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魔王就任 【魔石編】  作者: 市太郎
誠意、または価値観の相違
34/37

魔王様と魔石 ■ 33

 以前、竜王さんが渡ってきた時のような、清々しいほどの野原ではなく、どこかぼんやりとした薄暗い空間で、でも不安を駆り立てるような闇でもなく、間接照明をギリギリまで落としたような、寧ろ眠りを誘うようなそんな安心感をもたらす空間だった。

 はて、と首を傾げ、辺りを見渡すも竜王さんの姿は見えず、誰が私と夢を繋いだのだろう。

 前回はイシュが竜王さんからのコンタクトを受けやすくしてくれたけど、今添い寝してくれてるのは夢渡とか不得意なサナリだし、そのサナリが傍にいないのだから彼の範疇外なのだと思う。

 私自身、夢の中まででも会いたいなんて思う人はいないし。

「…………」

 ちょっとだけラズアルさんと会えたら嬉しいかも、ってニヤけそうになる頬を両手で押さえた。

 いくらなんでも、それはストーカーじみてるから自重、自重。

 しかし、そうなると一体誰が渡ってきたのかな。

 何となく、竜王さんでないというのは分かるんだけど。

 改めて辺りを見回した先に、さっきまでは何も無かった場所へ、三つの物体が転がっているのに気づいた。

 何、あれ……と目を凝らすと、もぞもぞと動いている。

 一つは仰向けになって短い手足をもじもじと揺らし、一つはうつ伏せになって平泳ぎのように掻いて動きを繰り返し、一つは座っているように見える。

「…………赤ん坊?」

 薄暗い空間の中、物体の大きさはせいぜい五センチあるかどうかで、それだけ距離が離れているのだから、赤ん坊かどうかも危ういんだけど、なぜかあの物体は赤ん坊だと分かる。

 何で赤ん坊? 赤ん坊が夢を渡ってきたの?

 思わず漏れた呟きが聞こえたみたいに、赤ん坊が一斉にこっちを見るから驚いてビクッとしてしまった。

 びっくりした……と思った瞬間、赤ん坊が勢い良く四つん這いとなって、ハイハイしながらやってくるから戦いた。

「ちょっ…………怖っ!!」

 人間の赤ん坊ではあり得ない速度でやってくるんですけどっ! 赤ん坊の超高速ハイハイ怖いっ! 怖いからっ!!

 私、人間だった頃でさえオムツつけてるような赤ん坊と触れ合った事はなかったけど、このハイハイの早さはあり得ないってのは分かる。

 咄嗟に踵を返し、迫り来る赤ん坊から逃げ出したけど、距離は離れるどころか縮む一方だし、肩越しに振り返ると赤ん坊が大きくなってる!

 成長している大きさでなくて、遠近法の小さいから大きい的なっ、巨人の子供か何かなのっ?!

 間近まで迫った彼らは、立てば多分私の腰に軽く届きそうな大きさで、こっちだって必死に逃げているのに呆気なくも伸ばした手に捕まってしまった。

「っ! って、ちょっ! 私、人形じゃないからっ。やめっ。舐めないっ! 口入れない!!」

 喧嘩もせず順番に三人の赤ん坊から、あむあむアブアブと舐められしゃぶられ、一応私の方がまだ大きいというのに、どんな怪力なんだが持ち上げられるわで、瞬く間に涎まみれにされましたよ。

 手足や頭を無理に引っ張られないだけマシで、それでも三人分の涎で髪も服も濡れそぼる頃には体力を根こそぎ持っていかれた感じだった。

 喚こうが暴れようがまるっきりお構いなしで、挙句に満足行くまで舐め尽くされた後、げっぷまでされたらもうどうにでもして状態だよ。

 何なの一体。この赤ん坊たち、何なわけ?

 お気に入りのお人形でも抱えているような赤ん坊に、グッタリと凭れているんだけど、一緒に倒れたりしないし、胡乱な眼差しで残る二人の赤ん坊を見ると、目の瞳孔が縦長なのに気づいた。

「…………竜族の赤ん坊?」

 三人が、満腹ご機嫌といった調子で「ダァ」と声を上げ、何が楽しいのかキャッキャッとはしゃぎだす。

「って……いやいや。何で私の所来てるの?! どうやって渡ってきたのよ。親はどうした!!」

 と叫んだ所で返ってくるのは「アブゥ」である。アブゥじゃないよ君たちっ! 早くお母さんの所へ帰りなさいってば!

 早く早くと急き立ててみるが、三人で組んず解れつでジャレ合いだすし、帰れと地団駄踏んでもキョトンとした顔が三つ並ぶだけだしで、何か精も根も尽き果ててしまう。

 三人が元気でジャレ合うのを横目に、早く帰ってくれないかと膝を抱えていればまたもやなめ尽くされるといった有りさまで、漸く赤ん坊たちが寝てくれた頃、薄暗い景色が白み始めて私は目覚めたのである。

 目を開けると立派なサナリの胸筋があって、もう一回ふて寝したい気分になった。

 だから何で上半身脱いでるのよっ!


