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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
魔にありて対はあらず
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Ⅳ-? 喰らふに値あり-②

 境から出てきた姿は同じく白い女の声の主は、同じように面をつけていた。白い面にそれは四角を重ねたかのようないくつもの角ばった印が刻まれ、面の形も男のモノに比べれば六角形を模した形に見える。白いとは言ったが、男の面に比べればその面は薄青の色合いも混ざっているようであり、面横についている飾りはまるで、女が顔横に二つの髪を束ねたかのようにも見える。

 男が口や鼻が見えないようなつくりになっている代わり、女の面は整ったような口と鼻の文様は描かれているが、替わりに彼女の目をしめす文様は一切刻まれておらず、ともすれば男よりもその表情が読みづらい代物だった。


「左のは急いていかんなぁ。門外人なんていうものが降りてきたからには、その幸運を逃さぬようにするが大事。ちがうかのう? 左の」


 口が無いのにどこから声を出しているのか。女の声は確かに面のある所から聞こえているが、動いている部分は面の下に隠れているのか、まるでみえない。左の、と呼ばれた男の面のほうも六角面の女のほうへと顔を向ける。


「右の。末だからこそ役に立たぬならばいらぬというに……。門外人はまさかだったが術力の見る限りには確かよ。

 一ノ白に追われた身といえ、まさかこのような所で一ノ白へ報いる機の訪れを見るとは我もおもわなんだがな。ふ、まあよい」


 左はゆっくりと六つ目を握っていた白い紐を解かせていくと、また裂け目へと紐を戻していった。ふわりと浮かんでいるそのお互いは面を頭と見れば白い衣をかぶっている男女一対の姿にも見えなくは無い。ただ、でている一部だけがそう見えているだけだと思うと、裂け目にある体がどうなっているのかと想像もつかなかった。その姿を岩壁垂直にしているだけでも異常だというのにだ。一端しか見えぬこの姿の持ち主、これこそが峠に追いやられたとされた二褄魔(ふたつま)、その姿の一部である。岩壁の光差さぬ狭間にみえぬところでそのしなやかな体躯をうねらせたように、壁面から岩を擦る音が聞こえる。垂直にあるようにみえる二人は、重力も関係ないように岩壁にへばりつく羽末たちを見下ろしていた。


「左のよ、此度にやってきた門外人はとてもよいもののように思えまする。末たちの話では、術力の放出が多いと。影術式の使い手と聴いては、たまりませぬ」


「右の、見る目がおまえはあるのう。まさに然り。一ノが呼び寄った故にか力を持ち合わせ、その強みはいまだ蕾といえど大きい。咲かせばさぞやうまひことだろう」


 面の下で男のほうがくつくつと笑うと、それに同調するように右が男へとからかいを込めたような声音で話しかえす。女の面の房毛が、その笑い声が響いたように揺らいでいた。


「あれ、左の。まさか憑くモノを強めるつもりかえ?

 憑くものの影の手は我等と似ておる。大層になぁ。なればこそ、あやつのねぐらを奪いてしまおうというに」


 女の面は目の前に水球を出すと、くるくるとその中に人型の姿を作り出す。斡辰のように支える手もなく作り出したその水球には、まるで胎児のような形で人の姿が納まり、その周りを黒い影が渦巻いていた。女がくい、と顔を動かせば、その黒い影が水流に阻まれたかのように一気に人から引き剥がされ、人の形をしていた何かも同時にひきはがされるように、身を裂かれる姿を現していった。男が再度女の作った水球へと面を向けつつ、その中にある人の姿へと男の操る白い紐をのばす。するすると伸びていく一本の白紐は水球の中にある人形に触れようと中へと入り込み、裂かれてしまった姿のそれに巻きついていった。

