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魔王就任 【魔石編】  作者: 市太郎
EMG!EMG!!
18/37

魔王様と魔石 ■ 17 ※

【R15】これより暴力表現及び差別的思想の描写が含まれますのでご注意下さい。

 私の寝室にあるベッドは最高の一品である。

 一晩で数百万もするスィートのベッドなんて体験した事は無いが、シーツの肌触りやベッドの硬さ、枕の高さと全てに於いてフィットしていて、私の為のベッドなのだから最高と思うのも当然だけどね。

 そんな最高なベッドだったのに今日はやけにデコボコとしている。

 デコボコといっても決して硬い訳ではなく、寧ろ柔から過ぎて体が沈みそうなのにデコボコだから寝心地が非常に宜しくない。

 それに、寒い訳ではないが掛け布団の重みも感じられない。

 絶妙な重みもさる事ながら、抱き枕にもなる素晴らしい掛け布団が無いとはなんたる事だ。

 どこへ蹴飛ばしたのかと、そんな不満を覚えて眉を潜めた辺りで目が覚めてきた。

 ぼんやりとした視界に広がるのは一面の青。

 薄い青から濃い青とあるが濃淡が並んだグラデーションではなく、無秩序にある為モザイクが掛かったような青。

 私の部屋に視界を覆う程の青い物なんて無いはずなんだけど何これ。

 寝ぼけた頭で不思議に思っていたけど寝入る前じゃなくて、気を失う前の事を思い出して飛び起きた。

 慌てて辺りを見回した私は、その光景に動きを止めて呆然としてしまった。

 少し離れた先には幅の狭い流れる水で出来た柵が並んでいる。

 視線を上にと向けていけば、柵は上部で湾曲して一箇所に繋がっていてて、その釣鐘のような形は正に鳥篭その物だ。

 十畳程の空間にすっぽり入るような馬鹿でかい水で出来た鳥篭。

 閉じ込められたんだ。

 そう気付いた途端、自分でも青褪めるのが分かる位一瞬にして血の気が引く。

 なぜとか、どうしてとか、ここどことか、考えたって答えが分かる訳でもないのに、そんな事ばかりが繰り返し消える傍からまた浮かんでくる。

 衝動のままに立ち上がり柵へと駆け寄ろうとしたんだけど、手が届く寸前で足を取られて転んでしまった。

 大小様々に敷き詰められた青いクッションのお陰で痛くは無かったけれど、これのお陰で足元が危うくなったんではないか。

 八つ当たりな気持ちで一つを掴んで柵へと放り投げるが、柵に弾かれて戻ってきてしまった。

「…………」

 流れる水のように見える柵へ当たったはずのクッションだけど、飛沫も上がらなければ水の流れも崩れなかった。

 手近のクッションを再度掴むと、今度は力を込めて勢い良く投げ付けてみたが一緒だった。

 一瞬どうなってんのかと眉を寄せてしまったけれど、合成物の無い世界なのだからこれも所謂魔術の一つなのかな。

 辺りを見回すと幸いなのかナイリアスさんは疎か誰も居ないので、もう一度柵を確かめようと立ち上がり近付こうとしてまたもや転んでしまった。

「っ……何なのよっ!」

 クッションの海を蹴飛ばそうと足を浮かせた時、足首に見慣れぬ物が巻き付いているのに気付いて動きを止めた。

 大人の指を二本揃えた程の太さをした蔦に見えるけれど、真紅よりも黒味掛かったその色は、血を染み込ませて乾かしたようにも見えて嫌な気分を覚える。

 クッションを掘り返すと床というか地面が見えた。

 水で出来た鳥篭は床も水で出来ていて、荒削りな岩の地面が透けて見えているけれど、触っても水の冷たさは感じないし寧ろぬるま湯な温かさがあった。

 水は流れて見えているのに、指を突き立てると普通に硬くて下手をしたら突き指しそう。

 目晦ましみたいで長く見ていると気分が悪くなりそうだったが、今はそんな事気にしている暇はなくて、足首に巻き付いている蔦を見ればクッションの海の中へその先が続いている。

