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魔王就任 【魔石編】  作者: 市太郎
大公と竜族
21/37

魔王様と魔石 □ 20 ※

 切羽詰った、警鐘する『声』が響いた瞬間、殿内に詰めていた全ての上位魔族が瞬時にその場へと移動した。

 意識を失った魔王様を抱えたナイリアスが繰り出す攻撃と、『声』を上げた者が咄嗟に張った防術とが衝突する。

 術のぶつかりにより発した激しい爆発音と共に高温の蒸気が辺りを包む中、視界を塞ぐ白い蒸気の向こうにいるナイリアス目掛けて双頭双尾の影が一躍していく。

 傍らでは、サナリラナイアが片腕を払い一陣の風を起こし蒸気を吹き飛ばす。

 しかし、視野が晴れた先には魔王様は疎かナイリアスの姿は既に無く、後手に回った忌々しさに舌打ちが漏れる。

「迂闊だったのぅ。よもや、秘して仇になるとは思わなんだ」

 大人数で詰めるには決して十分な広さとは言えない廊下にて、シャイアマティウに押さえ付けられたフィンデイルの姿を見たガルマエアータがぼやきを零す。

「さて。我等が王をいずこへ隠したか教えて頂けぬかぇ?」

 見下す魔族に膝を付かされた屈辱か、フィンデイルの浅黒い肌が紅潮している様子も構わず、寧ろ楽しげな笑みを浮かべてガルマエアータがゆっくりと歩み寄り問い掛けた。

「……貴様等、竜族である俺にこの様な仕打ちをしてただで済むと思うのか」

 力のあるシャイアマティウを振り払おうとするフィンデイルは流石は竜族である。

 僅かに揺らぐシャイアマティウに加勢しようと、前に出たゼシェアラルを目で制したガルマエアータは、一層笑みを深くしてフィンデイルを見下ろす。

「異な事を申されるのぅ。我等魔族が王を奪われ大人しゅうしてると思われるかぇ?」

「戦となっても構わないと言うのか」

 ガルマエアータを睨むフィンデイルの言葉に、ガルマエアータを始めとしその場に居た魔族全てが嘲笑を浮かべる。

 侮られたと思ってか、フィンデイルが声を荒げる。

「魔族が滅しても構わぬと言うのかっ」

「一向に」

 冷めたガルマエアータの言葉に、フィンデイルが唖然と言葉を失う。

「なぜと思われるかぇ? だがのぅ、貴殿に教えてやる道理等は持ち合わせておらぬ。それに、問うておるのは妾よ」

 ガルマエアータは手にする閉じられた扇子をフィンデイルへと向けると同時に、それは針のように細く長い剣へと変わった。

 斬る為ではなく、突き刺す為の剣だ。

「竜族は鋼のごとく硬い肌を持つと言われるが……全てが硬い訳ではあるまい?」

 フィンデイルの眼球寸前に、鋭利な剣の先を向けてガルマエアータが笑みを浮かべる。

「抉り取った貴殿の目玉、竜が王へ魔石として献上してみようかぇ?」

 更に口角を吊り上げながらガルマエアータが僅かに腕を押し進めると、切っ先が眼球に埋まり血の雫が溢れてくる。

 あたかも涙を流すように滴る血にも動揺は疎か、僅かに顔を歪めただけで瞬きもせずにガルマエアータを睨むフィンデイルは大したものである。

「我等一族、滅した所で痛くも痒くも無いが、数が減るを恐れる貴殿等竜族は、我等とやりおうて更に数を減らすのは得策とは言えぬのぅ」

 滴る血を切っ先で掬い取りつつ酷薄な笑みを浮かべるガルマエアータと睨み合っていたのは束の間、フィンデイルが力を抜き視線を伏せる事でガルマエアータは剣を引き、併せて押さえていたシャイアマティウもその背から離れる。

