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恋人疑惑

「そんな!付き合ってませんよ私たち!」


 リア、なにもそんなに力一杯否定しなくてもいいじゃないか。

 ケイに「付き合ってんじゃないの?」と言われた瞬間、僕の方は何て答えればいいか考えすぎて完全にフリーズしてしまっていたのに、リアの強烈な一言で素に戻った。


「そうだよケイ、なに言ってんだよ」

「桜井君、本当にこの二人は付き合ってませんよ。私が保証します」


 なにせずっと一緒にいましたからねと、マキちゃんが自信一杯に恋人疑惑を一蹴する。

 たしかに演劇の授業以外いつも一緒にいるけれど、マキちゃんの知らないところでラブっぽい要素も結構あったんだよ?ほら、例えば——


「え、でもこのまえの鉄板焼きの時、中院さん、シュウにアーンってしてたよね?」


 見てやがったのかこのやろう!突っ伏して鉄板で前髪焦がしてたから気付かれてないと思ってた。


「ねえケイ、『アーン』って何?」

「イタリアではやらない?こうやってアーンって」


 そういいながらケイがスプーンにすくったオムレツをニコラに食べさせる。


「ああ、これが『アーン』なのね!じゃあケイもアーン」

「アーン」


 ずいぶんと大胆にイチャつくじゃありませんか。ひょっとしてニコラにアーンしてもらう布石としてこの話題を選んだのか?この策士め!


「へえ、二人でそんな事してたんですか。ずいぶんと仲がいいでんすねぇ……」


 首に巻き付く爬虫類のように冷たい声に思わず体が硬直する。それはどうやら僕だけじゃなかったようで、隣りでリアがハッシュドポテトのケチャップを派手にこぼしてしまっていた。


「いつのまにそんなことしてたんですか?……ああ、私がバラを折ってた間ですね。さすがに2個作るのは無謀だったかなぁ」


 フフフと笑いながらマキちゃんがリアのこぼしたケチャップを紙ナプキンで拭い去る。笑顔なのに、言ってる事もかわいげがあるのに、ちっとも鳥肌が収まらない。コレがヘビに睨まれたカエルというやつなのだろうか。


「あ……その……そういえば!ニコラには見せましたっけ?マキちゃんの作ってくれた折りばら!」

「うん、家族が来てるときに談話室で見せてもらったじゃん。アレかわいいよね」

「ですよね!私も作ってみたんですが、なかなかマキちゃんみたいにかわいいのが作れなくて……」


 ナイス話題転換!このまま折りばらの話をしてアーンのことは忘れてもらおう!


「僕も作ってみたんだけどさ、ほら、なかなか上手くできなくて」

「たしかにコレは無いな。パッと見茶色の紙くず」


 自分でゴミと言う分には問題ないけど、ケイに言われると妙に腹が立つな!


「ねえマキ?私もリアと同じバラが欲しいんだけど作ってくれない?」

「え?」

「お願〜い!友情の印にさ、いいでしょ?」


 ニコラのその言葉に冷たかったマキちゃんの雰囲気が突如として暖かいものになる。


「そんなに言うなら……いいよ、作って上げる」

「やったぁ!じゃあこの紙ナプキンで作って!」

「作れない事は無いけど、もうあまり時間もないし、ちゃんとした折り紙で作ってあげる。ニコラの好きな色は何?」

「黄色!黄色のバラがいい!あ、他にも何か作れる!?」


 結局ニコラが折り紙にヒートアップした事で昼休みは終わった。僕が紙ナプキンで作った鹿やマキちゃんが作ったリスなどに「ケベッロ!」とイタリア語で感動し、それらを宝物のように扱っているのがとてもかわいらしかった。「俺にもアレの作り方教えてくれ」というケイが少し鬱陶しかったけど。

 とにかくこの雰囲気を作ってくれたニコラに感謝をささげたい。




 ケイたちと別れ、リアと二人で劇場へ向かう。


「マキちゃんすごく怖かったね……」

「あんなマキちゃん初めてでした」

「そう?僕は割とよくあの視線に晒されてるけど」

「それは最初の頃の話でしょ?今は仲良くなったじゃないですか」


 う〜ん、それはどうだろう?たしかに仲良くなった実感はあるけど、それに比例し睨まれる数も多くなっている気がする。これじゃあもう、リアにアーンをしてもらうの難しそうだ。

 ……これ、言ってみたらどうなるかな?


「こ、これじゃあもう、アーンをしてもらうの難しそうだね」

「たしかにマキちゃんがいるところではやめた方がよさそうですね」


 あれ?結構勇気を出して言ってみたのにすんなり認められてしまった。もっとこう『何を言ってるんですか!(赤面)』みたいなのを期待してたんだけど。でもそう言ってくれるってことはひょっとして、2人きりでの食事はアリってことなのかな?


「そ、それじゃあ、今度の休みにでも2人でどこか食べに行かない?」


 おお!言えた!日本語だからかなりどもってしまったけどご飯に誘えたぞ!ひゃっほう!ここのところたいした支出もないし、ちょっとしたランチくらいなら行けるんじゃないかこれ!?


「今度の週末が明けたらすぐに卒業発表じゃないですか!そんな事してる余裕ありませんよ」


 僕の舞台への態度が気に入らなかったのかリアが脚を速めて先に行ってしまう。


「ご、ごめん……。そうだよね、今は稽古に集中しなきゃね……」

「……そのあとだったら構いませんから」


 え、それって卒業発表後だったらアーンしてくれるってこと!?

折り紙に感動する外国人ですが、本当に感動してるのは作った日本人の方だったりします。

あんなに嬉しがってもらえるなら、下手な折り紙の練習だってしちゃいますよ。


何年も経って再会したときに「まだあの折り紙大事に飾ってあるよ」と言ってもらえるとすごく心がほっこりします。

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