Ⅰ-8 何処の国かや
さて、村の様子どころか、いつの間にか自分が村を助けるという選択をしている事に春香は気づいていません。
山道から少しずれるようにして春香達は村の入り口付近まで近づいていた。山の合間にある台地に作られていた村の入り口は、しっかりとした柵と、入り口に大木に墨を塗ったような門がある。
奥の方が少し明るく、燃えカスの臭いと動物のような生臭いにおいがした。
『夜幕皮って意外にかさばらないのか。
というか、早速貸し借りが発生しているのがイヤだわ』
『膜を作るのに手間取っている御方が悪いかと。
せっかく我の片翼を貸しているのに使い心地が悪いというのは貸しとして大きい価値になるまい』
すらりとした大きな黒之の翼が、カーテンの様に伸びて足下近くまで私を覆っている。結局術式がまともに使えてない為、もとい、夜幕皮に必要な術力の膜を作成出来無かったせいだ。
ヒトデは変形するのに平らにならない。変形した先はまるでイカスミうどんみたいだった。あまりの下手さに見ていろと、黒之が術力を取り上げてさっと一瞬で覆いを掛けたのには、無言になった。
それに対してありがとうと言う事だけは出来たから、私の理性はまだピンピンしている。大丈夫、落ち着こう感情。
『そうね、もう一度お礼でも言っておくべき? ありがとう、黒之。
でも、意断は成功してたんだから良しでしょう』
『確かに。一爪で先ほどの男を倒した手際は良かった。
術式に対して想像が確かになっている証拠だ。中に闇を入れ込むのも戸惑いがなかったからなお良い』
十数歩前の背後をおもわず視線で追えば、まだ三名の後からきた男は眠っている。人の良さそうな顔をしているが、夜幕皮を使っていた私を見ていると感じて、思わずその身体に打ち込んだだけだ。
『自分の爪が伸びるみたいなのって慣れないわ。アメコミ格ゲ―のキャラクター様のお陰で想像はたやすいのが良かっただけよ』
『雨込み伽羅? 久多? 聞き慣れぬ単語だ。まぁ、御方が術式を使う助けになっているのなら良い者だったのだろう』
『殺傷能力が無いのを黒之が見せてくれたお陰で、傷つける力が無くていい爪があるってわかったからね。そこは良かった』
カタカナ言葉は意味が通らない様だ。表層の意識をくみ取っているという話も嘘じゃないらしいのかと思うと、黒之が瞳孔を細ませてこっちを見た。どこまで私の意志を通してみているのだろうか。
先ほどの話にあった想像の力で術力を作り上げるという術式は慣れない。魔法少年の物語や、ガラスの靴みたいに特殊な呪文だけで作るイメージが私に定着しなかったからだ。
同様の技を映画で見たことがあったので、着想は其処からできた。けれども、春香の知っている意断の様な技を実現させた場合、映画と同じ事になっていただろう。
(知っている技だったら映画の奴だとザックリ、バッサリみたいに切断、殺傷だもんなぁ)
もちろんヒーローが悪と戦い、化け物を倒すなら相手を殺す技が必要だ。だが、生憎と春香はヒーローではない。
入り口の柱の横を通り抜ければ、木造の家の向こう側が開けているように見える。
火の周りから伸びている影は見えるだけで今は三名。そして山なりになった影、積み上げられているもの? らしいのがある。
『おおきなたき火だ。……できるだけ静かに歩くといい。
夜幕皮は、姿は隠せども音を消す力を持ってはいない』
『! ほんとうに二言は足りないわね黒之は』
そう言われて、家のそばの地面を確認した。小石がいくらかに、ここは砂砂利がある。隠密をする為に静かに歩くのには向いていない。
『……あー、もう。準備足りなさすぎてどうしよう。
ん、家の窓は……あ、黒之。もう一回ここから偵察できる?』
『さして距離はないが? いいだろう、翼を使っているから遠くにはいけんが見てやろう』
