魔王様と魔石 ■ 34
「ちょっと、母親がどうとかってどういう意味なのよ」
朝食を済ませ、執務室にてガルマ相手にタシタシと机を叩きながら説明を求めた。
そんな私に、例のごとくイシュが甲斐甲斐しくお茶を用意してくれる。
「はて……どのようにご説明申し上げればよろしゅうございますかのぅ。竜族は雌、殊更母親を崇める種族でございまして、雄は雌を守る者、竜王とはその雄たちを取りまとめる要でございますなぁ」
ふと、地母神信仰が頭を過ったけど、ん? あれ? ガルマの言葉でちょっと疑問が出てきた。
「竜王って世襲制じゃないの?」
「世襲制……あぁ、人族の習わしでございましたかのぅ。竜族は確か祖竜の血を引き継ぐ者が王となる、そのような覚えがございますなぁ。何せ、竜族とは関わりが無く、魔界にある書も古い上に少ないゆえ、竜族を調べるにはなかなか苦労しましたぇ。さて、我ら魔族の王が人の王と異なるように、竜族の王もまた異なりまする」
まぁ、確かに魔族の王は世襲とか関係なく、魔王が消滅したら次の魔王が無から発生するわけで、爵位に関しても要は繁殖期に魔王の魔力を貰う順番だし、人とは意味合いが全く異なってるね。うん。
「竜族の始まりである始竜は雌であり、始竜を守る雄を祖龍と区別しておるようでしてのぅ、いつしか数が増え、雌たちが心置きなく仔を育むため、より良き巣を求めて互いに争いがおきぬよう采配を振るうた者が王となったようでございますなぁ。よって、世襲とも言えまするが人族が祭り上げる王とは些か異なる者でございますのぅ」
「祭り上げるって……」
あ、そうか。魔族も竜族も王って存在はいるけど、つまるところ『国』じゃないから『政治』もないし『法』も無いのか。
良くも悪くも原始的な一族のトップ、絶対君主って感じかな。
魔族は魔王様大好き過ぎて、黒でも白と言っちゃう盲目さだしなぁ。
思い返せば、基本何でもかんでも私の好き放題にさせてくれちゃってるし。
「何はともあれ、竜族の雄は雌に、夫は妻に、そして娘であろうと母親には敵わず、元から抗う気も起きませぬゆえ、魔王様を母と認めたアレ等が今後どのように成長していくのか、誠に楽しみでございますなぁ」
ホ、ホ、ホ、と片手で口元を隠しながら、それまた様になっているガルマが暢気に笑っているけど、いやいやちっとも楽しみじゃないですからっ。
「え。そしたら、竜族の子が魔界に飛んできたりしちゃうの?」
それはかなり嫌だし困るんだけど。
「それは無いと思われます。孵化した後に餌を与える竜族の雌を母と思い育つでしょう。ですが、魔王様と対面し、魔王様の魔力を感知すれば、抗えぬ存在、つまりは魔王様を本来の母と思い、魔王様の望むまま、意のままに従う事でございましょう」
ガルマに代わり、傍らに立つイシュがなぜか「手駒が増えましたね」と誇らしげに答える。いやいやいやいや、いらないからね?
しかし、そうか。夢渡する竜族の子供たちに文句を言わなかったのも、普段は個人行動なのに揃って調べ物をしていたのもこのためか。
まぁ……子供たちが押しかけてこなければ良いのかな。良いのか? 何か、良くないと思うんだけど。いや、それよりもだ。
「魔力を感知したら母親と思うってどういう事?」
「竜族の雌は卵を産みます。卵へ形成されるまでは母親の魔力によって成長が左右されるようで、母と認識するのも与えられる魔力に依るもののようですね」
将来的に面倒な事になるんじゃないのかなぁ。
子供たちが育っても会わなければ問題ないようだけど。
「でも、何でそんな事分かったの?」
元々交流が無かったのに、何で竜族の生態とか知ってるわけ?
「かつての魔王様が暇を持て余し、竜族の雌に卵が形成されるまで魔力を注いでみたそうでございます。成長後、魔王様が夢渡でお会いしたようですが、当時の魔王様は男性体でございましたので、自己喪失に陥ったと書に記されておりました」
「……………………」
母親が魔族でしかも男だったら、竜族の性質を鑑みると確かに衝撃は過ごそうだけど……ていうか! 過去の魔王! 何やってんのよっ!!