 引っ張ると手応えがあるからどこかに固定されているのは分かった。

 私が転んだ所から見ると、寝そべって柵へ手を伸ばしても届かない辺り、篭の中心で固定されているみたい。

 クッションを蹴散らして、蔦の根元を確かめてもみたけれど、どういう構造なのかさっぱり分からない。

 流れる水の床を貫通して、亀裂も無い地面の岩から徐に生えている。

 試しに引っ張ってはみたけれど、私の力が弱いせいもあるんだろうがうんともすんともだった。

 勿論、巻き付いている蔦を剥がそうとしてみたけれど、こっちもびくともしないで私の爪が剥がれそうになるので諦めた。

 深く吸い込んだ息を溜息で吐き出し、改めて辺りの様子を見てみる。

 上を見ると、高級マンションとかオフィスビルのエントランス程度の高さはあるみたい。

 岩で出来た壁に天井と、洞窟みたいな場所なのかな。

 天井部分には亀裂があって、そこからこの檻を作っている水が流れ込んでいるし、唯一の光源もその亀裂から射し込まれる光だけ。

 落ちてくる水が溜まっていないのだから、どこかに流れて行ってるんだろうけれど光が届く範囲では見えなかった。

 竜界のどこかなのだろうけれど、呑気に現在地の確認をする暇があるなら早々に戻らないとね。

 帰ったらイシュなんか目くじら立ててんだろうし、ガルマからはネチネチ小言言われんだろうし、サナリは無言で圧力掛けてきそうだし、シャイアに至っては笑われそうだ。

 見なくても分かる大公達の態度を思い浮かべて、少し帰りたくない気分になったが、ここに居るのはもっと嫌だから気分を引き締める。

 長距離の移動はした事無いけれど多分問題無いでしょ。

 自然と、普段から長時間接しているイシュを思い浮かべて転移しようとした途端、足首に激痛が走って悲鳴を上げてその場で倒れてしまった。

「――――――――――っ!!」

 余りの痛みに自然と涙が出るし、体が強張って動けない。

 暫く蹲って少しでも痛みをやり過ごそうと息も押し殺し身動ぎできないでいたいのに、突然焼け付くような痛みが消えてしまった。

 今の何? 何で痛くなくなった訳?

 また痛みに襲われたらという不安で、蔦の絡まった右足を少しだけ動かしてみたけれどやはり痛みは無かった。

 狐につつまれたような気持ちで強張る体をぎこちなく起こし、足首を見て無性に泣きたくなった。

 蔦の内側、肌に触れている面から生えた棘が足首を貫通している。

 貫通部分からは血が流れていなくて、微かに滲んでいるだけなのは魔族だから?

 恐る恐る突き抜けている鋭利な棘に触れ、少しだけ押してみると痛みは無いが確かに貫通している感触がした。

 恐怖とか不安とか色んな物が混じり合った、何とも言えない焦燥感が急速に募っていくのが自分でも分かるし、その焦燥感が頂点に達してしまったら見っとも無い位に取り乱しそうで嫌だ。

 もう一度イシュの所へ戻ろうとした途端に、足首を穿たれる激痛に悲鳴を上げて蹲ってしまう。

 指が白くなる程握り締めた拳が濡れているのを見て、自分が泣いている事に気付いた。

 イシュの所へ戻れないのであれば、迎えに来て貰えば良いと思って呼んでみようとしても結果は同じで、絡まった蔦からいきなり生えた棘に足首を貫かれるばかりだった。

 足を貫く棘はその場で巻きつき新たな枷となっていて、足首だけではなく今では脹脛まで蔦が伸びている。

 早く帰らなければ、帰りたいって気持ちで焦るばかりだけれど、自分の気力を奮い立たせるは疎か、体力は繰り返された激痛でもう底を付いているし、流石に術を使用すれば蔦が反応するんだって事には気付いた。

 どうしたら良いのか分かんない。

 もう泣いているけど、声を張り上げて泣き喚いても良いだろうか。

 そうしたら、少しは冷静さを取り戻せるかもしれないし、何か良い方法が閃くかもしれない。

 クッションの海の中で成す術も無く、そんな事を考えながらぐったりと横たわっていた私の目の前に突然ナイリアスさんが現れたのだ。

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