魔王様と魔石 □ 22
竜王がナイリアスを呼び出してからどれ程の時間が過ぎたのか。
一瞬、魔力の乱れを感じたのだが、おおよその方向を掴んだのみで場所の特定にまでは至らなかった。
我等の知る魔王様の魔力のようでもあるが違和感を伴う上に、乱れに乱れた魔力は頻りに移動を繰り返して場所を掴み切れないのだ。
サナリラナイアを横目で見ると、同じく怪訝と思っていたのか僅かに瞼を伏せて応えてくる。
過去の『魔王』も見てはきたが、『魔王』の持つ力の全てをワタクシとて知る訳ではなく、この様な魔力を感じるのは初めてである。
しかし、どうしたものか。
勝手をするにも情報が少な過ぎる。
そんな中、王の呼びかけにも答えず、一向に姿を見せないナイリアスの異変を知ったのか、一度退出した者達が再び忙しなく出入りを始める。
「竜王殿。先程申されていた秘玉の島なる物に付いてお教え願いたいのだが」
連中を横目にただ待つのも時間の無駄である為、件の『秘玉の島』に付いて竜王に問うてみる事にした。
「あぁ……そうだな。我等竜族がこの地に於いて一番古い種であるのは承知の通りであるが、人間族が現れるよりも昔、我等一族は人型ではなく竜として其々が持つ島で暮らしていたのだが、一時期島が足りぬ程一族が増えた事があり、人型となりこの王都なる島で住むようになったのが今の竜族の始まりと言われている。秘玉の島とは、一言で済ませば遥か昔に竜として過ごしていた名残だ。我等竜族は古くから『宝』を集める事を好む。宝その物は他者が見ればガラクタと思われる物から価値のある物、高価な物と様々なのだが、竜として過ごしていた頃に己の島に『宝』を隠ししまっていた習慣が未だ続いているのだ」
一度竜王が言葉を切ると、フィンデイルが付け足す。
「今では蒐集した物をしまう倉庫代わりが現状なのだがな。蒐集した物を見せる機会もあり、秘玉の島自体へは招かれれば誰でも入れる事は可能だし、竜王の権限で許し無く入る事も可能ではある」
フィンデイルから再び竜王が説明を続ける。
「問題は、島の主が『宝』をどう扱っているかでな。フィンデイルの言うように蒐集した物を見せるような『宝』であれば我等も直ぐに動けるのだが、秘した『宝』となると王である我でも触れる事が出来ぬ」
「王の力を以ってしても……か?」
サナリラナイアが怪訝に問うが、我等魔族から見ればそう思うのも仕方の無い事である。
我等の王が持つ力は魔族であれば何人からも影響はされず、王の干渉を赦さない物等は無いのだ。
ガルマエアータが魔王様の成熟を促す為に色々調合した物を与えているようだが、結果が現れないのは我々からは影響を受けない為である。
「何人たりとも、力を以ってしても、術を以ってしてもだ。無論、王である我でも同じ事。『宝』をどの様に秘すかは個々異なるのだが、要は誰にも触れる事が出来ぬよう結界を施す。この結界を解く事が出来るのは『宝』を秘した持ち主のみだ」
竜族の長である王であっても結界が解けないというのだから、今こうしている間も魔王様の魔力を微塵たりとも掴めない以上、相当強力な結界であろうと予想は付く。
「万が一にも、結界を張った島に篭られてしまえば、結界に触れられぬ以上我とて手が出せなくなる。貴殿等には一刻の時も惜しい気持ちではあろうが、そういう事情である為まずはナイリアスの身を優先して押さえておきたいのだ」
「事情は理解した。竜王殿が惜しみなく協力して下さる以上、我等は従うまで」
急く気持ちに変わりはないが、竜王の言葉には納得できるものがある為、一先ずは大人しく竜族の采配に任せる事とした。
「すまぬな」
「イシュアレナ殿。ナイリアスは魔力に酔ったと申されていたが、正気に戻る事は可能だろうか」
