魔王様と魔石 ■ 11
フィンデイルさんは帰ってきませんでした。
我が魔族が誇る淫魔ちゃん達の実施研修所兼たまには違う味も食べてみたいの食堂が大変お気に召したご様子で今晩はお泊りに決定したと、イシュがうんざりした顔で帰ってきて報告してくれた。
淫魔族は淫魔って言う位ですから、栄養補給の方法としてはエッチー事が一番楽で摂取しやすいのね。
栄養の要である魔力や精は他種族からの摂取を禁止しているけれど、私が思う存分垂れ流してるので供給に付いては現在問題は無い。
しかし、鶯も先輩鶯がいなければ上手に鳴けないのと同じで、そういう『機会』が無いと補給方法を知らない子に育ってしまう訳ですよ。
加減が分からなくて枯れちゃうまで吸い取っちゃうとかね。
日本とか先進国みたいに年齢で成人とする訳ではなくて、魔族は子供が産めるような状態になる事を成熟と呼んで所謂成人と見做している。
ちなみに、人間界も国によって差はあるけど大体この歳から成人っていうのが決まってるみたい。
で、成熟間近な淫魔ちゃん達は、この研修所で先輩淫魔達から色々と教わっている訳。
色々の詳細に付いて、問い合わせは受け付けてませんよ?
晴れて成熟してデビューした暁には、獣族や鳥族や蛇族とか蛙族とか蜥蜴族なんて人達を相手にしているんだけどこっちは格闘っぽい事しているらしい。
自分より強い相手からいかに吸い取るかの研修みたいだけど、奥が深いよなぁと感心する。
頑張っている新人淫魔ちゃん達の為に、人間界で巡業させてみたらどうかとも考えてんだけど駄目かな?
ほら、やっぱり本物を相手にしないと手加減分からないじゃない?
病気持ってないし美人揃いだし癖になるみたいだし。
駄目かな?
駄目かなぁ……。
人間廃人にさせちゃ悪いからやっぱ駄目だよねぇ。
性犯罪者なんかは寧ろ枯れる位吸った方が世の為とか思うんだけどなぁ。
まぁ、それは良いとして。
フィンデイルさんはその研修所で、熟練から初々しい美人に囲まれて酒池肉林を楽しんでらっしゃるのであります。
一方相手をしている淫魔ちゃん達は味に飽きたとか、退屈で飽きたとか、面白く無いとかとぼやき始めてるとの事でちょっとニヤニヤしてしまった。
フィンデイルさん退屈で面白くないのか……フフ。
イシュの報告によると結構な数の淫魔ちゃん達がお相手しているようなのに、まだまだ元気一杯精力旺盛なんだとかで、午後に聞いたガルマの話がふっと頭に過ぎって成る程と納得してしまった訳ですよ。
そして唯今、肩身の狭そうな、居心地の悪そうなナイリアスさんと二人で晩餐しています。
ナイリアスさんには悪いけど、こっちが上手に出れる状況だからフィンデイル様々ですよ。
サロエナさんが張り切って用意をした本日のメニューは肉に始まり肉に終わる。
竜族は肉を好むからと用意してくれたのは良いんだけど、オードブルと言うか前菜からして肉だし、豚骨みたいにこってりとしたスープの具もボリューム満点な肉が沈んでるし、その後のメインも七面鳥サイズの肉だった。
七面鳥もどきの肉だけど、削いでお皿に盛るなんてものじゃない。
まるっと一人前だ。
私の食べる量や好みを承知しているサロエナさんは、私用にもっと軽い食事を用意してくれてたのだけど、ナイリアスさんに出される料理を見ているだけで何だか胸が一杯になってきてしまった。
竜族の食事って、こんなに肉だらけなんだろうか。
「しかし、魔王殿は小食なのですね」
フィンデイルさんの事を謝ったり、厩舎での事や、騎竜についての話をまったりと進めながら、メインのお肉が出された所でナイリアスさんが私の皿を見て言う。