『コレも借りになる? それとも一括返済できる?』
『一括返済したいのならば今回の一件まとめで請求してやろう。
見える限りでは、敵になるのはここから御方の足で二十歩く程度がたき火になる。その周りで頭を含めて五人だ』
『五人、か。右手で足りるギリギリだわぁ』
腕に絡ませたままのヒトデは残った足をウネウネしていて、まだ術力は生きている。が、足の本数は足りるかギリギリだ。
そしてたき火の方へと向かう経路。……家の中には入れそうだが音を立てずには不可能だろう。
視線を彷徨わせて影になっている家の端まで、猫足立ちのように進む。
『どうする? 御方』
『……できるだけ抜き足差し足でいく。
幸い音以外は問題ないなら、それでいくわ』
意を決して、春香は家の影から歩き出した。足下の小石に注意して、歩く速度は遅くもなく、早くもないように。
見えた風景は、男達が酒盛りをしながら笑い合っている姿。
だが、こちらをみていても自分に気づいた様子がなかった。薪の明かりはコッチに届いているし、影の根元にある人の姿もハッキリ見える。
笑い声に混ざるように、小さく砂が鳴く足音は私の足裏を伝ってくる。猫足で、音を出さぬよう、ひとつひとつの歩みに神経を張った。浮いている黒之にさぞ滑稽に映るだろう姿を、忍び笑いもせずに竜は取り巻いて浮いていた。
夜幕皮は上手く発動しているらしい。影は揺れる炎が作る影に闇として同化しているようだ。足音という形でしか自分を見分ける術がないというのは、あの男たちを相手にするという点ではとても有利に働いてくれそうだ。
「頭。吉郎の奴もきやがらねぇです……。どういうこった? 逃げやがったかあの野郎」
もう、声がハッキリ聞こえるくらいの距離まで近づいてきた。もっと周りがしっかり見える。足下に集中していた春香はそっとその顔をあげて声の方を確認した。
(あー、さっきの影はあの女の人か)
長く伸びていた影の一人はまだ若そうな女性だった。赤く燃える炎が輝き、その奥まっているところにはタエの村の人たちが座らされている。瞬きをしてすぐ、春香は目を閉じる事を忘れたように凝視していた。
夜など関係のない瞳のおかげで、そこに映った村人たちの有様に春香は腹部が熱くなってくるような錯覚を覚え、ぐるりと内側で何かがとぐろを巻いた。左手二名の男達の背後、手酌でひょうたんから酒を飲んでいる隣で視線が止まっていた。
子供らは泣きはらした顔を叩かれたられたらしく、頬はふくらみ、口元には砂と赤く滲んだ擦り傷がついていた。
少し離された場所で年寄りたちは酷い事はされていないようにみえるが、子供でさえ頬をたたく男たちの事だ、何もされていないのではなく「する」前なのだろう。
女性たちはもっと酷い。言葉にもしたくなかった。男の人がいない理由は知らないが、抵抗できる村人は其処にいるようには見えなかった。
『御方、おちつけ。奥を見るな』
自分の頭上に頭をのせ、肩と腰周りにその長い体を巻きつけだした黒乃が、ポツリと言った。手前の有様に目を奪われていたが、黒乃の心話に春香の目線が奥を向いた。
この時、色の見える夜の視界を初めて春香は呪う。
朱に染まった地面、点々と男たちのところから引きずられたあと、既に事切れた女のその隣に横たわっている幼い子。着ている薄い衣もナニカを吸って、重たくまとわりついている。春香の腹の熱は一層に自分の五臓を焼くような熱さに変わり、喉の奥にまで競りあがっていた。
(何で、…………あんな、事を)
春香は事情から人の死体を見るのは初めてではない。
都会でみた事のある死亡事故や、母の亡骸とはまるで違っている。
事切れた女の顔は嘆きの表情で固まっていて。子供の顔はこちらからはみえない。その隣に顔をむければ、二名の手酌の男たちは女の死体など関係ないという風で、ゴクゴクと酒を飲んでいる。
