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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
魔にありて対はあらず
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Ⅳ-ⅩⅥ 水底になぞる読み

 予想は出来ているが口に出すのが憚られてしまい、井双路の口も先ほどの片木梨と同じように軽く開け閉めを繰り返している。言うのが怖いわけではないのだが、想像を口に出してしまうと形になってしまいそうな予感が、井双路にはあった。只の勘のはずなのだが。


「井双路、おまえが言えんのなら言うが。

 そも二褄魔とは本当に魔物なのか? 道中の個体数が多いのも多少は頷ける、ああいう類のモノはいるが知力が低いのが魔物が多数出現する理由にもなっている。頭がよくないから多数を生かそうとする生き物としての知恵だ」


 片木梨の発言に、そうだと、短く返しその先を続ける前に、井双路が後を引き取った。


「そう、本来なら魔物なら多数戦を仕掛けてくるところだろう。あいつらは頭が回らない分を数で補う節があるからな。だが、羽末たちといい、水中の術力痕といい、数はほどほどだが術力を使わずに戦う。本体は奥に住まい、羽末たちを行きつ戻りつさせている。だとしたら考えうるのは? こちらの戦力を測っているというところだろう」


 休息地に着くまでに一頭も出なかった羽末、精神面での疲労を受けたのもさることながら、もし只の魔物であるなら峠を抜けるまでには必ず狩れる所で大群をひきいているはずなのに引かせている。本能で斡辰の隊をよけたにしては餌と、もう一方である式陣使いへと羽末を出させているのは計画的過ぎるだろうと思えるのだ。

 腕を組んでいる井双路の前で片木梨も顎に手を当てて考えているが、二人共に納得しない点としてたどり着いたところは同じだった。襲える時に襲えないのは、別の機を狙っているからだろうと。攻撃だけの。

 井双路たちは仮想として魔物の二褄魔を戦いつつ通り抜けるという前提のもと、軍を動かしている。最前線に立ったことのある者もいるがこの軍は、本当に戦うための最善の軍といえばそうではない。示威行為にあたる場合に全軍の全貌を見せることはせず、それぞれの隊隊長に、副官を含めての各自の中でも振り落としを掛ける隊の者を選ってきていた。

 小隊の上官に当たるものはその選抜を受けるものではない。だが、隊の下兵たちは選抜を受けているものだ。

 耳に当たる陽射しがちりと何かを焦がしたような気がする。井双路の中でもどこかをかみ合わせようとしていた組木のかけらがいくつも重なっていこうとしていた。それらはとても似通っており、一片の違いも僅かだろう。だが、


「つまりは、目的をあの式陣使いに定めての、前軍に来ていたやつは戦力解析の斥候か? 」


 出した答えはその欠片を組み合わせた中の最適解だろうと、おもう。思惑が絡みすぎている気もするが、単純に分割して二つを井双路は分けて思考していた。一ノ白の監視役である《霧守》とその一ノ白から負われてきているという二褄魔についてだ。

 片木梨が少し怪訝そうな顔をしているので、そこに少しだけ補足を付け足してやり、思考を同調させなければ。


「片木梨、まだ霧守にあの子は知られていない。これは絶対だ。俺なら自軍の最重要がとられればそいつは生かしておかない。

 次に、奪おうとしている奴が魔物じゃない。多数の配下に知力もある、ついでに術力が多い奴を狙おうとしてくる。ここまでなら思考の高い魔物だと思う。そこに、一ノ白がここまで追い払ったという前提を加えろ。一ノ白が魔物程度をこの要所に払うというので合点がいかなくなるだろ」


「……そうか、要所を守る厄介な壁なら。魔物程度じゃそうはならん。錬士にせよ刀術士という類では抜けてこられる。陸路の一つを封じる意味合いをもつ此処では、大国であるあちらが封じられた程度では難はあるまい。尾綴や斡辰、重樺緋、ここが封じられて割を食うのは中小にあたる我等だろう」


