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魔王就任 【魔石編】  作者: 市太郎
初外交
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魔王様と魔石 ■ 02

 向かった離宮では、無事に戻った皆が揃っていた。

 「お帰り、皆。旅行は楽しめた?」

 「おお、魔王様。態々お越し下されましたか。お陰様でご覧の通り、十分に堪能して戻って参りました」

 離宮に住む人間達の代表者でもあり、一番の長老でもあるカヌイリさんが笑顔で答えてくれた。

 「そっか。まずは無事に戻れて一安心だね。で、お楽しみのお土産は?」

 各地に旅行してきた人達の顔を順に眺めて返される笑顔に頷くと、いそいそと広げられているお土産へと目を向ける。

 「勿論、抜かりはございません。生物は流石に持って帰れませんでしたが、持って帰ってきました目新しい食べ物や、料理の書物はサロエナ殿にお渡ししております。後は、ガルマエアータ大公へお渡し致します穀物の種でございますな。こちらは、まだまとめておりませんので、後程大公へお届けする予定でございます」

 ふむふむとカヌイリさんの説明に頷く。

 長ったらしいので、ガルマと私は呼んでいるけど、流石に人間達が魔族の大公の名を省略する訳にはいかないから、ガルマエアータ大公と呼んでいるのだ。

 離宮の庭で育てている穀物を始めとする食材は、ガルマが管轄しているから離宮の人達とも接点が多い。

 これはどこそこ地方の織物であるとか、これはどこそこで買った耳飾であるとか、購入してきた人達が順に説明をしてくれる。

 魔界以外の場所へはまだ行った事が無いので、こうして皆のお土産と土産話を聞くのが私の楽しみであって、私にとっては人間界の情報を知る貴重な機会なのだ。

 先日から新たに住む事となったお嬢さん達には、大陸の南側へ旅行してきた女性陣から、アクセサリーや北では珍しい色合いで折られた布や服をお土産に貰って喜んでいる。

 魔界という不慣れな環境で、最初は緊張した表情だったけど、最近では良く笑う顔を見るようになった事も、カヌイリさんからそれとなく聞いている。

 元々綺麗で若いお嬢さん達だから、やはり笑顔でいてくれると、その場が華やぐなぁと密かに和む私。

 人間界への慰安旅行参加者には、幾つかお願い事をしているのだけど、カヌイリさんが説明してくれた件もその一つ。

 今、噂話程度の各国間の情勢とか、各国でどんな物が流行っているのかとかね。

 他には、各地の特産品や、買える穀物の苗とか種、料理に関しての本があれば積極的に購入して貰っている。

 サロエナさんは確かに腕の良い料理人であるけど、基本的にオニエール国から出た事が無いのね。

 だから、他国の料理の本を買ってきてもらえれば、後はサロエナさんが研究して美味しい物を作ってくれる訳。

 傷み易い物は無理だけど、後日サロエナさんと一緒に皆でランチにしたり、ディナーにしたりと、お土産話に花を咲かせながら、買ってきてくれた食材で料理をして楽しむのだ。

 そして、我が離宮の庭は更なる食材の発展を遂げて行くのである。

 素晴らしい、と自画自賛に浸る私。

 人間達も楽しめて、私の食生活も安定してと一石二鳥な慰安旅行なのだ。

 「それとお預かりしておりました魔石ですが、今回も全て買い取って貰えたのですけど…」

 そして頼んでるもう一つの件が、魔石を売って来て貰うって事なんだけど、カヌイリさんの歯切れが悪くなった。

 「何か問題あったの?」

 「それが、少々雲行きが怪しいと申しますか……魔石を買い取って貰う事自体は問題は無かったのですが、どうも卸す数が少な過ぎるようでして。ある分だけ売ってくれとしつこくせがまれました」