思い出したくもない事を無理やりこじ開けられる感覚が、自分の内側を引き剥がしていく。獣のように唸り声をあげ、怒りを表現できたらどんなにかいいだろうかと、春香は思った。
その春香の思念を心地良さそうに受けつつ、黒乃は説明する。
『抵抗したから、こそでしょう。ああいった手合いはよく在ります。
この村は男手が借り出され、無力な者ばかりが残っていた。
あ奴らは、其れを知っていたのでしょうな。
だから此処を襲った。見る限り、欲を満たす為でしょうな』
その言葉が引き金だった。熱かった腹の内側の熱が一気に皮膚から炎のように噴出していく、春香が自覚しているよりもずっと熱く黒々としてるその塊は一層に、彼女を包んでいた夜幕皮の厚さを増す。
感情にまかせた術力を受けて、腕についていたヒトデが更に倍近くに膨れ上がったのに春香は気づいていなかった。
噴出していく熱と裏腹に、感情は段々と冷えていき、春香の目は幕の内側から志坂たちを貫くほどの眼光を宿していた。
春香も、自分のどこからこれほどの怒りが沸いてきているのかは分からない。正義なんてない。分かっている事でも、自分がゆっくりと足を踏み出していくごとに、何をしているのかと疑問が今とは隔絶しているどこかに落ちていった。
今は、そんな事はどうでもいい。
己が刻んだその言葉で、こぼれる疑問は収束していき、後に残ったのは憤怒と冷徹。
周囲の熱を纏いながら、春香の足は止まらず、男たちへと近づいていく。
心話を使い、さらに黒乃へと会話を続ける声にも怒りではなく通ったのは、これからどうやってあそこにいる奴らをこの村から叩き出すかということだった。
『黒乃。もしもさっきの意断をあいつらに使うとしたらどこが一番効果的にいれられる?
伸ばせる爪って、黒乃みたいに太くないから、私自身の身長、もしくはその倍くらいが限度だと考えたほうがいいと思っているの』
『ふむ……何故そう思っている? 御方』
『決まっている、想像する力なんてやった事もない人間が使うなら、どこまでも出来るものなんてない。
だったら限界を決めたほうがその力がはっきりと使える』
そう、確実に彼らに届かせなければ意味がない。
どんどんと彼らがざわつき始めたのがわかる距離まで、春香は歩いてきていた。
猫足だった足下はしっかりと踏みしめて地面を踏みしめる音を立てていく。黒之の蛇体が身体に巻き付いていくのが冷え冷えとしてそこだけ炎を舐めとられていくように感じた。
「おい、耳すませろ。なんかいるぞ」
じゃりっ、じゃりっと、音が鳴るのが分かるごとに相手の表情がちかくなり、刀身が抜かれて五振り輝いた。
刀を向けているやつらに切りつけられたら流石にこの夜幕皮も切り裂かれるだろう。既に立てた音に警戒して、男たちはあたりの砂利を踏む音がないかを聞き逃さないようにしていて、余計な音はそのまま刀が降り掛かってくるだろう。
距離感的にあと一歩、踏み込んで意断を発動させれば確実に刺さる距離だ。
『集中、……五本の指、それぞれを向かわせる。だから、集中』
『ほう、ほう。五指全てに意断を乗せるか。ならば術力が重いだろう。われに腕を貸せ』
『ん、ありがと』
ヒトデを吸い上げ、私の爪の先は黒々とした色に覆われた。炎に輝きも返さないその色が、今、私があいつらに突き立てる成功の力だ。
「解せんな・・・・・・。あやかしにしては妙なやり方しやがるが、この近場であやかしの出た話は大昔のはずだ」
大きな太った男が隣に居るボス格に話しかけている姿が見える。何を言っているか知らないが話し声は私よりも後ろへと集中している。
『好都合だ。さぁ、すぐに想像しろ。御方、貴方が、一番想像しやすい形を』
黒乃がその身を寄せた声が、であったときと同じように春香の内側へ共鳴した。
