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中院凛愛の決別

本日2話目

 留学生の大学受験であるSATと6月のトーフルが終わりました。


 SATでは日本人から桜井くんと加納くんが成績優秀者として表彰されていました。もうひとつの枠に私も入れたら良かったのですが、あいにくイタリア人のニコラに取られてしまいました。幼い見た目の割に彼女はずいぶんと優秀なようです。


 私がニコラを見ていたら加納くんがさげすむような視線をこちらに向けてきました。そんな風に見られる理由が思い浮かばず、思わず私も見つめ返します。すると加納くんは一瞬ビクッとして自分の席に帰っていきました。ひょっとして加納くんは私がニコラを睨んでるとでも思ったのでしょうか。


 6月のトーフルはバドミントンを我慢して勉強したおかげか、それとも皆様の応援のおかげか、日本でやって来たトーフルを含め、今までで一番手応えがありました。結果発表は月末ですが、これで合格してしまえば残りの2ヶ月は基本的にやりたいことを優先できるはずです。バドミントンにアメリカ観光、それに独り立ちのための家事の練習もすすめていきたいですね。


 そんなことを考えながらカフェテリアでサンドイッチをかじっていたら、加納くんの声が聞こえてきました。どうやら高岡先輩をデートに誘っているようです。


「リアさん、どうかしましたか?」

「いえ、春だなぁと思いまして」

「は、春ですか……?」

「なんでもありません、気にしないでください。ところで高橋さん。今週末の予定はどうなっていますか?」


 私がそう訊くと高橋さんはさっとスケジュール帳をだして該当ページを調べます。


「今週末……特にリアさんがすべきことはありませんね」

「いえ、私のスケジュールではなく高橋さんのご予定を訊いたつもりだったんですが……」


 これではまるで高橋さんが私の秘書みたいじゃありませんか。


「私の予定ですか?」

「はい。もしお時間があれば一緒に買物へ行きたいなと思いまして」

「暇です!いきます!是非一緒に連れて行ってください」


 フフフ、これで素晴らしいアドバイザーを確保することができました。それにしても高橋さん、そんなにお暇だったのでしょうか。嬉しそうな笑顔にこちらまで笑顔になってしまいます。


 そんな私に水を注したのが加納くんのあの視線でした。まるでこちらを見下しているような態度に思わず声を荒げてしまいました。


「言いたいことがあるならはっきりおっしゃったらいかがですか!」

「いや、別に……」


 そう言うと加納くんは席を立ってお皿を返却しに行きました。


「なんなんでしょうかあの視線は!無性に気に障ります!」

「……ひょっとして、あいつエロい目でリアさんのこと見てませんでしたか?」

「えっ?そうなんですか!?あの方は高岡先輩のことが好きなんだと思っていましたが……」

「男の恋愛感情と下半身は別ものです!それと……これは言うかどうか迷ってたんですが……」

「言ってください!」

「……私がリアさんの洗濯物をしていると、洗濯をするわけでもないのにあいつが地下室に来るんです」

「それはひょっとして、下着泥棒というやつですか?」

「もしかしたらそうかもしれません。あ、もちろん洗濯中は片時も目を離さないようにしてるので被害はありませんが……」


 まさか加納くんがそんな人だったなんて。どうりであの視線が気に障ったわけです。


「リアさん、そんな難しい顔しないでください。もしあいつがリアさんに何かするようなことがあれば、私が懲らしめますから!」

「でも相手は男性ですよ」

「大丈夫です!私こう見えて合気道2段持ってますから。一般人相手だったらあっという間に組み伏せてみせますよ」


 高橋さん、なんて頼もしいんでしょう!


「ではもしもの時はよろしくお願いしますね」

「任せてください!さあ、今は週末のショッピングのことでも考えましょう」




 週末、私たちはタクシーに乗ってボストン一のショッピングモールであるプルデンシャルセンターにやって参りました。


「リアさん、今日は何を買いにきたんですが?グッチの新作ですか?それとも以前見ていたスワロフスキーのアクセでしょうか?」


 そう言われるとそちらも気になってしまいます。しかし今日の目的は別にあります!