 一ノ白が追い払ったという魔物、それは人を食らい、多数で害をなし、領土の一部に荒廃をもたらしたという。魔物を追い払ったという一ノ白の話も真実だろう。ただ、情報に加えられてない一文を抜かしているだろうと、井双路は推測していた。


「魔物、らしきという文はあったな。だが魔物であるとはいっていない。恐らく荒神ではあるまい。人を食い群れをなし、幾種もの手下を揃えられるやつといえば降神(こうじん)だろうよ。ったくやられた。だとしたら霧守がこっちに手を出さないのも頷ける」


 組み立てをしていた自分たちの戦線は此処で一度崩さねばなるまい。あくまで井双路が立てていた戦略は対魔物の戦略だった。それが降神相手となると話が違ってくる。

 くだりがみと字に書くとおり、荒神がその位を落として野に立つことがその名の由来である。荒神は本来は人の魂や世にある術力といった、形としてないものを食としている。ただ、術力を吸収できないまでにその力が落ち、身を保てなくなった荒神が、最後の手段として時に現世にとどまるために人ノ肉を食らうことがあるという。術力を吸収できなくなった荒神の最後の手段として人が肉に持たせている術力を食らい、まだ肉の器にある魂を取り込む。肉は荒神をこの地にとどめる楔となるが、同時にその身を肉の鎖に繋ぎ貶めるものでもある。

 重なっていく欠片が影を落としていくように、幕の頭上を一握りしたような雲が抜けていき同じく影を連ねていった。数えにして僅か五の間、再度戻ってきた下の騒ぎと裏腹に、二名の顔には最早笑み一つたりとのこっていない。お互いに静かに術力を内に込めるような視線を交わしていた。


「合点がいく。井双路よ。俺の所が見ていたときに確実に、羽末は襲ってきていたがそちらの状況はどうだった。今一度すり合わせがいる」


「餌役に食いつこうとしていたが、さっきのを加えるとすこし違ってくるな。斡辰様の撃が加わる前に襲おうとしていた奴より周囲のやつらを見ているものが多かったと思う。無論即座に打ち落としたが、斡辰様の術力を見ていた奴はいただろう。周到すぎる程度には小賢しい。

 来るのは今夜だ。確実だろう」


 井双路の言葉にその隣から鎧をこすらせる音がした。

 二名がそちらを向くと、同様に厳しい顔をしている斡辰がいつの間にか自分の幕から出てきていた。話は聴いていたのだろう、二名と同じように柳眉を潜めつつも、僅かな水流のような術力の流れが見える程度にははっきりとした力を出している。 


「斡辰様。我等の話しをどこまで聴いておいででしたか? 」


「おまえの前軍にきていたのが戦力解析の斥候という行からだな。

 後の話もきいていたが、そちらの話についても高い可能性だろうとは思う。降神の話はあまり信じたくは無い話だが。大常や桐継、近条路をよびつけての話しにするのまでは、大事とは思わん程度には俺も賛成はする」


「はっ。では直ぐにも? 」


 そういった片木梨に軽く目を伏せつつ斡辰は幕のほうへ顔をむけた。同じように、二名も顔を向けると、はっとした様子で片木梨はまた顔をそむける。静かな声音だったが、斡辰は其処にいる彼女の姿にどうというでもなくこう言った。


「あいつを戻してからだ。四半時までまだ時間はある。すぐすぐにもはじめんでもいいだろう」


 幕の内に見えている姿は座っている姿ではないが、岩の上に僅かに盛り上がるような形で人の姿が見えている。岩に覆いかぶさるようになっているその姿は何とも言い難いが、おそらく休んでいるのだろう。


「女の子がああいう格好していいとおもっているのかねぇ。あの子」


「気づいているとはおもわんが。なんでああなったのかは俺も聞きたい。岩、そう思わないか? 」


「知りません。というか、私に聞かないで頂きたい」


 少しだけ上下しているその姿は、きっと寝ている以外の何物でもあるまい。風がそよと吹いているが、少しだけ天上の日は峠を転がるように空を下り始めていた。



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