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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
魔にありて対はあらず
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Ⅳ-ⅩⅤ 日陰の対話

 二名を遠ざける声としては小さい声だったとは思うが、春明は去っていったのを確認してほっと岩場に座り込んだ。笑っていたあのイケドルはおそらくわかっていたに違いないと思うと、少しばかりイラッとしたが立ち去ってくれるだけの紳士さは残っていたらしいので。かろうじて、そう、かろうじてよしとしておく事にした。そんな春明の動揺をわからなそうに見つめている黒乃は、やっぱり性別などに関することは大差なく見ているのだろうと思えてくるから、妙に安心させられた。


『御方? あの、姿を見られることはお嫌いなのですかしょうか。二人ともこちらをそれほどは見てはおりませなんだでしたが』


 黒乃はおずおずとそう言うが、本当にそうだったとしてもいや、そこに正誤を求めてはいけないと思った。春明は座っている暖かい岩の上でほっと一息つきつつ、黒乃にこたえた。


「黒乃が今までどういう形で人と付き合ってきたかしらないけど、操作されてきたんだとしたらそこまで意識無かったかもね。少なくとも異性に関して言えば、肌を見られたりとかするのは嫌よ? 見せたい子もいるかもだけど、私は嫌」


 姿を見せていた黒乃がその言葉をしっかり聴いていたか定かではないが、するすると立ち上がるように中空に浮いて見せた姿は、幕と自分の間で影を造るように伸び上がっていた。大きな翼をゆっくりと影にするように自分との間に立ってくれているのだろうか?

 春明が座っている岩のとなり中空に浮かんだ黒乃は、何も言わずふわりと春明の隣まで来ると、翼は影として幕の間に伸ばしたままで春明の傍でするりととぐろを巻いた。


「黒乃? 」


『行使している術力をすこしばかり補いますゆえ、幾許か私も休みまする。御方、なにかありましたらすぐに術式を補助します。不届きな事をするようなれば、この身で隠せますゆえ、気にしないでいたきたい』


 背中の角のような幾つものたてがみが、わずかに震わされて軽い音を立てる。翼にあたる光は向こう側へは通っていないようだが、黒乃は影属性を司っている式陣のはずだ。闇ならばと、隣に頭を寄せている竜は、では平気なのだろうか? おずおずと手をその傍に置くと、僅かな鱗の感触と共に生物のようなぬくもりをもっているその表面を、黒乃がすりつけてきた。


『影とはいえ、御方のそばにあればこれくらいは平気でする。御方が傷を癒されるほうが私も、おちつきますゆえ、お体の冷えをおとりなさい』


「そう……。じゃあ遠慮なく。ありがと。黒乃」


 胸元を覆っているタオルをよけつつ傷口と濡れていた身体をしっかりと拭いていくと、あたっている日差しもほんのりと身体を温めてくれている。思っていたよりも体は冷え切っていたみたいで、手の平も少し白さが目立つ程度には色をなくしていた。ふやけているのも気づかなかったが、水中はずっと冷たかったんだと思えると、体が震えた。白い幕は日差しと川岸に立っている木々の影を写して、揺れる度に風に体がさらされ小さく肌があわ立つ。抱え込むようにタオルをかたに掛けてもおなか回りが冷えるのではずすに外せない。小さなくしゃみが出てしまうが、覆っている白幕がなかったらこれ以上に寒いのを考えてしまえば、ここに居ることも贅沢だ。そうは、春明も思うが、寒いと体が訴えているからには、ここで風を受けているのは少々辛い。岩の上に座っているだけだと冷えてしまうしと、あたりを軽く見るがこのすわっている大岩以外でぬくもりのあるところといえば足元の大きめの砂利くらいだ。地面に寝転がるところまでは流石に色々捨てすぎていると思うが、岩の温かさにまさるものが今はない。


