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魔王就任 【魔石編】  作者: 市太郎
初外交
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魔王様と魔石 ■ 08

 天気も良いし、庭の景色が楽しめるテラスにてティータイムを過ごす事にした。

 日本では緑茶、イギリスでは紅茶が親しまれてるのと同じように、この世界ではトアン茶を出しておけば問題無いという位に馴染まれているお茶である。

 ちなみに、私が普段飲んでいるコーヒーやカフェオレは、ソアーレという葉を焙じたものでミルクは牛に似たクーシャの乳なのです。

 イシュがフィンデイルさんに付き添ってしまったので、今は代わりにガルマとシャイアが付き添ってくれてお茶はシアンゼーカが淹れてくれている。

「先程は、お見苦しいものをお見せしてしまい誠に申し訳ありませんでした」

 其々の前にカップが置かれ、シアンゼーカが少し離れた場所へ下がるとナイリアスさんが口火を切って謝罪をしてきた。

「いえ……フィンデイル殿は……その、自由なお方なんですね」

 下手なフォローにもならない返答を、無駄な笑顔で誤魔化す私。

 やんごと無い方と話す機会なんて持ち合わせてないんだから、そつの無い会話術のスキルなんて無いのよねっ。

「兄上が変わっておりまして、決して竜族全てがあのような性格だと思わないで頂けると助かります」

 恐縮した様子で下手(したて)に言葉を返すナイリアスさん。

 自由奔放な兄を持つと苦労する弟の図である。

 普段からフィンデイルさんがあんな調子だと、ナイリアスさんだけでなく他の人も苦労してそうだ。

 群青色の髪をしたナイリアスさんと並ぶと、シャイアの髪は同じ青系でも紫がかっているのが良く分かる。

 瞳孔が金色だから虹彩が黒っぽくも見えるけど、鉄紺みたいに夜の様な紺色をしている。

 容貌もだけど雰囲気からして、温和とか柔和って言葉が似合う人だなぁと思う。

 眉も柳眉だし、少し垂れ目で左目の丁度頬骨辺りにある泣き黒子が色っぽい。

 フィンデイルさんに比べれば細身なんだろうけど、十分がっちりしている体付きだし上背もかなりある。

 背を比べればシャイア、フィンデイルさん、ナイリアスさん、サナリ、イシュ、ガルマの順番かな。

 しかし、フィンデイルさんを怒る時の様子を思えば、見た目の穏やかさばかりを信じるのもどうかなぁって感じもある。

 まぁ、当たり障り無く怒らせるような事をしなければ問題は無いと思うけど。

 割と穏やかな雰囲気の中、現在の竜界の気候や特産物、竜族の暮らしに付いてといった話を聞かせてもらいながらお茶を楽しんでいた所へサナリがやってきた。

「お寛ぎの所申し訳無い。実は、お預かりしている騎竜なのだが、どうにも落ち着かない様子らしく厩舎を壊しかねない勢いなのだ。ナイリアス殿のお手を貸して頂けないだろうか」

「ああ、気の荒い性格をしていますからね。分かりました、ご一緒に参りましょう」

「私も行く」

「は?」

「え? 何か、不都合ありますか?」

 快く頷くナイリアスさんが席を立つのに合わせて私も立ち上がったのだけど、驚いた表情でナイリアスさんが私を見る。

「いえ、不都合はありませんが、扱い辛い性格ですので魔王殿に万が一の事があっては……それに、身贔屓を抜きにしても万人に愛でられるような愛らしさはありませんし」

「でも、ナイリアス殿がいらっしゃれば暴れないんですよね? 十分に可愛いと思うんですけど……それに、遠くから見る分には万が一な事があっても防げますし。ねぇ?」

 それ位出来るよね? とサナリやシャイアを見れば、否と答えられるはずも無く渋々と頷く二人。

「ナイリアス殿のお邪魔にならぬよぅ離れて見る分には構わぬのではないかぇ? 妾も傍におる故にのぅ」

「皆様が平気なのであれば、私に異論はございません」

 私を後押ししてくれるガルマをサナリとシャイアが怪訝そうに見たけど、ガルマの言葉もあってかナイリアスさんもそれ以上は何も言わず四人揃って騎竜のいる厩舎へと向かったのである。

