魔王様と魔石 ■ 13
子を成すよう促すって何?!
「え。何それ。初耳なんですがっ! どういう事?」
「魔族は現在のように集い群れる種ではございませんでしたが、我等にも種を残すという本能がございます。我等が崇める『王』とは、本来個々で行動するはず魔族という群れを統率し、子を宿す母体の力を強めて下さり、多くの子を授けて下さる方でございますが……この辺りのお話は?」
小首を傾げたイシュの髪がサラリと流れたのが妙に印象的というか、この時点で私ちょっと現実逃避気味になってきているんだと思う。
「すいません、まだそこまで勉強進んでおりません」
「然様でございましたか。ならば簡単にご説明致しましょう」
と、イシュが子供の出来方について語ってくれたのだけれど、この歳で保健体育の授業を受けるハメになるとは思わなかった。
まず、魔族で子供を作る場合には、母体となる女性体が男性体よりも魔力が強い事が必須条件である事。
母体よりも父親側の魔力が強い場合で子供が出来ると、高確率で母子諸共消滅してしまうそうなのだ。
魔力が低い母体では魔力の高い子供を体の内に留める事が出来ないのが原因。
辛うじて子供を生めたとしても、漏れなく母体は消滅してしまうとの事。
小さい風船に、容量以上の水を流し込むのと同じような物なのかな?
過去の魔王様は全員が男性体であった為、幾らでも替えがきくようにって事で半端無い離宮の広さが出来上がった訳ですね。
中途半端な力の持ち主は簡単に破裂していったのかと思うと、離宮って所が凄い怖いんですがっ!
そんな所に、人間住まわせてるんですけど大丈夫なのでしょうかっ!
それはさて置き、王の魔力を引き継いだ子供が生まれると、家には数名の魔力が強い子だけを残して後はどんどん降嫁させていき、中位や下位の魔力底上げをしていくという涙ぐましい努力が語られたのですよ。
実際に、ガルマとイシュは四代目の魔王の子だし、サナリとシャイアは五代目の子供なのだそうだ。
一瞬、異母兄弟? とも思ったんだけど、血の繋がりとかは無縁な魔族なので、本人達には兄弟という認識は皆無みたい。
母親が同じだと一応兄弟という認識は出来るようだけど、人間みたいな情を期待してはいけない。
魔族は『血』という概念が無いので、人間のように禁忌とは思って無いし、平気で近親姦で子供を作ったりもするというか、皆仲良く手当たり次第とも思えるけれど。
辿ってしまえばみんな異母兄弟みたいなものなんだけど、だからといって遺伝子上の影響は皆無なのだから禁忌に思えというのが無理なのかも。
大体、遺伝子があるのかという所からして疑問な訳なんだけどね。
人間で言う『血』が魔族では『魔力』に当たるのかな?
血筋とかに拘るのと同じ感覚で、魔力を少しでも濃く強くしていこうって考えなのかなと私はそう理解したつもり。
魔界に於いては『王』が居るか居ないかで出生率が桁外れで差が出るし、居なくなってしまえば統率されなくなるから本来の気性通り勝手気儘に動きだすし、その内お腹が空いてあちこち手を出し始めるし、結果として共食いになっちゃうから更に人口が減るというね。
少しでも力の強い子を作ろうというのは、魔族に限らず竜界でも妖精界でも同じ。
また竜族は子供が出来難いというのが悩みだし、魔族や妖精族にしても竜族より子供は生まれ易いが期間限定という枷ある。
魔力にしろ出生問題にしろ、こうして話を聞いていると色んな意味で人間族がはみ出ているんだよね。
傑出しているのではなくて、この世界では種として進化してないって方面でだけど。
だから他種族から軽んじられてるんだろうね。
と言うか、私も頑張って子供作らないといけない訳?
思わず聞きそうになってしまいましたが、藪蛇になりそうなのでここは聞かない事でやり過ごす。
だから、成熟成熟って五月蝿いのか。
もう人生一回終わってるし、このまま成熟しなくても良い気がしてきた。
そんな事を鬱々と思っている間も、イシュの説明は続いておりまして。
まぁ、子供を作るのもお仕事の一つですが、それ以上に大きいのが魔王の魔力の分散。
生まれた子供を降嫁させるのも分散なんだよね。
魔王の魔力が母体に混じる事で、母体の魔力が底上げされるから更に強い子供を作る事が出来るし、子供も出来易くなるんだそうで。
こちらに関しては、送受魔石が満遍なく私の魔力を撒き散らしてくれているので、最優先事項のお仕事はちゃんとこなしている訳なのですよ。
やっといて良かった、送受魔石。
「だから、竜族の女性も魔石の魔力が混じった事で子供が出来易くなった可能性が高いかもって事なのかぁ」
私の魔力って妊娠促進剤みたいな物なのか?