「黒乃……、今からちょっとアレになるけどいい? 」


『? はぁ、かまいませぬが』


 何をとまでは言わないが、二十にもなっている女子にあるまじき姿をさらす事にはなるのだ。なんでか式陣である黒乃に許可を願ってしまったが、おそらくなにかしらの申し訳なさというか後悔をもっていないといえば嘘になる。何に対してなのかは分からないままでいたい、恐らく自分に対してだろう。寒くて震えている身体をゆっくりと岩の上に横たえていくと、少しごつごつしているがあったかい。ぬくもりでおなかまわりが冷えていたのがあっという間になくなっていく。

 ちいさく息をついたが、黒乃の耳がひくりと動いているのを見てからは、ぬくもりが徐々に体の前面で満たされていっている。背中もすこし涼しすぎるかなという程度の風が抜けても、陽射しのぬくもりが身体を温めているのでさほど気にはならなくなってきていた。四半時しか僅かにないっていっていたが、この分なら身体も温まりつつ服も直ぐに乾いてくれるだろう。

 岩に覆いかぶさるような格好をして、春明は冷えていた身体に浴びている日光と、岩の温かさにすこしだけまどろみを覚えるのだった。


 砂利を蹴立てて白い幕の端まで来た片木梨の後ろを、井双路はついていっていた。硬い硬いとは思っていたが、予想以上にこの男は固い。咳をした時の顔をみていたが常時の顔の倍以上に固くして、見開いた目にさっと走った朱だけでも、奥手だろうと井双路は思う。耳まで朱はいってないが顔に走っていた朱は少しまだ残っており振り返ってこちらと話す素振りはしたが、片木梨は言葉につまったように口を開いて閉じてをしているだけだった。


「おいおい、片木梨。まさかあの程度で赤くなるとかないだろ。妹いるし女に対してそんなに色が無いとかありえんだろう? 」


「いう、な。妹は別だ。第一、人の着替えを見る趣味は無い。次に俺はアイツがいっていたような変態じゃない。それを証明するのにこっちにきただけだ」


 言い切ってはいるが、井双路の目にはその顔がまだ暑い様に朱が残っているのを見逃してはいなかった。従兄弟とはいえ、此処までかとは思う。自分を向いて喋っているが、片木梨が女が苦手なのを知っている井双路としては出来るだけ自分の後ろの白幕を見ないようにしているのが明白だった。


「あえていう。おまえな。たかがアレくらいのモンで顔赤くするなよ。幾つになったおい」


「貴様みたい浮わついとらんだけだ、第一貴様の反応もどうかと思うが? 少なからず見るなといっている相手に対してやるような事ではないだろうが」


 片木梨も井双路にそういうと、しっかりと彼の目を見た。元来の性癖なのか知らないが、井双路は色事にはなぜか、詳しい。正しく言えば女ッ気が途切れたことがない。片木梨が知る限りでは少なからず行軍にいく前でも一人の女性がついていた気がする。本人はまったく浮ついていないし大したことでも無いといっているが、そんなのは本人だけだろうと片木梨は思っていた。


「あんな影くらいで動揺するなよ。大したものでもないし、ほとんど見えてないものに其処まで反応するおまえの方がどうかと思うがな。まぁ、そいつはおいとく。

 話たいのはそれじゃなくて水中の、術力痕のほうだ」


 埒の明かない会話になりそうなのを先にきったのは、井双路だった。朱が残っていた片木梨も、術力痕の話と聴いて、元の顔色にもどっていく。水中で見つけた術力痕は明らかにこの近辺でありえるのは、羽末しかいないはずだ。囲われているその角には張り出した木の枝が伸びており、二人が立っている場所の上でさわさわと揺れている。


「…………術力痕はどの程度のこっていたんだ。水中の残滓が残っているとは思いづらいが」


「だろう。俺も、川に残っているとは思いづらかったが、水流の上流からやってきたもの、水岩窟のあたり、濃くは無いが確かに痕があった。一朝一夕とまではいかないが、水の術力痕は強く残るものじゃない。俺や斡辰様が中にはいって数日いても術力痕が残るか残らないかだが。水棲の魔物がいるとしたら寝床としているところには残るだろう」


 だが、と井双路はその先をきった。彼が想像していることが羽末に通じる事だとしたら、それはこの先の行軍の強行がよくないものであることに他ならないからだ。




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