 

 魔界は森林資源が乏しい環境という代わりに、鉱物資源が豊富という事もあって建物の殆どが石造りなのね。

 魔王殿の中は柱から壁から大理石で出来ているし、外壁だって一番高価と言われる虹水晶をふんだんに使っている位金属や鉱物資源は豊富なのである。

 そんな事情で、厩舎も石造りな訳。

 幸い、地震は無いし構造的にも建物が崩れるという心配は無いんだけど、その立派で頑丈な石造りの厩舎が今にも崩れそうな雰囲気で俄かに心配になる。

 騎竜が厩舎の中で羽ばたいたり、足を踏み鳴らす度に天井の辺りからパラパラと欠片が落ちているのだ。

 決してチープな造りではないし、ちゃんと術による補強もされているから建物は丈夫なはずだけど、騎竜が暴れる度に建物が揺れているようにも見える。

 見れば、厩舎勤めの中位辺りの獣族や鳥族さんが困った様子でおろおろとしている。

 力自慢の獣族や鳥族が騎竜に力負けする訳ではないけど、傷を付けたら大変だからと手を付けられない状態みたい。

 サナリとナイリアスさんが厩舎の中へ入るのを、残りの私達は外から眺めている事にした。

 大丈夫だろうかと見ていると、ナイリアスさんが騎竜を宥め掛けた時、二頭の騎竜が徐にこちらを向いてガン見しだした。

 ナイリアスさんも少し驚いた様子だったんだけど、更に騎竜達は柵をぶっちぎりそうな勢いでこちらへと移動してくるから思わず私もビビってシャイアの腕にしがみつく。

 いざとなれば、シャイアかガルマが転移して危険を回避してくれるだろうって本能故からの行動なんだけどね。

 軽トラ二台がいきなり自分に突進してきたら普通ビビるよね?

 シャイアが抱き上げてくれたので、万が一柵を越えて騎竜が突進してきても大丈夫と一安心して改めて騎竜を見れば、厩舎の端っこ、つまり私達がいる方の壁へ体を押し付けるように首を伸ばしてこちらを見ている。

 柵もミシミシいっているし、騎竜達が尾をバッタンバッタン振っているから厩舎も何だか激しく揺れている。

 喜んでいるのかな? あの尾の振り加減は威嚇じゃないよね?

「獣は鼻が利くのぅ」

 不満気な呟きにガルマを見れば、視線が逸れた事で騎竜達が奇声を上げつつ更に激しく尾を振ってこちらの注意を引こうとする。

 鼻が利くってどういう意味かをガルマに聞こうとする前に、怪訝そうな顔をしたナイリアスさんがこちらへと歩いてくるので聞きそびれてしまった。

「どうも魔王殿を気にされている様子で、申し訳ないのですが騎竜達の傍へお越し頂けますか?」

 ナイリアスさんにとっても騎竜達の行動は些か不可解な様子で、困った口調でお願いしてきたが私にとっては願ったり叶ったりなので、いそいそとシャイアの腕から降りてナイリアスさんと共に騎竜の傍へと行く。

「騎竜は我々を騎乗させてはくれますが、元は野生の竜ですので本来は気性が荒く自尊心が高いのです。兄の騎竜は火の属性である火竜ですので水の属性である私を騎乗させませんし、私の騎竜も水竜なので火の属性である兄を騎乗させません」

「では、フィンデイル殿の騎竜が暴れたらナイリアス殿では止めようが無いという事ですか?」

 ナイリアスさんの説明に思わず聞き返すと、微かに笑って緩く頭を振って返してきた。

「最低限の命令なら私でも問題ありません。唯、火竜と水竜が同時に、属性の異なる魔王殿へこの様に懐く行為が大変珍しいのです」

 続くナイリアスさんの言葉に思わず頬が緩んでしまう。

 懐いてくれてるのかぁ。

 可愛い奴等だなっ!

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