 カヌイリさんが別の人へ、同意を求めるように目を向ける。

 「私も危うく掴まって、閉じ込められそうになりました。あ、怪我等は全くありませんから。丁度お迎えの魔族の方が来て下さったので」

 「俺もかなりしつこく後を付回されましたね。どうやら、前回に持っていった魔石がかなり評判が良かったみたいですよ?」

 旅行参加者から次々と報告を受けて、むむと眉を寄せる。

 「今、人間界の鉱石店では魔石の鉱脈を躍起になって探しているようなのですよ。その為、魔石に関しての情報を提供する者には、情報料として金貨五十枚が支払われるとかで、かなり物騒な連中に追い掛け回されました」

 なぁ? とカヌイリさんの言葉に、旅行参加者全員が何度も頷いている。

 「えー。それじゃぁ、暫くは魔石を売って来て貰うのは見送ろうかなぁ……そんな危ない目に合ってまで売って貰うモンでもないし。皆怖い思いさせてごめんね? そんなに凄い事になってると思って無かったからなぁ……うぅん……取り合えず、次回は魔石は売って来なくて良いから。何が何でも人間界のお金が必要って訳でもないし、次回の慰安旅行は安心して行ってきて? カヌイリさんも、話がまとまったらいつものように連絡して頂戴ね?」

 楽しんでもらうつもりが、怖い思いをさせてたのでは意味が無い。

 謝る私には皆恐縮して慌ててたけど、変に遠慮されたら私の食への追求に弊害が生じるので、次回の慰安旅行の計画もちゃんと立てるようにと、カヌイリさんに強く念を押して離宮を後にしたのである。

  

 人間界へ持ち込んで売っている魔石というのが、元々は魔力や精を主食とする魔族用の携帯食なのだ。

 天然の魔石というのは存在しなくて、魔王の魔力を吸い取った鉱石が魔石と呼ばれる代物になる。

 作り方も至って簡単。

 魔王が居る場所に鉱石を置いておけば、数日すると鉱石が魔力を吸収して魔石が出来上がるのである。

 初めて魔石に付いて聞いた時は、除湿棒とかが頭に浮かんだんだけど、実際似たような物だと思っている。

 先代の魔王が居なくなってから、魔王不在の期間が長かったから、魔石は殆ど魔力が無い状態だったのね。

 で、魔石の唯一不便な所というのが魔王が代わると、魔石へ魔力の補充が出来なくなってしまうのよ。

 魔力の質が異なるからというのが原因。

 鉱石は魔力との相性が良いみたいで、浸透するのは早いし良いんだけど、一旦注ぐとどうしても元の魔力が抜け切らないというか、染み付いちゃって取れないのよね。

 先代魔王時の魔石はもう携帯食にもならないし、はっきり言って用済みだったんだけど、染み付いて取れない分の魔力が少しだけ残っているの。

 この微量加減が人間界では丁度良かったみたいで、結構良い値段で売れるって事を聞きまして、慰安旅行へ行くついでに人間界の鉱石店で買い取って貰おうって事になった訳。

 魔界と人間界では使用している貨幣は異なるけど、人間界の物を買うには人間界のお金が必要でしょ?

 ガルマのドレスも、人間界で特注して作らせている物もあるし。

 唯、ガルマのドレスがどのように支払われているのかは、プライベートな事だから詳しくは聞いていないけどね。

 魔界で流通していない貨幣でも、たまには使われるという事で、ある程度は貯めてあったりするのです。

 一応、魔界にも衣食住に関する職業はあるし、質だって人間界に負けず劣らずなのよ?

 人間が馴染めないのは食ぐらいだろうけど、他は人間界へ持ち込めば高い値が付くのは間違い無しってクオリティーなのです。

 慰安旅行に限らず、例えば新たな家畜の買付けで、人間界へ行く必要が生じた時とか、折を見て魔石の在庫処分をしつつ、しかし希少価値を持たせる為にチマチマ売り付けてたから、魔石だけでかなりの金貨を蓄えられた魔王殿なのでありました。

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