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中院凛愛の入浴

本日1話目

「笹塚さん、現金の準備をお願いしたいのですが……」

「心得ています。どうぞ」


 加納くんにお金を返そうと笹塚さんにお願いしたら、即座にマネークリップに挟まれた紙幣を渡されました。私まだお金を借りてることなど一言も言ってないのにどうしてわかったんでしょう!?


「なぜ……」

「なぜ、と言われましても。チップ用の紙幣がご入用だったのでは?」


 そのための現金でしたか。たしかにホテルでチップは欠かせませんものね!


「あ、先ほどのルームサービスのときチップを渡すのをすっかり失念していましたわ!」

「安心してくださいリア様、私が渡しておきましたから」


 笹塚さん、何て有能な方なんでしょう。さすがはお父様の秘書の1人ですね。


「リア様の手を煩わせないように基本的には私がチップのやり取りをします。ですが私の目の届かない所ではリア様自身でお願いしますね」

「このホテルではどれほどのチップを渡せばよろしいでしょう」

「最高級ですからとりあえず5ドルを下限に考えてください」


 あら、5ドルなら一回で加納くんに貸してもらった金額を上回ってしまいますね。もしこのホテルで洗濯のやり方を教えてもらったらいったいいかほどの心付けが必要になってくるのでしょうか。やはり加納くんには金額以上の物をお返ししたいですね。主に恋のキューピッドとして。




 男性陣を野球場に送り出したあと、私たちはエステティックサロンで至高のリフレッシュをを味わいました。エステティシャンの指使いに体中の緊張と言う緊張が揉みほぐされていくようで、この一ヶ月いかに自分が張りつめた生活を強いられてきたかを実感します。

 特にパメラがアメリカなまりの英語で話しかけてきた時などは、自分の英語が通じなくなったのかと思いものすごいストレスを感じましたっけ。ボストンはニューイングランドと言うぐらいだからイギリス英語でも大丈夫だろうと高をくくってた時代が私にもありました。


「リアさん、せっかくのエステなのに眉間に皺を寄せてたら効果薄くなっちゃいますよ。リラックスリラックス」


 そう言ってマキちゃんが自らの頬を押さえながらクルクルとまわします。その仕草が可愛くて思わず吹き出してしまいました。


「そうです、その笑顔がリラックスにつながります」

「なんですかその仕草は〜」

「あ、これはウチの弟が拗ねたときにこうすると笑ってくれたので……」


 あう、私マキちゃんの中では弟さんと同じ扱いなのでしょうか。


「マキちゃん、気を遣ってくれるのは嬉しいんですが……せめて前を隠してくださいね」

「す、すいません」


 そんなに大きなモノを見せつけられるとますます眉間に皺が寄ってしまいかねませんからね。……はぁ、あの中には何がつまっているんでしょう。私もここ一ヶ月マキちゃんと同じものを食べているのに全く育つ気配がありません。


「いったいどうしたらそんなに大きくなるんですか?」

「そんな、私なんて全然……」


 あなたが全然なら私はどうなるというんですか!?

 私の憤懣やるかたない思いを感じたのかマキちゃんがあわてて付け足します。


「やっぱり一番良いのは好きな人に揉んでもらうことでしょうか」

「えっ!?それってまさか桜井くんに!?」

「違いますよ!昔の話です!」

「……ひょ、ひょっとしてマキちゃん、彼氏いたんですか?」

「はい。まあ、もう別れちゃいましたけど」


 ガーン……。これまで浮いた話のひとつも出ないので私と同類だと思っていたら、マキちゃんはとっくに大人の女性になっていたようです。


「やっぱり……効果あるんですか?」

「どうでしょう。私の場合成長期とかぶってたからよくわかんないですね」


 成長期に殿方とお付き合い!?なんて……なんて……なんて……あぁっ!!


「ちょ、リアさん!?何を泣いてるんです?」




 エステのあと水着を借りて入ったジャグジーでもまきちゃんのおっぱいはみんなの人気者でした。


「いいなー。私にもちょっとわけてよ」「私もそれくらいあったら自信もてるのに」「自信つけて桜井くんに告白でもするの?」「ちょ、そんなわけ無いじゃん!それに桜井くんは貧乳好きでしょ、たぶん」


 たしかにニコラがタイプということならそういうことになるんでしょうか。殿方が皆そうならば世はおしなべて平和でしょうに。


「男子と言えば加藤くんとはどうなのよ鈴木さん?」「え〜、まだなんにもないよぉ〜」「まだってことは何かする予定はあるんだ」「ふふ、まあねぇ♪」


 私たち留学生の中からカップルができるのもどうやら時間の問題ですね。私も恋のキューピッドとして加納くんと高岡先輩を結びつけてあげなくては。


「ところでリアさんは好きな人できましたか?」


 ブフッ!何を言うんですか鈴木さん!?


「私はトーフルの勉強ばっかりでそれどころじゃありませんでしたね」

「でも外人の女の子たちが噂してましたよ。加納くんがリアさんの服を持って部屋に押し掛けたって」

「なんですかそれ!?」


 あ、ひょっとしなくても私の洗濯物を届けてくれたあの時のことですね。


「あ、あれは私の忘れ物を加納くんが部屋に届けてくれただけの話です」

「え〜いつからそんな関係になってたんですか?」

「別に何の関係もありません!勘ぐらないでくださいまし!」


 もしここで私と加納くんが噂になったりしたら恋のキューピッド作戦に悪影響が出てしまいます!


「……まあ、言われてみればソレはないか」「アノ加納くんだもんねぇ」「ひょっとしてこの噂の出所加納くん本人だったり?」「ありうるー。外国人にはリアさんのこと彼女だとか言ってたりして!」「超必死でウケるんですけどぉ」


 みんな何を好き勝手言ってるんですか。加納くん本人のこともよく知らないでどうしてそんなことが言えるんです!


「加納くんはそんな人ではありません!」


 ハッ、思わず言ってしまいました。どうしましょう、皆さん水を打ったように静まりかえっています。以前まででしたらどんな加納くんの噂だろうと軽く流せてましたのに。


「加納くんは確かに無愛想で何考えてるかわかりませんが、意外といい所もあるんですよ」

「……いい所、ですか?」

「ええ」


 洗濯を教えてもらったことは……恥ずかしくて言えませんね。一緒にバドミントンをプレイしたことは……これ以上勘ぐられても嫌なので言えませんね。あれ?私が説明できる加納くんのいい所がありません!


「あいつにどんないい所があるんです?」

「そ、それは……好きな人に一途な所です!」

「はいぃっ!?」


 あれ?私何を言っているのでしょう……?

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