魔王様と魔石 ■ 14
「では、魔石を用意してありますのでこちらへどうぞ」
えっ? スルーしちゃうのっ?!
何も無かったかのように、真顔でフィンデイルさんとナイリアスさんを誘うイシュに驚いてしまった訳ですが、下手に取り繕わない方が良いのかもと思い直す。
何せ、どこから突っ込めば良いのか困ってるフィンデイルさんを見ていると、妙なフォローをして又駄々を捏ねられるのも面倒だしね。
来賓なんてまずはこない魔界ですが、それなりに取り繕ってある部屋は幾つかありまして、その内の一つである大きなテーブルが置かれた部屋へと通し、其々が席につくとガルマが魔石を持ってきてくれた。
魔力のチャージは午前中に済ませてあって、これで問題が無いのであればそれとなく立派に見える箱を用意して渡せば目的は達成なのである。
普段のチャージに比べれば手抜きな代物だけど、人間界に出回っている物よりかは品質は良いだろうから多分不満は無いと思うんだ。
「此度のお話により用意致しました魔石となります。真珠と言われる物でしてのぅ、消耗品故にこの真珠その物の価値は然程ありませぬが、用途には何ら問題は無いと思われますがいかがですかぇ?」
フィンデイルさんとナイリアスさんの前に、ガルマがトレイを置きながら告げる。
ビロードのような光沢のある紫の布を敷いたトレイには、ピンポン玉程度の大きさである真珠が並んで置かれている。
「…………素晴らしい。……触っても?」
フィンデイルさんとナイリアスさんは黙って見つめていたけれど、感嘆の声を漏らしたのはナイリアスさんだった。
問い掛けにガルマが頷きで応え、そっと手に取ると続いてフィンデイルさんも一つを手に取りしげしげと眺める。
うっとりと表現すべきか、恍惚と表現すべきなのか、薄っすら笑みを浮かべて魔石を見ていたナイリアスさんが頷いてフィンデイルさんに声を掛けた。
「申し分ありませんね。いかがですか、兄上」
「これなら、王もお喜びになるだろう。十分だ」
ナイリアスさんの言葉に、フィンデイルさんも確りと頷いたのを見て私も一安心。
「では、明日までには箱を用意させてお渡し致しますね。それと……」
魔石をトレイに戻す二人に告げながら、傍に控えているシャイアに頷いて促す。
「こちらは、今回ご足労頂きましたお二方へと……後、こちらは竜王様へお渡し下さい」
シャイアが二人の前に差し出したトレイには、糸のような細さで籠目に化粧をされた銀のケースが三つ。
「ほぉ。これは火石だな。お前のは水石か」
「はい。王は光石ですね」
竜界では、ルビーの事を火石、サファイアの事を水石、ダイヤモンドの事を光石と言うらしい。
当然、唯の宝石じゃぁありませんよ?
宝石の大きさは真珠に比べれば小さくて、親指の爪程度の大きさなんだけど宝石その物も高級品ですし、注いだ魔力も先に見せた真珠よりかは数段良い物であります。
まぁ、気合入れればもっと良い物もあるけど、ちょっとした袖の下みたいな物だからこの程度という事で。
私、ケチだから出し惜しみするよっ!
「そちらの真珠よりも魔力が強い。これを王と我々にか?」
「これも何かのご縁ですから。今回の件を機に、竜界とは友好な関係であればと願います」
些か驚いた表情を浮かべている二人に笑顔で告げると、居住まいを正して先に礼の言葉を口にしたのはフィンデイルさんで、直ぐにナイリアスさんも会釈程度に頭を下げてフィンデイルさんに続く。
「お心遣い感謝する。王もさぞかし喜ばれる事だろう」
これ位で喜んで貰えて竜界と良い感じに続くんであれば、安上がりに済んで私も喜んじゃいます。
心の底から満面の笑みを浮かべちゃうぞっ。
しかし、こうして会話をするとフィンデイルさんは至って真面目そうに見える。
ちょっと顔が強面だから、真面目というよりお堅い感じかな。
「突然なお願いにも拘らず、このように手を尽くして頂きありがとうございます。予想外に早々と話もまとまり無事に務めを果たして王へも喜ばしい報告ができます。こう申し上げては失礼ですが、魔界という場所はもう少し混沌としていると思っておりました」
実際、数年前まで混沌としておりましたけどね。と、安堵混じりの笑みを浮かべるナイリアスさんに笑顔を返す私。
たまぁにナイリアスさんって物を含んでいる気がするんだけど、態となのかそれとも天然なのか判断に困る。
「午前中、サナリラナイア殿に城下を案内して頂きましたが素晴らしい街並みでしたし、イシュアレナ殿の領地に伺った際も整然として美しかった。それに、至る所で魔力が溢れてたのも特に素晴らしい。所々に置かれていた芸術品全てが魔石なのですか?」
魔力送受信のアンテナ基地の事かな?