黒々とした自分の爪を凝視して鉄の芯をイメージしていく。イメージしていく指の先に、細く長くそして重く感じる爪がのびていく。
実物の爪より鋭く、まるで櫛の刃がとがった様な形ができあがる。
『爪全てからの、一の座、意断』
発動する瞬間、ゆびの先が鉛のように重くなった。ぶれぬように添えられた黒之の上で僅かに揺らいだ指先、ひとり、ふたりは確実に刺せた。刀を取り落として顔から地面に倒れ伏す姿が視界から落ちる。
次に中指と薬指、こちらも大男と隣の男に刺さっている。だが、
「おい、どういうつもりだ。術式持ちがいるなんざ聞いてねぇぞ。
あっても、掟破りだろ? 落人か」
掲げていた太刀を僅かに振ってずらした男から聞こえたのは、鋼と爪が弾き合う高い音だった。僅かにぶれた指先のせいで、あたるはずの爪の先端も外れた。
まだ、私が見えていないことは分かる。けれど、男はこちら側に向かって本格的に刀を構えなおしていた。
全員が意断の技に掛かっていれば楽だったのに。
「おい、てめぇ。聞こえてるんだろうな。分かってんだぞ」
短く目の前の男は私を威圧してくる。此方の間合いからまだ離れてはいるが、男からの距離はそう無い以上、逃げるのに音は立てられない。
『足音を、立てたらまずい。けど爪がまだ戻ってない』
『ならば、戻せ。爪の先を全て戻し、小指だけ意断を残したままならいつでもさせるようにしろ』
『動けないのに? 刀で切られたら』
『切られる前に考えがある。爪の術式をまだ解かぬように。
我に考えがある』
黒之がそう言っている間にも、目の前の男は刀を軽く振り下ろし、こちらからあと一メートル近くにまで迫っている。次に一歩踏み出されれば、刀の切っ先が私に届くだろう。
『なればだ。次は外すな。そら、振りかぶったぞ』
合図にもならない声かけと共に、目の前の男が迷いながらも私のいる方へ刀を振り下ろした。
『意断!』
思わず向けた小指の先は男に影を送り込むには足りない。刺さりもせずに、その手を浅くかすめていった。
『だめ、闇を送り込めていない。爪に色が』
『それでいい』
発動させた腕を補助していた、黒之の身体が動いた。伸びた爪先がかすめたまま、重力に従って地に落ち刺さる。同時に、刀を振り下ろした男が顔を引きつらせて数歩飛び退いていった。
え、と顔を春香も引きつらせる。それはそうだろう、私が攻撃してきた方角を見ているだけの不安定な敵意が、ハッキリと此方を向いているじゃないか。
『ふふふ、いいぞ。思った通りだ』
置いてけぼりにされた春香を尻目に、黒之はするりと外周へと回り込む。何をする気なのか、私には想像もついていなかった。
よく分からない何かに向けて放った一刀に、形を持った風が志坂の頬を擦った。いや、動物の爪に引っかかれたようだった。
とたん、彼の目前に黒い果実が現われた。
「な、なんだこいつは、魔獣か?! 」
人の大きさほどをした果実のような黒い固まり。黒くしなびた様な表面には四本の血の管のような線が斜めに入っている。唐突に目の前に現われたこれが、剛平達を倒したのだと直感した。
そして、ぐるりと、固まりにはさらに大きなしめ縄のような太いなにかが巻き付いている。
なんだ、一体コイツはなんだ? 魔獣にしてもおかしい。境封じの魔物か? いや、こんなものがいたという話は聞いたことはない。
志坂が頭のなかで問答を繰り広げているのに、答えるように、ふいに、その果実の表面が揺れた。いや、波うった。
足下から黒い靄がゆっくりと抜け落ちていく。此方に向かってこようとするその靄から、思わず更にしりぞいた。
隣にいた座り込んでいる酌女にもその靄がかかっている。けれど、女はその靄が掛かっているのを感じていないようだ。いや、見えてすらいない。志坂の慌てて飛びすさった姿にだけ、驚いている。
(毒霧でも無い……女に見えてない靄、俺にだけ見えている?)
