魔王様と魔石 ■ 26
イシュが添い寝をしてくれた事で、ゆっくり寝れた事は感謝しているのよね。
本当に。
なのだけれど、イシュだけっていうのは公平さに欠けてしまうので、当然のように他の三人とも順番に添い寝するようになった訳なのよ。
そこまでは、まぁ良しとしましょう。
お陰で、夜中に突然飛び起きるなんて事は確かになくなったしね?
でも、こういうのって慣れたら色々と不味くない?
朝、目を開けたらいつも素敵な胸筋がある訳よ。
何でお前らいつも起きると肌蹴た胸を見せ付けてんだ。
寝る時はちゃんと服着てたじゃないか。
何で夜だけガルマは男に戻ってんのよ。
うっかり抱きついて頬擦りしそうな自分が凄く怖くて嫌だ。
近い内に絶対誘惑に負ける自信があるよっ。
当初の理由とは異なる理由で、寝るのが怖くなってきた私はそろそろ独り寝でも良いんじゃないかと打診してみたのね。
まずはイシュ。
イシュにそろそろ独りでも寝れるからと言ったら、理詰めで返されて何も言えなくなりました。
曰く、添い寝をするしないでは、明らかに添い寝をした方が成長に宜しいとか。
曰く、また魔力が乱れて夜中に飛び起きるとも限らないとか。
曰く、まだ右足に魔力の歪みが残っているとか。
実際、たまに右足が強張って転ぶ事もあって、全てにおいて反論ができない有様なのよね。
それに、本当に添い寝だけだから、もっともらしく言われてしまうと強くも出れないし。
だから、イシュは諦めてガルマに打診をしてみたけれど、端から相手にされていないというか。
曰く、皆が添い寝を止めるならいつでも止めると言われてしまいました。
こう言われてしまうと、分かったとしか言えないじゃない?
一応サナリにも打診はしましたよ?
もうね、雨の日に遭遇してしまった捨て猫みたいな目で見られながら、自分が嫌いなのかとか詰め寄られるとどうしても負けちゃうのよね。
シャイアなんか、今日こそはと挑んで寝室へ向かえば、ベッドの中で狼になってるのよね!
尻尾はたはた振って待ってるわけよ!
飛び込むしかないでしょう!
毛、もっふもふだよーとか喜んじゃうでしょう!
卑怯者め!!
毎回狼姿のシャイアに飛びついているのを聞きつけたのか、この間なんかはベッドの中でサナリが大鷲の姿に戻って卵でも温めてんですかって具合だった。
サナリが余りにも馬鹿可愛くて何も言えなかった。
そんなこんなで添い寝習慣が始まってから三ヶ月ほど経過しましたが、現在進行形で継続中なのであります。
終わりが見えないのです。
誰か奴らに勝てる、良い知恵を授けて下さい。
そんな些細な悩み事はあったりもしたのだけれど、添い寝してもらってるお陰でだいぶ気持ちの整理もできてきたというか、竜族や竜界の事を考えても前みたいな嫌悪感情は薄らいできた方だと思う。
目の前にいるとなるとまた違うとは思うんだけど、考えただけで思い出しては体を強張らせていたのも段々少なくなってきているし。
時折、右足が強張って転んでしまった時にはイシュがマッサージなんてしてくれたりとかね。
皆に甘やかしてもらってる内に、自分の中でも少しは余裕が出てきたのだと思う。
だからなのか、最近になってその後の竜界はどうなったのかなぁって、ふと思ったりするんだよね。
別に、好んで自分から様子を知りたいとも思わないし、できる事なら今後も関わりたくないという気持ちには変わりないけれど。
甘やかしてもらってるのをいい事に執務もせずにだらだらだと過ごして早半年が過ぎた頃、流石にこのままではニートのようだと思い至って執務を再開する事にしたのでした。
元々『魔王』は執務する必要はなくて、どちらかと言えば大公達の仕事になるんだよね。
なら『魔王』の仕事は何かと問われたら、魔力という名の妊娠促進剤と能力啓発促進剤の散布かな?