そりゃぁ、七面鳥もどき一羽に比べたら数枚の肉切れに彩の野菜なお皿じゃ小食にも見えるでしょうよ。
と言うか、それだけ肉ばかり食べてて胸焼けしないのかが不思議だ。
「私はこれ位が丁度良いのですが、ナイリアス殿は……いえ、竜族の方は普段からそれ位の量を食べられているのですか?」
ナイリアスさんは流石王族なだけあって、会話をしながら食事なんて事も大変に上品なんだけど、スピードが半端なくて問い掛けている傍から肉の塊が減っていく。
私の量は少ないというのに、ナイリアスさんのスピードに合わせるから何だか忙しなくなるけど、雰囲気は至ってのんびり穏やかという変な状況。
時折聞こえてくる音からして、骨も一緒に食べてるのだろうか。
歯、丈夫過ぎでしょう。
「そうですね。私は兄達に比べ食が細い方なのでこれ位が丁度良いですね。今回共に来ましたフィンデイルはこの三倍位が普通でしょうか」
「まぁ……」
ナイリアスさんが食が細いとかってどんな嫌味かと一瞬思ったけど、フィンデイルさんがこの三倍とかなら確かに食が細いとも言えるよね。
そんなに筋肉ムキムキな体でも無いのに、食べた肉は一体どこに付くんだろうかと唖然としたまま不躾にもナイリアスさんの体をまじまじと見ていたら笑われてしまった。
そんな感じで割りと穏やかな食事の時間を過ごしたのよね。
メインの後からの話題は、主に竜界の畜産業とか農産業で弾みに弾んで楽しかった。
ナイリアスさんのデザートがカルパッチョとユッケの合わせ技で、そんなのがデザートになるんだとカルチャーショック半分と感心半分だったりもしたけれど。
それから部屋を移動して、イシュも参加しての食後の一服タイム。
イシュが趣味で作っているお酒を片手に、話題に困る事も無く和やかな雰囲気だし、お腹一杯で良い気分の中ナイリアスさんが私を見て問い掛けてきた。
「それにしても、魔王殿は実にお若いですね。失礼ですがお幾つになられるのですか?」
女性に歳を聞くなんて! なぁんて言う価値観が無いので割と普通に歳を聞いてくる。
ナイリアスさんが言う『失礼』というのは、王様が随分若いのねぇという意味合いなんだと思う。
そいうナイリアスさんは二〇〇歳を超えていてシャイアよりも年上さん。
問われた私は永遠の二十七歳と答えようか一瞬言葉に詰まった所、イシュが代わりに答えてくれていた。
「先日、六歳を迎えられました」
えっ。私六歳だったのっ?! と一瞬焦ったんだけど、死んでから六年も経っちゃったのね。
月日が経つのって早いものね。
感慨深いわぁ。
という事は、正しくは三十……いや、計算は止しておこう。
少し切なくなっていたんだけど、驚いた表情でナイリアスさんが私を見ている。
「随分と早熟でらっしゃる。かなり強いお力をお持ちなのですね」
「いえ、そんな。とんでもありません。まだ成熟にも至っていない未熟者ですから」
誤魔化し笑いを浮かべて謙遜してみる日本人魂です。
それから少し竜界と魔界での成長の違いについて話が進んだのだけど、竜界では二〇〇歳が成人として見做されているんですって。
だから、ナイリアスさんはまだピッチピチの若人さんなのだ。
ちなみにナイリアスさんは二一〇歳で、フィンデイルさんは二九〇歳。
泡姫に夢中な二九〇歳って、凄い微妙だよね。
と、軽いジャブ程度の会話で雰囲気が大分解れてきたタイミングを見計らって、イシュが魔石について口火を切って問い掛けた。
竜族は年功序列の意識が強い種族らしいから、本当はフィンデイルさんが居る場所で聞いた方が良いのだろうけれど、何せ本人は戻ってくるつもりが更々無さそうだからしょうがないよね?




