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魔王就任 【魔石編】  作者: 市太郎
誠意、または価値観の相違
32/37

魔王様と魔石 ■ 31

 昨夜は中途半端に夢から覚めたりしたもんで、また今夜も来るのかと意気込んで寝てみたけれど気付いたら朝でした。

 結局、あの夜以来竜王さんが夢に現れることもなく三日過ぎた日の午後、仕事も一段落ってとこで海を見渡せる部屋でお茶をまったり楽しんでたわけですよ。

 本日のお茶請けは、素麺みたいに細いパスタもどきを中温弱で焦げないように揚げて塩と胡椒をまぶした物です。

 お酒にも合うこのスナックパスタを、いかに細かく齧れるかと一心不乱で噛んでいましたところ、海面の遥か向こうで妙に光り輝く点に気付いた。

 何、あれ。と、窓を開けてテラスに出ながら目を凝らしつつ注視しては見るけれど、距離があり過ぎて私の視力ではとてもじゃないけど確認できないのね。

「サナリー」

 その場にいないサナリを呼ぶと、すぐに傍らへと姿を現した。

「いかがされました」

「あ。あれ、あれ。何だか分かる? キラキラしてるの」

 そう言って水平線の彼方でキラキラしている光を指差してみせると、サナリが珍しくあからさまに表情を顰める。

「どしたの?」

「騎竜でございますね。何か運んでいるようですが……魔王様への貢物でしょうか」

「え? え?! ていうか、よく見えるね?」

 本当に遠くの遠くで、鏡へ光を反射させているようなきらめきしか見えないのに、サナリの視力には正直驚かされた。

「この程度の距離ならたやすく見れますが……魔王様もご覧になりますか?」

 サナリが差し出した掌を返すと、新体操なんかで使われるようなボールサイズの水晶玉が現れた。

 こういうのを目の当たりにすると、本当どういう原理で成り立っているのか不思議でしょうがなくなる。

 が、私そこまで頭良くないから科学的根拠なんか突き止められるはずもなく、不思議に思うそばから考えることは当の昔に放棄済みだ。

 覗き込んだ水晶玉に映っているのは、複数の騎竜が飛んでいる姿だった。

 騎竜の一頭は近くで見たことがあるから知っている。

 陽炎みたいに揺らめく淡い炎を赤い体にまとっていて、飛んでいる姿も綺麗だわぁとか一瞬和む。

 騎乗している人を見れば、案の定フィンデイルさんだった。

 もう一頭はと言えば、青ではなく白い騎竜。

 艶加減からパールホワイトみたいに淡くて柔らかい色合いをしていて、ほんのり発光しているようにも見える。

 こちらの騎乗人は、なんと竜王ご本人様だ。

 流石にナイリアスさんは来れないだろうね。

 一番後ろには二頭の騎竜が足並みならぬ羽ばたきを揃えて飛んでいるのが見える。

 それぞれの足にぶっとい鎖を掴んでいて、鎖の先には黄金の馬鹿でかい箱をぶら下げている。

 きんきらで長方形の箱、見た目、まんま聖櫃っぽい。

 竜王さんとフィンデイルさんに、荷物を運ぶペアを囲うように飛んでいるのは護衛の人たちみたい。

 うぅんと悩ましく思いながら見ていると、不意に竜王さんとフィンデイルさんの騎竜に続いて荷物組みも勢い良く上昇していく。

 どうしたのかと思えば、海面からイカのようなタコのような触手がうねうねと伸び上がってきているじゃありませんか。


 思い出したかのように海岸近くまで来ては、見詰め合うことで親交を深めていたクラーケンのクララちゃんです。

 名前は私が勝手につけました。

 軟体系なので、未だ立てませんけれど。

 一生立てませんけれど。

 慣れると妙に可愛いんですよ。

 キモ可愛いっていうの?

 円ら過ぎてどこ見ているか分からない目とかがね、段々可愛く思えてくるから不思議だよね。

 たまぁにやってきては、その長い触手を伸ばして窓をノックしたりとか行儀が良い。

 ノックされた窓が妙なヌルヌルで綺麗にするのが大変という後処理があったりはするけれど。

 手掴みならぬ触手掴みで食べられる魚をプレゼントしてくれたりと、大変に良い子なのです。

 ただ、持って来る魚がシャチサイズとかで私より普通にでかいのばかりだから、直接受け取ってあげられないのが残念ではあったりする。

 だって、ビチビチ動いてるしね。

 そんなの受け取ったら私軽く潰れるし。

 ガルマが受け取って、ガテン系魔族に手伝ってもらいながらサロエナさんが捌いてくれるのです。

 おっかなびっくりで食べてみると、これがなかなか美味しかったりしてね、何気にクララちゃんは美食家なのではないかと思っている。

 他にも、ちょっと触手を躊躇いがちに伸ばしてきたりするから、とある映画を真似て人差し指でそっと触れ合わせてみたりするとね、海面に沈んでいた触手がパッタンパッタン動いて嵐でもないのに一時的且つ局地的な大時化になったりとかね。

 その辺りにいる魚が衝動で気絶して浮かんでくるので、勿論腐らせない程度に捕獲して美味しく頂きます。

 その様子はさながら追い込み猟か火振り漁かといった具合で懐かしいもんです。

 あぁ、鮎食べたい。

 ですが、そんな微笑ましい思い出に浸っている場合ではなかった。

 見た目以外は可愛いクララちゃん相手に、護衛の人たちが一生懸命応戦しているのだけれど、クララちゃんとしては玩具発見の気分なのが水晶玉からも良く分かる。

 遊び気分でクララちゃんが口から勢いよく水鉄砲なんかを飛ばしちゃったりして、それ普通に殺傷能力あると思うんだけど。

 あ、一人落ちた。

 騎竜は素早く触手から逃れて無事みたい。

 海に落ちた竜族が触手に捕まって藻掻いている。

 ああ! クララちゃん、ぶん回しちゃ駄目ーっ!