竜族の子供は、母親の胎内で卵が形成され産卵するまでに一年、更に一年かけて抱卵し孵化するそうで、魔力たっぷりの魔石を渡して以降、子供たちの夢渡も無いままあれやこれやと日常が過ぎ、孵化してたのかなぁという月日が経っていた。
竜界の様子が分かるというガルマに聞いてみたところ、半年くらい前に無事誕生したらしく、竜界では一族総出でお祝いをしていたらしい。
良かった良かった。これで杞憂が一つ減ったというものだ。
竜王さんから貢がれた人族も、ロゼアイアさんが請け負ってくれて、リオークア国に建てて貰った私の別宅に住み込みで働いている。
見目麗しい少年少女たちだけど、我が別宅はセキュリティ万全であるからにして安全だし、先に住み込みで働いてくれている人族のお嬢さんたちが色々と教えてくれてて、非常に助かっております。
私自身も別宅へ暇さえあれば顔を出し、ラズアルさんとお茶を楽しんだり、新人さんに存在を慣れてもらったり、ラズアルさんと談笑しちゃったり、ロゼアイアさんからガルマへのラブコールを預かったり、ラズアルさんと一緒にお買い物とかしちゃったりとかー! 何だか充実しちゃってたりするの。
いやぁ、本気で恋愛どうのこうのなんて、思わなくもなかったりあったりなかったりするんだけど、中身は疾うに成人しているが外見は子供だし、ラズアルさんがロリコンになってしまったらそれはそれで切なすぎるので、モニター越しにキャーキャーしている気分でトキメキを楽しんでたりする。
せめてもう少し体が育っていれば、と思わなくもないけれど、それはそれで貞操の危機もあるわけで実に悩ましい。
あと、ノブレス・オブリージュに目覚めたセネミアリナ嬢が日曜学校もどきを立ち上げ、文字の読み書きや算術を教えるに留まらず、職業訓練と斡旋みたいな事も細々とやりだしてて、平民だけではなく我が別宅の人たちも時間を作って通っている。
リオークア王のお膝元である王都では、中流以上の市民であれば最低限の読み書きや計算はできるらしいのだが、貧困に比例して識字率は下がっていく。
貧しさゆえに勉強する時間があるのなら働く、しかし選べる仕事は低賃金、まともな仕事へ就くには学が伴わない。
こういった下流市民には日曜学校へ来たら、お弁当を一食付けるという事で通う機会を作っているみたい。
また、職業訓練といっても職人みたいな仕事は直接弟子入りした方が早い事から、それ以外の事、貴族を相手にしても問題ない礼儀作法、内職しやすい仕立てを教えるなんてのが主で、日曜学校用のお弁当で料理実習とからしい。
礼儀作法や料理に関しては上流階級の家で働けるし、仕立ては内職をするもよし、資金を貯めて店を出す事だって本人の努力次第だ。
他は、官職希望者への個別授業といった特殊なケースもあり、将来を期待できる能力を持ちながら、資金面が乏しい人へは援助をしているんだよね。
セネミアリナ嬢に賛同する貴族がパトロンとなっているのだが、私もその内の一人なのだ。
いずれはきちんとした奨学金制度を設けて、意欲ある人材が育ったら良いんじゃないかなぁと思ってはいるけど、何せ前例がないからどうなるのかな。
ただ、稀に攫われて逃げてきた人たちの保護なんかもしているから、目障りに思う人も少なからずいるようで、何かと邪魔が入るらしくセネミアリナ嬢が気高くお怒りあそばしてた。
セキュリティ面でバックアップできればなぁと思う反面、やり過ぎるとセネミアリナ嬢の身辺が危ぶまれるかもしれないんだよね。
それに同じ貴族でも女は大人しく刺繍でもしてれば良い、なんて考えの人もいて、やり辛い事も多々あるようだし。
職業訓練日曜学校の件については、機会あれば人族でも魔力が高いと言われているセネミアリナ嬢の弟君と対面する予定なので、何か良い案は無いかと目下思案中である。
この弟君、うちの離宮にいる人も知っているようで、なぜか微妙な表情を浮かべつつ「以前、危ない所を助けていただきました」と言っていた。
お世話になったのならお礼を言わねばと思うのだけど、なぜ微妙な表情なのか。なぜに歯に物が詰まったような物言いなのか。
気になるんですけど。