私の存在意義は?
もう少し人生設計をちゃんと練る必要があるように思える。
自分の人生を見つめ直す結果となってその場は解散となった訳であります。
翌日。
問題のフィンデイルさんですが、お昼になっても戻って来ず、おやつの時間になっても戻って来ず、業を煮やしたナイリアスさんがイシュに案内されて迎えに行きました。
昨日、イシュが戻る際にはフィンデイルさんを一人残す訳にもいかないので、代わりに傍に付いていたステアーナさんも一緒に戻ってきた。
それと、見慣れぬ女性もくっついて来た。
声を潜めてナイリアスさんがフィンデイルさんを怒っている中、ステアーナさんには労いの言葉を掛けて改めて連れてこられた女性、笑顔の割りにはげっそりと疲れた雰囲気の淫魔のお姉さんを見ると目が合った。
ピンで居れば十二分に美人なんだけど、イシュやステアーナさんが並ぶと本物と贋物といった感じで同じ美人でも薄く感じてしまうから中位の淫魔なのかな?
白磁を思わせるような透明感のある白い肌は、大公と私が揃っているせいか幾分興奮気味に色付いていて、紅蓮の髪とアーモンド型の大きな目は潤みがちな橙色の瞳をしている。
非常にセクシーな肉食系のお姉さんだ。
女性にしたらやや身長が高いようだから一七〇センチ位はあるのかな。
括れた腰から肉感的なお尻も魅惑であるが、兎に角一番目に付くのは胸だ。
成人男性が鷲掴んでも余るようなボリュームですよ。
じっと自分の広げた掌を見つめ、そして真っ平らな胸を見下ろしてしまう私。
止めよう、自分を傷付けるような事は。
改めてお姉さんを見れば、大きな釣り目が猫っぽい感じでコケティッシュとも言える。
エロいのに可愛さがチラリズムだなぁとマジマジ見つめていたら、次第にお姉さんの色付いて白い肌が紅潮していき息遣いまで荒くなっていく。
久しく見ていなかった現象に顔が引き攣ってくる。
わ、私今魔力垂れ流してないよねっ?!
慌てて左右を見回して確認している間に、お姉さんは悩ましい声を喘がせて痙攣したかと思えばその場で頽れてしまった。
突然頽れたお姉さんに、小言を食らっていたフィンデイルさんが駆け寄り起こそうとする。
「どうしたっ。大丈夫か、ラーニャエル」
ハァハァと上下する肩に手を添えて気遣うフィンデイルさんを無視して、ラーニャエルと呼ばれたお姉さんが熱く私を見つめてくるんですが。
「す……素敵、魔王様っ。見つめられただけでイってしまうなんて、ラーニャったら何てはしたないのかしらっ。あぁ、でも素敵素敵っ。こんなの初めてっ。ラーニャは、ラーニャは一生魔王様をお慕い申し上げて参りますっ!」
「あ……ありがとう」
イシュと言い、淫魔ってみんなこういう性格なの?
「フィンデイル様っ。ラーニャは、目が覚めました。私等をお気に召して下さりここまで連れてきて頂きましたが、己の未熟さを思い知りましたわっ。もう一度一から出直して参ります。次にお会い出来ましたら、生まれ変わったラーニャが誠意を込めてお相手いたしますっ」
私を熱く見つめていたラーニャエルさんが、傍らのフィンデイルさんにクルリと向き直ると更に熱く告げていく。
「お名残惜しくはありますが、フィンデイル様の為にもっ! ラーニャ頑張ってきますっ! 御機嫌よう!」
矢継ぎ早に告げるラーニャエルさんに、フィンデイルさんも唖然とした様子で口を開けたまま、ぁとかぅとかばかりで上手く言葉が出せないようだ。
そんなフィンデイルさんを気にもせず、チュッとか音を立てて軽くキスをしたラーニャエルさんは素早く立ち上がり、再び私を見ると艶めしく溜めに溜めた投げキッスを飛ばした後、優雅に一礼をして部屋をいそいそと去って行った。
嵐のような一時に、呆然とラーニャエルが出て行った扉を見つめていたのだけれど、瞬きした瞬間に研修所の淫魔ちゃん達がうんざりしていた事を思い出した。
あ……あの淫魔、魔王をダシにして逃げやがったよっ!