「後は貴公に任せる故に頼んだぞぇ」

「貴公は?」

「妾は他にすべき事をするまでよのぅ。シャイアマティウも後は任せて、逸る者共を抑えるが宜しかろうよ」

 剣は既に血塗れた扇子へと戻っており、それを楽しげに振りながら答えたガルマエアータは、その場に揃っていた連中を散らし消え失せる。

 あの得た血で何を企んでいる事か。

 或いは、付けた傷で何かを得たのか。

 碌でもない事に違いは無いであろうが、今はその様な事を気にしている暇はない。

「もう一度だけ聞いてやろう。我等の王をいずこへ隠した?」

 再度の問い掛けに逡巡するフィンデイルへ、シャイアマティウが淡々と告げる。

「弟を庇い、俺を遮ったのだろう。共に企んでいたのであれば、貴殿も早々に消えているはず。既に囚われている以上、無為に時間を消費するのはいかがと思うがな」

 シャイアマティウはそう言い捨てると、サナリラナイアへ目配せをしその場から消え失せる。

 この場に残ったのはフィンデイルと、サナリラナイアにワタクシだけとなった。

「……抗う気は無いが、俺を自由にした上に貴殿等二人だけか」

「貴殿を軽んじている訳ではないが、この魔族の領土にて貴殿一人がどこまで出来る。貴殿も重々承知をしているからこそ大人しくしていたのであろう。シャイアマティウも言ったが無為に時間を消費するのは互いに得策とは言えぬな。第一我等は無益な争いは好まぬ」

「残虐を好むと謳われる魔族が無益な争いと言うか」

 フィンデイルの言葉に嘲笑が浮かぶ。

「勘違いしておるようだ。『娯楽』ならば十分に有益であろう? 貴殿を嬲りたくなる程腸は煮えくり返ってはいるが、今した所でただの無益。先ずは魔王様を連れ戻す事が先決」

 思わずといった様子で口を開きかけたフィンデイルだったが、緩く頭を振った後にゆっくりとした動作で立ち上がる。

「魔王殿がどこへ連れて行かれたかは、俺も正しくは把握していない。一旦、戻り事の経緯を王に報告したい。恐らく、ナイリアスの持つ島の一つとは思うが、王の許しが無ければ干渉は許されん。そこは承服して貰いたい」

 一刻も早くと逸る気持ちはあるが、急いて一層時間を取っては意味も無い。

 都合の良いフィンデイルの言い分には苛立ちを覚えるが、仕方が無いと一応は了承する事にした。

「一つだけ言わせて貰いたいが、今回の件は決して竜族の総意では無いと理解頂きたい。王とて、事を起こす為に我等を使わした訳では無いし、他意があった訳ではない。……本来、ナイリアスもあの様な凶行を起こすヤツでは無いのだ」

 起きた事実は否定できぬが、それでも身内の凶行が信じられないとフィンデイルが肩を落とす。

「魔力に酔うた未熟者の愚行であろうな」

「魔力に酔うだと?」

 フィンデイルが怪訝に問うてくる。

 無駄口に時間を消費するつもりは更々無いのだが、説明をしなければ動く気配を見せないフィンデイルに一層の苛立ちが募る。

「貴殿等竜族で例えるならば、血に酔うと言った所か? ここ数年魔界は力溢れる魔力に満たされている。魔力を持つ身とは言え、魔族程魔力に馴染みの無い貴殿等には過ぎた毒だったのだろう。本来持っている思いが徐々に増長し、自身も気付かず内に逆上せ上がり気ばかりが昂ぶっていったのだろうな」

 粉砕した真珠の倉庫として利用している部屋の前だ。

 辛うじて理性で抑えていた所へ、魔王様と会った事で運悪くも魔力の名残か残り香に中てられた結果であろうとは想像が付く。

「しかし、それならば俺とて『魔力に酔って』もおかしくないはずであろう」

「貴殿は我が一族が直々にお相手を務めたであろう?」

 嘲りを含む笑みで答えれば、気まずさか一瞬フィンデイルが押し黙る。

「ならば……」

「フィンデイル殿。我等は逐一貴殿の問いに答えねばならぬ筋は無いが?」

 尚口を開くフィンデイルをサナリラナイアが容赦なく遮る。

「すまない。一先ず、王の下へ共に行ってもらおう」

 ガルマエアータの事だ。

 これ以上後手に回らぬように何かしら策を講じているだろう。

 シャイアマティウも万が一に備えて動いているはず。

 先ずは、魔王様の現状を確認する必要がある。

 そうして、フィンデイルに従いサナリラナイアと共に竜界へと渡ったのである。

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