これに関しては、魔界全域に広がっている魔力のお陰で効果があるようだから、特別に個別指導しなくても済んでいるといった感じ。
そうなると毎日が暇過ぎてしまうので、暇潰しに執務をこなしている私なのであります。
執務を再開してから数日後、意を決してイシュに竜界の事を聞いてみた。
「そう言えば……竜王さんから親書が届いてたって言ってたけど、どうなったの?」
嫌な事を全部丸投げした手前、今更気にするのも少々調子が良すぎかと思って、問い掛ける声も自然と小さくなってしまう。
でも、やっぱり気になる事は気になるし。
「……魔王様が魔界にお戻りになられた当初は、魔王様の安否と改めて詫びたいといった内容でございましたね。魔王様はお体を休まれてる最中でございましたので、事実そのままをお伝えしておりました」
先まで穏やかな表情だったイシュが、渋い表情で答えてくれた。
「目が覚めてからは?」
重ねて問うと、渋い表情が不機嫌そうな表情へと変わっていく。
何か不味い事聞いたかしら。
「ワタクシといたしましては、魔王様は竜族の事など気にする必要はございません。これは魔族の総意でもございます」
う……総意とまで言われてしまうと、これ以上は聞きづらい。
大人しく引き下がろうかと思ったところへ、イシュが溜息混じりに言葉を続ける。
「ですが、魔王様がこのような事で気に悩まれるのも不本意ではございますのでご説明致しますが、竜界と全面的に遣り合うも吝かではありません。これも魔族の総意である旨とご承知頂きたい」
「……えっと……はい」
思わず背を正して頷いてしまいました。
「まず、お戻りになられてから七日に一度の割合で安否を問う親書が届いておりました。お目覚めになられた頃より、改めて詫びに伺いたい旨の内容が主となりまして、現在も頻りに届いております。魔王様がお目覚めになられてからこちら、頻度は多くなりまして三日と空けずに親書が届いております。内容はほぼ同じですがご覧になりますか?」
と、イシュが掌を返した先には、お茶屋さんで見かける茶箱サイズの箱に積み重ねられた親書の山があった。
蓋を閉められないほど重ねられた紙を一枚一枚見て行く気にもならず、内容が同じならばと首を横に振って答える私はずぼらであります。
「親書の内容は此度の件に関して魔王様へお詫びをしたいとありますが、実際には魔王様の魔力を目の当たりにし、そのお力に縋りたく必死なようでございますね」
嘲笑混じりのイシュの言葉に小首を傾げる。
「と言うのも?」
「魔王様の魔力ないし、魔石が欲しいようでございます」
流石に、調子良すぎだろうと思ってムッと顔を顰めてしまったが、イシュの先程の言葉を思い出して慌てふためく。
「あ……真っ向から遣り合うって……竜族が腰を上げてやってくるの? 大丈夫? 戦争とかになっちゃう?」
「それは大丈夫です。問題はございません。仮に竜王自ら旗を取り魔界へやってきたとしても、我等が魔界の領域には空であろうと海であろうと入る事は叶いません」
先までの険しい表情から打って変わって、機嫌の良い誇らしげな笑顔でイシュが断言する。
「そなの?」
寧ろ、その断言しきれる根拠は何なの? と逆に小首を傾げる私へ、イシュが更に説明してくれた。
「魔王様自ら張られた結界がございますので、竜族が侵入する事は不可能でございます」
「…………はい? え? 私、いつそんな事したの?」
「お目覚めになられた際に。ガルマ殿が竜族の件について魔王様へお伺いした所、魔王様自ら結界を張られました」
「……えーっと……したかな?」
何せ半年前の事だから記憶が曖昧なもので、頻りに首を傾げている私にイシュが深く頷いて見せる。
「なされました。その時に、魔界全域に結界が施されたのでございます。現に何度か竜族が魔界へやってきておりますが、未だ魔界に入る事も叶わない有様。一瞬にしてあのような結界を施してしまうとは、流石は魔王様でございます。その結界の美しさも流石としか言い様が無く……」
なぜか、やけに勝ち誇った笑顔をしていたイシュが恍惚としだしたので、流石に学習した私はイシュが我に返るまで体を小さくしてその場をやり過ごしたのでありました。




