスケから懇親会のこと聴いたよ。ごめんね、なかなか時間が取れなくて」

「いえ、お忙しいのはわかっています」

「中院さんはスポーツがしたいようだけど、実は明後日の7月4日はアメリカの独立記念日で盛大なお祭りがあってね、学校も休みになるからみんなでお祭りに繰り出そうと思うんだけどどうかな?」

「ボストンハーバーフェストの最終日ですね。たしか盛大な花火が打ち上げられるとか」

「あちゃー、もう知ってたか。中院さんの知らないボストンを案内できると思ったんだけど……」

「私も話に聞いた程度ですから実に楽しみです!明後日のお祭り楽しみにしてますね」

「うん、任せといて!!」


 こうして私は高岡先輩と少し仲良くなり、一緒にお祭りへ行く約束をしました。お昼休みにみんなにそのことを伝えたら全員参加してくれることになりました。これは素敵な親睦会となりそうです!




 その日の授業を終えてホテルに帰るとお父様が盛大なハグで私を出迎えてくれました。


「おお、私の大切な凛愛。ずっと会えなくてどれだけ寂しかったことか」

「たったの1ヶ月ですよお父様。少し大袈裟すぎじゃありません?」


 つい憎まれ口を叩いてしまいましたがお父様に会えた喜びは隠しきれず、口角がニュウっと上がってしまいます。そんな顔を見られたくなくてお父様の胸に顔を埋めていたら、お父様が優しく撫でながらこんなことを言い出しました。


「昨日は間に合わなかったが、せっかくボストンハーバーフェストに合わせて休みを取ってきたんだ。独立記念日は私と一緒にいてくれるね?」


 先ほど上がった口角がそのまま引きつるのがわかります。

 どうして昨日それを言いにきてくれなかったんですか!?

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