話に区切りが付いた所で、フィンデイルとしては気に掛かっていたであろう件を問い掛けてきた。
「さて……魔王様と離れていれば、数日の内に酔いも醒めると思われる」
但し、魔力に惹かれた影響は何かしら残るとは思うが、態々知らせてやる必要も無い事である。
今代の魔王様に限らず『魔王』の持つ魔力という物は、魔族だけではなく魔力を持つ身に取っては強過ぎる物なのだ。
魔族の王と言うよりも、魔力持つ者全ての王とも言える。
魔王様に近しい我等大公であっても、ただ魔王様の力を取り入れているだけでは、ナイリアスのようにとち狂うのが落ちであるが、我等魔族は魔王様より与えられた魔力を取り入れ、己の魔力と融合した後に発散し、再び新たに魔力を取り入れてと繰り返しながら己の魔力を高めているのである。
幸いと言うべきか、フィンデイルは取り入れた魔力を我が一族が吸い取っていた為に魔力に酔わずとも済んだが、ナイリアスの結果を見る限りではどうも得た魔力の融合と発散が出来ないように見受けられる。
竜族の事を詳しく知る機会は無かったが、子が出来難いというのも案外その辺りが問題なのやもしれぬ。
竜族の、特に女の魔力が低下している上に、取り入れる魔力も無ければ、融合する術も知らぬとあっては魔力が弱っていくのも道理。
ならば、竜族はゆっくりとだが確実に衰退していると思われる。
そう思い至った時、何とも言えぬ愉快さが身に広がっていく。
淘汰される道へ少し後押しをしてやろうかとも思ったが、急ぐ必要はないと思い至る。
まずは魔王様の無事を確認してから、今回の始末は改めて考えよう。
しかし、ここまで出向かせられたのだから少しは置き土産を残しておこうか。
そう、つらつら考えているところへ、ようやくナイリアスが戻ってきたのだが、その気の乱れにいささか驚きを覚える。
心なしか血色も悪い上に魔界へ訪れた時に見れた落ち着きも今はなく、血走った目で我等を見るとあからさまに忌々しい表情を浮かべるあたり余裕も無いようであるが、そんな表情も一瞬で隠したナイリアスは王の前へ赴くと片膝をつき臣下の礼を示す。
「兄上……いえ、竜王様。参上遅くなり大変申し訳ございませんでした」
そんなナイリアスの変わり果てた姿に、竜王を始めとし、フィンデイルや他の竜族の者も気付き不審な表情を浮かべている。
「直ぐに来れないのであれば連絡を入れるように。今回は不問に処す。……ところでナイリアス。その竜血の乱れはいかがした?」
竜界では気の事を竜血と称しているようだ。
王直々の呼び出しを無視した事を不問にするほど、竜血とやらの乱れに重きを置いているらしい。
「少々体調を崩したようで。お許し願えるのであれば、このまま島へと戻り乱れが整うまで休ませていただきたく」
「体調を崩しただけで竜血が乱れるのは問題であろう。竜血の乱れは、己の意思とは関係なく本能の赴くままに竜化を促し、自身を律する事は難しい。定めに従い、その身を預かる。竜血の乱れが整うまで大人しくしておれ」
「それには及びません。島で休めば直ぐにも整います」
「直ぐに整うのであれば、この場で直ぐに整えよ。整えられぬのであれば、場所がどこであろうと変わりあるまい? 竜血を乱している以上、お前に反論の余地は無い。大人しく乱れが整うまで控えていろ」
「…………かしこまりました」
思いのほか語気を強めた竜王に、やむを得ず了承したナイリアスは近衛に連れら別室へと去っていった。
それからは早かった。
竜王とフィンデイル、そして数名の側近は連れ立ってナイリアスの秘島へと向かい、我等は待機を強いられたのだが存外に早く竜王と連れ立ち離れた側近の一人が戻ってきた。
魔王様が見つかったからと、その者に案内されて向かった先は大きな洞窟の中だった。