 どうやって赤ん坊が私の夢と繋げたのか、その手段がさっぱりと思いつかないけど、夢に関してのエキスパートであるイシュが何も言ってこない事もあったし、翌日の夜は何もなかったのでたまたまと思う事にしたんだよね。

 なんだけど、また数日後の夜に夢で赤ん坊が現れ、高速ハイハイでやってきては人の事をとっ捕まえて舐める舐めるしゃぶるしゃぶる。

 こう、性的な意味が無いからまだ我慢できるんだけど、スイカやメロンの皮にでもなった気分っていうの? 意地汚いから止めなさいって言っても聞かないし、高速ハイハイを何度も見るのは心臓に悪いしで、二度ある事は三度あるとも言うし、この先頻繁に続くならちょっと考えるべきかと思っていたわけ。

 そして、もしかしたら今夜辺りまた赤ん坊が夢で渡ってきそうで、寝ないで夜更かししようか悩んでいたら、添い寝当番のガルマが寝台から私を呼ぶのだ。

「魔王様、竜族の子らを気にされてるのでしたら、今夜限りと致しますゆえ、問題ございませんぇ」

 あ、やっぱりガルマは気づいてたんだ。そうしたら、イシュも気づいてたのかな?

「何で今夜限り?」

 ガルマがそう言うのであればそうなのだろう。

 疑問を口にしながら寝台に乗り上がると、子供を寝かしつける親のように布団をかけてポンポンとあやす。

「妾も今夜は夢の中でお傍におりますゆえに。彼奴らは魔力が足りず、魔王様から直接魔力を取っておりますからのぅ。ほんに厚かましい連中でございますなぁ。来るなと払おうた所で勝手に来るのであれば、致し方ございませぬ。魔王様のお眠りを妨げられるくらいならば、来ずに済むよう魔力を与えた方がよろしゅうございましょうよ」

 根本的にガルマはイシュのように私のする事は否定しないけど、肯定する時は大体ガルマのメリットが大きい場合なんだよね。

 何か、裏がありません? 善意のわけ無いよね?

「…………良いの?」

 胡散臭いと思いつつ問えば、薄っすらと笑みを浮かべて「お休みなさいませ」なんて言う。

 実に胡散臭い。

 胡散臭いとは思いつつも、答える気がないガルマに諦めて私は眠りについたのである。


 案の定というか、やはりその夜も赤ん坊達が現れたのだが、今夜は隣にガルマが居てくれたので少しだけ気が大きくなる。

 あの何度見ても慣れない高速ハイハイを一人で見なくて済むからね。

「ほんに、獣よのぅ。本能だけで渡ってきおる……」

 超高速ハイハイを見ても慌てる事なく、ガルマが鬱陶しそうに零す。

 そして、いつものように恐ろしいスピードで這ってきて、私を掴もうとする赤ん坊たちにガルマが声を掛けて止めた。

「これ、魔王様がお許しになっているとはいえ、些か図々しかろう?」

「…………」

 解せぬ。

 私がアレほど叫び、止めろと喚いていても聞く耳も持たなかった赤ん坊たちが、ガルマの言う事を些か怯えながらも素直に聞いているんだけど、どういう事? 威厳? 威厳なの?

 ガルマの背に隠れる私を無理に掴もうとはしないが、不満があるのかブーブーと頬を膨らませている。

「腹が減り、育つための力が足りず、魔王様の元まで来るのは分からぬではないがのぅ、力が足りぬは(うぬ)ら一族の責よ。魔王様に仇なしておきながらお縋りしようなど、竜族というのは生まれる前から恥を知らぬのかぇ?」

 赤ん坊相手に淡々と告げるガルマだが、絵面的に大人げないような気がしなくもないんだけど、それを口にしたらとばっちりがきそうで言えない。

 まぁ、ガルマの言う事も正しいんだけどさ。

 一方、言われている赤ん坊たちも、ガルマの言う事を理解しているのか、膨れっ面なんだけど文句の唸り声もなく眉間に皺を寄せて項垂れているもんだから、無駄に気が咎めてくる。

 というか、ガルマの言う事、赤ん坊なのに理解してるんだよね。竜族の子供って凄い。

「しかし、我らが魔王様は特に心厚きお方。汝らを憐れまれ、魔王様のお力をお授けしても良いと思われておる」

「…………」

 いや、同情はしてるけど、お授けしようかどうしようかまだ決めてないんですが? あれ? え? いつの間にそういう話になってるの?

 とはいえ、しょぼくれてた顔が一斉に跳ね上がって私を見るもんだから、そんな事言えるはずもない。

 三対から向けられる縦長の瞳孔が真ん丸になってて、期待の度合いが嫌でも伺い知れるんですけど。

「そういう訳でございますゆぇ、こちらに魔力を注いでくだされますかのぅ」

 そういう訳ってどういう訳、なんてキラキラと眩い表情を浮かべる赤ん坊たちの前で言えず、涼しい顔でガルマが取り出した三つの真珠を渋々と受け取る。

 確かに、子供が生まれなかったとかってなったら、悔いは残りそうだし、ガルマが良いと言うなら魔力を与えるのも吝かではないんだけど……絶対、何か企んでそうな気がするんだよなぁ。

 疑わしそうにガルマを見るも、細い目を更に細めてただただ笑みを浮かべているし。

 渡された真珠は割りと良い物で、かなりの魔力を溜め込んでくれる。

 魔力が満タンになった真珠を次々ガルマへ渡すと、ガルマは赤ん坊たちの口へ一つずつ含ませた。

「……さて、汝らの母は誰かぇ?」

 あむあむコロコロと口の中で魔石を転がしている赤ん坊たちに、ガルマがとんでもない事を問いかけると、赤ん坊たちは迷いなく私を見るじゃないか。

「はっ?!」

「重畳よのぅ」

「はいっ?!」

 どこが? 何がっ?!

 ガルマを問い詰める間もなく、辺りが白みだしてくる。

 ちょっと待って! 私は君たちの母親なんかじゃ……って、居ないしっ!

「どういう事よーっ!!」

 私が目を開けるなり、跳ね起きて叫んだのは仕方が無い事だと思うのよ。

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