設置する際、ただ研磨した石を置くのもつまらないので、箱根にある彫刻には触ってはいけないが芸術と触れ合えちゃう美術館をモチーフにしてみたんだよね。
我こそは芸術のセンス有り! という有志を集って、種族ごとにモチーフを決めてオブジェを作らせたのであります。
なかなか有意義なイベントでした。
芸術品とは言え所詮はアンテナ基地だから壊さなければいくらでも触り放題なので、インコちゃん達ガーゴイルみたいな小型の魔族は止り木よろしく魔石の上に乗っかって、温泉に浸かる動物のように恍惚としているのがまた良いのよ。
ちなみに、ガルマとシャイアの領土は座布団とかでかいお皿みたいなオブジェが多い。
と言うのもそれにみんな好き勝手に寝そべって魔力に浸れるから。
サナリの所は止り木タイプが多いし、イシュの所は噴水の土台がまるっと魔石だったり、広場のベンチや椅子が魔石だったり、道端の道祖神やお地蔵さんのように小さいオブジェが点々と置かれている。
関係無いけど、魔族は夜目が利くので夜に灯りは不要なのだけれど、美観として街灯も各領地に設置してあるのだ。
魔王様誘致の為に頑張ってくれている良い民である。
「ありがとうございます。仰る通り、あれらは魔石でして魔族の糧となっております」
「素晴らしいです。あれ程大きな魔石が魔界にはたくさんあるのですね」
大きな鉱石は一杯あるけど、魔石は手作りだからあると言えばあるし、無いと言えば無いけどそこは笑顔で否定も肯定も避けておく。
しかし、もう少し大人しいと言うか、控え目なタイプに思えたナイリアスさんが今日はやけに饒舌だなぁと思う。
一方、勝手気儘なフィンデイルさんは至って大人しく、プレゼントした魔石に魅入っている様子からしてかなり気に入って貰えたんだと思う。
良し良し、と心の内で拳を握っていると、フィンデイルさんは感嘆混じりに呟く。
「成る程。竜界で見た魔石は魔力が殆ど残ってなかったから気付かなかったが、この魔石からはかなり良い香りがするな。昨夜世話になった辺りも仄かに香っていたし、ラーニャエルからも格別に香っていた。これは魔石……魔力の香りか?」
そうなの? 私、全然臭わないんだけど。
もしかして、鼻悪くなってる?
自分ではさっぱり分からなくて、なんと答えれば良いか困っていたら代わりにイシュが答えてくれた。
「然様でございます。恐らく、ラーニャエルは常日頃から魔石に触れていたので、香りが強く感じられたのでしょう。我等魔族では当然の物ではありますが、竜族の方には珍しい物でしたか」
「そうだな。確かにこの香りは珍しい。今回伺った理由は既にナイリアスから伝えてある通りだが、魔石で子が出来るというのも俄かには信じ難いものだったが、この香りが残っていたのであれば納得もいくな」
「そうですね。この香りであれば女達の心も揺らぎ解れるでしょう。実際に魔石に効果があるかどうかはさて置いても、この香りだけでも魔界を訪れた甲斐はあったというものです」
んーっと。
普段はベタベタするの大っ嫌いだから触らないでよねという奥様が、魔石を手に入れて今夜は良いわよダーリンって事になるのかな。
それって、数打ちゃ当たる的に妊娠したんではなかろうか。
何だか微妙な気分を味わいながら、納得してもらえる魔石も渡せた事だし、後は恙無く竜界に戻ってもらいたいと思いつつ暫しの歓談を楽しんでからその場はお開きとなったのである。




