魔王様と魔石 ■ 12
譲るのは構わないけれど、その用途は何なのか。
ほぼ無敵と言っても過言では無い竜族だから、魔石を使って世界征服なぁんて事は無いと思うし、大体そんな凄い力は魔石には無いけどね。
魔界はただの補助食だし、人間界では魔力増強アイテムとして使っているみたいだけど、竜界は何の為に必要とするのか非常に気になる。
竜界での用途を応用して、魔界でも他の使用方法とか幅が広がるかもしれないしね。
「竜族の方が魔界までお越しになるのも初めての事。差し支えなければ、事情を教えて頂ければと思うのですが?」
イシュの言葉にナイリアスさんは私とイシュを交互に見遣ってから少し逡巡したようだけど、直ぐに事情を説明してくれた。
「実は……我々竜族は元より出産率の少ない種族ではあるのですが、ここ百年程は子供に恵まれておりません」
あぁ、うちも色々食べちゃったから総人口が今少ないんだよねぇ。
繁殖期にしか子供が出来ないから、尚更増えにくいというのもあるんだけど。
聞けば竜族は、十年単位で一人から三人は生まれるのだそうだ。
「子供が出来なければ当然種の存続が危ぶまれますので、番となった者達は子供を作る義務を課せられております。また、子を成す為の研究も進めてはおりますが、一向に成果は出ておりません。そんな状況が続いているせいか、義務を重く感じてか、番となる者も減っていくという悪循環です」
というのも、竜族の女性というのはイチャイチャベタベタが大っ嫌いなんだとか。
基本的に触れるのが嫌い。
子作り以外でくっつくのが嫌という。
竜族の男性もどちらかと言えば淡白な性質だから、何が何でもどうしてもって訳じゃないそうでして、そんなんじゃ出来るモンも出来ないよねぇ。
しかも、女性から見れば子供作らないといけないからしょうがなく子作りしてはいるけれど、義務になっちゃったし、ちっとも子供出来ないし、出来るまで頑張って子作りに励まないといけないから、それならいっそ番になんて作るものかという流れが出来ちゃっているのだとか。
「子供が出来にくい環境の中、先日同時期に三組の番が子を宿したとの報告がありました」
ナイリアスさんが安堵の混じった嬉しそうな笑みを浮かべる。
待望の子供が出来たんだから、余程嬉しかったんだろうね。
釣られてこっちも頬が緩む。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「一組であれば運良く。とも思えたのですが、同時期に三組が子を宿したというのは偶然にしては出来過ぎていると思いまして調べてみた所、最初に子を宿した番が馴染みのある人間の商人から魔石を貰ったとの事でした」
「……はぁ」
「商人から魔石を貰って暫くしてから子を宿した為、縁起が良いからとその番が友人の番に譲った所、また暫くしてからその番にも子が宿りましてね。更に友人の番にと譲った所、更に暫くしてから子を宿したとの事でした」
「…………はぁ」
「更に別の友人の番にも譲り渡されたのですが、その番にはまだ子は出来ておりません。魔石を確認しましたが、既に魔力が残ってない状態なのです。唯の偶然なのかもしれませんが、偶然にしては出来過ぎておりますし、実際に魔石の効果があったのか確認しようにも既に魔力の無い状態ですので確認も出来ません。実際に効果があるのかどうか、それを確かめる為にも魔石をお譲り頂きたく今回このように赴いた次第です。どうかご検討頂きたい」
あぁ、だから魔石が欲しいのか。
理由は取り合えず分かったけれど、さてどうしようか?
実際に魔石効果で子供が出来るのであれば、安易に譲ってポコポコ子供が出来ちゃうのも一抹の不安を覚えるんだけど。
皆と一度相談した方が良いかな?
「事情は分かりました。多少はお譲りする用意もありますので……どうしましょう。フィンデイル殿がお戻りになられてからお見せ致しましょうか?」
フィンデイルさん抜きで話をまとめちゃっても、こちらは全然問題は無いんだけどね。
「そうですね……一応、兄が戻ってから見せて頂けますでしょうか?」
「構いません。種類がありますので幾つかご用意しておきましょう」
「ありがとうございます」
「お役に立てれば何よりです」
一つ肩の荷が下りた様子で笑みを浮かべるナイリアスさんと、暫く話し込んだ後にその日の晩餐はお開きとなったのである。
ナイリアスさんと別れた後、イシュと共に執務室へ移動すれば既に皆が勢揃いしていたので、早速イシュが掻い摘んで事情を説明してくれた。
「という訳でね。上げる分には構わないんだけど、そうほいほい上げ良いものか考え所でね。皆はどう思う?」
私の問いに、其々が顔を見合わせ考え込んでいたけど、一番最初に口を切ったのはシャイアだった。
「魔王様はどのように考えている?」
「んー。上げると言っちゃった手前、少しは融通しようとは思ってる。単純計算で、十年一個として十個が妥当かなぁって。唯、それ以上になると竜族の人口に梃入れして無闇に増えちゃったら後々問題にならないかなぁとか考えちゃうんだよねぇ。竜族って闘争心とか征服欲って強いのかな?」
食物連鎖されている訳ではないけれど、ピラミッドで例えれば頂点はやはり竜族だから、上の比重が大きくなってしまった場合の影響を考えると少し躊躇いを覚えてしまう。
「元々、竜族は種としては頂点にいるという自負がございますのが、他種族への闘争心や競争心は特に問題になった覚えはありません。人数が少なく領地も足りている事から他種族の領域を侵す事もこれまではありませんでしたが」
「しかし、決して競争心や闘争心が無い訳ではなく、同族に対してであれば常に力比べをしているとも聞いた事があるぞ?」
「竜族は番を選ぶのは雌だからな。雄は力の強さを見せ付けて、雌に認めてもらわなければならないはずだ」
答えてくれたイシュに、シャイア、サナリと続く。
「雌と言えば、何でまた子供が出来にくくなったんだろうね。百年近くも子供がまるっきり生まれないというのもなぁ。何か異変が起こってるのかな?」
魔界の人口激減は自業自得と分かり切っているけれどね。
「魔石を傍に置いて子供が出来たというのであれば、雌の魔力が低下しておるやもしれませぬのぅ」
ガルマの言葉に、小首を傾げる私。
「と言うのも?」
「竜族は雌雄共に強靭な肉体と魔力を持っておりますが、雄は特に鋼のような肉体を持ち、雌は雄よりも肉体が柔らかい分魔力を多く持っております。雌の魔力が少なくなっている為に子が成し難くなっている可能性は大きいかと」
イシュが付け足して答えてくれましたが、未だに魔力の影響力がさっぱり分からない私であります。
誰か科学者呼んでくんないかなぁ。
この世界の人間以外の種族の生態を徹底調査して欲しいんだけど。
うーん……と頭を抱えて悩む。
「出涸らしの魔石で三人生まれたんだよね。通常の魔石だともう少し増えそうだし、様子見で五個にしてみようか。で、実際に効果があって更に欲しいって言ってきたら、十年に一個若しくは二個とかを譲る。でもって、恩を売るって流れでどうよ」
異論は無いようで、皆が一様に頭を下げた事で魔石の件は一先ず終了。
「でも、魔力の影響って子供とか、そんな所にまで出てくるの?」
「当然でございます」
「え? 当然なの?」
至極真面目な表情でイシュが即答する。
「魔王様の本来の務めは、子を成すよう促して頂く事でございますので」
はい?