女の方を見ていた志坂に、ふわりと風が吹き付けた。黒い固まりの方から吹いたそよぎに、目を逸らしていた顔を戻して。志坂は固まった。
黒い靄がぬけていき、しなびた果実の皮が剥がれ、中から人の姿をした者が現われている。白い肌に、黒茶の髪、女か男か、一瞬迷うような顔立ちの人物。えらく体の線がでている服を着てはいるが、その顔つきは中性的、しかも髪が長いところから、神職についているのであろうか?
その背後には黒い果実の皮が花の萼のようにそろっている。
「貴様、何んだ。人か。……答えろ」
倒れた三名の部下と剛平に目をやっているそいつに問いかける。と、そいつはゆっくりと視線を上げた。
志坂の目に自分を見ている黒が目を合わせ、ハッキリと顔を見る前に黒い何かが邪魔をした。
「てめぇ、魔物かよ! 」
何かと確認する前に、その蛇体を見て志坂は声をあげた。黒いしめ縄は、大きな蛇体、その先にある頭部が隠した顔の隣から差し出されていく。
黒一色の鱗に鰐口、頭部に掲げているのはあわせて三本の角だ。と、閉じられていた瞼が開いて、そこから金の眼球が此方を見据えた。闇にある獣の目と同じ、開いた瞳孔の黒は縦に細く、鋭い。
そのとき、志坂の頬につけられた傷がうずいた気がした。コレを、つけた相手は目の前、この、この……。頭で答えを引き出そうとするが、拒絶した本能が答えを取らせまいとしている。
取り落とさずにいる刀を向けても、知っている物ならば役に立つまい。志坂が答えを出し渋っているのを分かっているように、その黒い蛇竜は耳元で滴るような声をだした。
『生憎と、式陣が名乗る名など、お前にもちあわせてはおらんなぁ』
此方を見ているボスと、顔を合わせると言うときに黒之が私の目の前に現われた。なんだと思う前に、するりと、黒之の身体はまた自分の周囲に巻き付くような形にもどる。
戻ってきた視界に見えたのは、眼前に固まっているお頭。何も答えず、ボスはこっちを見つめている。見えているはずなのにどういことだろうか? 翼で発動していた黒之の夜幕皮を解いたあとには、まだその術力の残りがモクモクとしている。
散っていく術力のもやもやとした黒い煙のスモーク演出だと、これって敵役の魔導師とかだよなぁ。と、怒りの向こう側でうっすら思っていた。
(さぁ、どうしてやろうか。意断もう少しなら使えるし、次には絶対に当ててやる)
臨戦状態のまま、時にして一分くらいはその刀を向けられていただろう。無言の間がいくばくも続くはずもないが、刀をむけられた春香が爪を構えていると、きびすをかえしざまに、志坂は部下たちをおいて火のついていない方へ走り去った。
呆気にとられる村人たちにも、何が起こったかわからない。
それ以上に、春香も何が起こったのかわからなかった。
(は? え、これから戦うんじゃないの? )
疑問も置き去りにして、走って行った小屋から毛の長い四つ足がボスを背に乗せて、春香に。向かってくるかと思ったら脇を走り抜けていった。なんだそれ。
呆然とする私に、ただ、したり顔で黒乃がにんまりと笑っていた。
突然に志坂が逃げ出したのには、理由があります。
黒乃の言葉は主人公には聞こえていません。