 男の笑い声に、女も笑うように、中の水流につくった人形が紐に縛られるままにし、だんだんとその形を人形遊びでもするようにいじっていく。

 女の術力と、男の白い触手がお互いに遊びすぎたのだろう、水球の中にあった人形は気づけば水球ごと白い触手に握りつぶされ、水球は流れを弄りすぎたせいか四方へとその水を弾き散らした。


「右のよ、右の。おまえがいかにいわんとも、我は知っておるぞ。右のよ女性の肉が喰いたいだけよの? その柔らかい(しし)が喰いとうてたまらんだけよの?」


「ふくく、左の。いうてくれるものよ。おまえとて柔らかな内の腑が噛みさきたくてたまらぬ口であろうに」


 水球をいじっていたそれぞれが想像していた姿に、思うところが重なったのだろう。左のと呼ばれている男面のほうに生えている角が小さく揺れ、すこしづつ伸びていき、血の色を帯びたような内曇りする色合いで染色されていく。かたや女面はその房毛がゆっくりと伸びだし、ゆるゆるとその伸びは肩を超えるほどになっていっていた。主達の替わりように、羽末も風が鳴くような音を立てながら興奮しつつその翼をはためかせた。水にいた羽末たちはばしゃりと大きく水面へと跳ね上がり、体全体で主たちの思いを感じ取っているようだ。

 面の主はお互いが喜悦を浮かべ興奮しているようだった。


「あれ、左の。そのような姿になるはちと早い。まだ日も高いに。食したばかりでみっともないではありませぬか。末どもにばかり言っておられませんよ」


「右のこそ。おまえの髪が裂きとうて裂きとうてたまらぬと、そう言っているではないか。はしたない。女性(にょしょう)を気取るならば慎みがたらぬなぁ」


 男面の言葉に女面は震えつつ伸ばしていた髪をまたもとの長さに戻していき、ふいとそっぽを向いてしまう。男面の言葉に思わず身づくろいをしたようにもそれは思えた。右のものが姿を整えると、水中にいた羽末たちもその形を抑えていく。さてさて、言い過ぎたかと、男面も震え伸ばしていた角を押さえるようにまたもとの姿に戻していくと、その触手の一つを女面に伸ばそうとして、ふと、ためらった。伸ばしていた白い触手を一度戻していき、面の横にするすると伸ばすと男面は小さくにこやかにこう言った。


「一つ、右の、いいだろうか? 」


「何ですか、左の。考えでもお有りで? 」


 白い触手をまるで手のように見立てている話しぶりは僅かな言葉を伴っていた。

 女面が頭をかたむけつつ聴いていると、最後に男面がどうだろうか? と小さく問う。その問いを遮るように空の光を遮る雲が通り過ぎ、すぐに昼の光が戻ってきた。女面は何も言わない。

 四方にとびちった水滴も日差しで直ぐに乾ききってしまい、水をあびた羽末の下にある岩壁にある水の飛び流れたあともうっすらとしてきている。


「いいですね。なれば、そういたしましょう」


 六角面にも飛び散らせていた水滴をまとい、女面がにこやかな声で卵面の策を肯定し、二つの面は互いに背を向け合った。男面は川下にある方角へ、女面は川上にあたる方角へと背中を預けあうようにその背をつけあい、自分等の足下にいる手下どもへと命をつげた。


「きけ、我手下ども。お前等に命をやろう。夜に紛れてまたひとつ」


「影に隠れてまた二つ。術もちのあるものをつれてこよ、よいな」


「術もちであれば、まず一人。影術の使い手は狙わんでもよい。それよりも強いもの、あるいは一人でいる術者。狙いて我等の糧となす。散れぃ! 」


 交互の命は男面を最後に羽末たちはしかと聞き届けると、岩壁に集っていたすべてが花散るごとくに飛び立ち、水に近いもの達は同時に水面へと身を躍らせた。

 定めた命に歓喜する有様に二体は満足げに頷きあい、こう言った。


「出来ずして糧は無い」


「糧あれば先に明るし」


「「我等二褄魔、報いは必ず返してやろうぞ」」

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