「今日はいつもと違うものを買いにきました。それには高橋さんのアドバイスがどうしても必要なのです」

「私のアドバイスですか?リアさんに頼ってもらえるなんて光栄です」


 う、そんなにキラキラした目を向けられると罪悪感で胸がチクッとします。なぜなら今日の買物は高橋さんの仕事を奪うことになるかもしれませんから……。




「掃除機に洗濯用品、それと調理用具ですか?」


 今日の目的の品を告げたら高橋さんが『なぜこんなものを?』と言いたげな目を向けてきました。


「私、アメリカに来たからには独り立ちをしようと思っているんです。そのためにはまず家事全般をこなせるようにならなくてはいけないでしょう?ですからまず掃除・洗濯・料理の練習のためにこれらを買おうと思うんですけど、何かアドバイスは——」

「でもそれらは私の仕事です」

「もちろんそれは承知しています。しかし高橋さんだってこれからずっと私の面倒ばかり見てるわけにはいかないでしょう?」

「私はそれで構いません」

「私が構うのです!」


 いつまでもお父様を心配させる手のかかる娘では、お父様を安心させることができないではありませんか!それに私にかかずらって高橋さんの留学生活がダメになるようなことがあってはなりません。……本当は高橋さんに家事を教えてもらうのが一番なのでしょうが、断られたらと怖くて『教えて』の一言を今日まで言えないでいました。


「とにかくリア様は大人しくしててください!」

「……リア様?」

「あ、すいません。とっさのことで……」

「そうですか、やはり友達と思ってたのは私だけだったようですね……」

「違います!たしかにリアさんは私の雇用主の娘さんですが——」

「やっぱり!!それなら私が一緒にいる必要はありませんね!どうかもう私に関わらないでください!」


 走り去ろうとする私の腕を高橋さんが掴みます。私はそれを振り払って一目散に走ります。高橋さんも追ってきますが、どれだけ走ったかわからなくなったところで高橋さんの姿は見えなくなっていました。


「はぁ……はぁ……、ついに言ってしまいました」


 高橋さんの他人行儀な態度に『本当に友達なの?』とこれまで何度も言いかけました。しかしそれで友達を失ってしまったらと思うと何も言えないでいました。そんな鬱憤が溜まりに溜まっていたからでしょうか、あんな最悪な形で高橋さんをなじってしまいました。


「きっともう友達には戻れませんね……」


 自分で吐いた言葉に悲しくなって涙が止まらなくなってしまいました。

 近くにいたおばあさんが「どうしたの?迷子になったの?」と訊いてきたので『ノー』と力なく答えます。


「本当に?駅への道がわからなくなったんじゃないの?この辺りは少し道が入り組んでいるから」


 どうやら私はかなりの距離を走ったようでダウンタウンのかなり奥の方へ来てしまったようです。


「グリーンラインはどうやって乗ればいいですか?」

「グリーンライン?だったらあそこにTの文字が見えるかい?」

「ええ。でもあれはレッドラインでは?」

「大丈夫、2駅乗って乗り換えればすぐグリーンラインだから」




 私はおばあさんの言葉を信じ、レッドラインの地下鉄に乗りました。おばあさんの言う通りグリーンラインの駅に着いたので、目に入った緑色の車体に乗り込みます。


 何であんなこと言ってしまったんだろうと自己嫌悪に陥っていたらまた涙が出てきました。するとさっきとは違うおばあさんが「どうしたの?迷子?」と尋ねてきました。日本人は若く見られがちだと高岡先輩が言っていましたが、迷子と間違われるほど私は幼く見えるのでしょうか。


「いいえ、迷子じゃありません。チェスナットマナー大学に戻るところです」

「チェスナットマナー大学?だったら方向が反対よ!」


 ああ、こんなことなら高岡先輩の地下鉄の乗り方講座をちゃんと聴いておくんでした。

第35部分 生脚と誘惑 の前半部分を大幅に変更しました

マッスルとはなんだったのか?その疑問が明らかに

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