 クララちゃん! 触手絡めて何をする気?!

 ちょっ! それ、大人向け! 大人でも初心者にしちゃ駄目ーっ!

『ア――――ッ!!』

 と、竜族さんの声が聞こえたような気がした。


「えーっと……取り合えず、クララちゃんからあの竜族を譲ってきてもらえるかなぁ。あのままだと本当に溺れちゃいそうだし……他の人たちは結界越えられるかな?」

 水晶玉から視線を逸らし、眉間を押さえながらこれからの段取りを考える。

「誰かしら魔族が付き添えば問題はないでしょう。ガルマエアータ大公を呼んで竜族の回収は任せます。奴らを招きますか? クラーケンは雑食なので何でも食べれますが」

「いやいや、竜王さん食べたら面倒でしょ。色々。取り合えず回収と案内してあげて?」

 だって、明らかに目指しているのはウチだしねぇ。

 私に誠意を見せろと言われてやってきてんだろうから、邪険に追い払う訳にもいかないでしょ。

 さてどうしたものかと考えていたら、サナリが徐に私を抱き上げたりするもんで驚いたのなんの。

 慌ててサナリを見ると少々ご立腹といった表情で水平線を睨んでいる。

 どうした? と思って私もサナリが睨む視線の先へ目を向けると、竜族御一行の光の点とは別に、物凄い勢いでこちらへ向かってくる光の点が見えた。

 結界なんて物ともせず、音速まっしぐらって勢いで一直線にやってくるあのフィラメント発光物体には見覚えがあるよ。

「…………」

 て言うか、伝書竜だと肉眼でも分かる距離までやってきたのに、速度を落とす気配が感じられなくて、このままぶつかるんではないかという不安で思わずサナリにしがみつく。

 目前まで迫って伝書竜に、あわやぶつかると身構えた私でしたが、サナリが伝書竜を勢いよく片手で叩き落としていた。

「っ……ちょ、手大丈夫?」

「問題ございません」

 慌ててサナリの手を見るけど本人はケロリとしてて、大したことはないみたいだったから安心したのも束の間、落とされた伝書竜は大丈夫かと一人慌しい私であります。

 伝書竜の方もこれまたダメージはないようで、一丁前にサナリを威嚇しているのかボフッとか火を吹いている。

「おチビちゃんも……大丈夫そうだね。親書持ってきたのかな。見せてくれる?」

 サナリの腕から下ろしてもらい、伝書竜に手を伸ばすと嬉々としながら飛び込んできた。

 首にぶら下がっていた筒を取り外して中に入っていた親書を見る傍ら、伝書竜は私の肩に止まってゴロゴロと喉を鳴らしている。

 用件としては、今結界の近くにいるから会って下さいって事だった。

 門前でアポを入れるなと思わなくはないけれど、事前に知らせて断られたらという予防策なのだろうか。

「取り合えず、竜族の誘導はサナリとガルマに任せるよ。イシュ」

「畏まりました」

 一歩下がったサナリが消えるのと入れ違いでイシュが姿を現す。

「お呼びでしょうか」

「うん。竜族が来るから謁見の間で会う準備を。暴れたりはしないと思うけど、念のためシャイアには警戒しておくように言っておいてくれる?」

「畏まりました」

 イシュも竜族が来ているのは気付いていたみたいで、水平線を一瞥しただけだった。

 彼らの要件が魔石というのは明白だけど、さてどうしようか。

「いかがされましたか?」

「うん…………一応、魔石も用意しておいてもらえる? 物はそんなに良くなくていいや」

「奴らに与えるのでございますか?」

 イシュが見るからに不満といった表情を浮かべる。

「こう、ちょこちょこ来られるのもねぇ。魔石を譲るまで粘りそうだし。どれくらい必要なのか分からないけど、ギリギリ、本当に最低限で。今後どうするか、後は竜族の出方次第かな。これで引き下がってくれるなら、あげちゃった方が楽かと思うんだけど……話の内容では譲るのも止める」

 舐められちゃうかな。ゴリ押しすれば与し易いって思われそうな気がしなくもないけど、そうなったら次は確実に無い。うん。それはもう決めた。

「……畏まりました。では、用意してまいります」

 イシュも何か思う事があるのか、渋々といった雰囲気だったけど魔石を用意してくれる気になったようだ。

 私の肩に乗った伝書竜には不満があるようで、眇めた目で見たけれどそれ以上は特に何も言わずその場から消える。

 私も彼らを迎える準備のために、肩には伝書竜を乗っけたまま部屋を出ていったのである。

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