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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
魔にありて対はあらず
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Ⅳ―Ⅸ 水煙は引きて

「斡辰様が力を貸せないと言うのは」


「しーっ。そこ響くようだし声を落とそうか」


 井双路様の声は水から震わせるように聞こえているが、とても小さい響きだった。自分の顔のした、水面が何度も滴りでないのに波紋を作っている。水を通して声を伝えているこの術式がどういったものか、どうやっているかを聞きたいところだったり、井双路様も水の属性だったという事で驚いているが、一番聞きたいのは斡辰が何故自分へ力を貸してくれないのだろうかという事にある。さっきまで考えていたとおりなのだろうかとも思ったが、黙っている春明へ井双路が否定した。


「いやー、力を貸したくないとかそんなに狭い話じゃないんだ。

 斡辰様のお力を使うには君の、技量が足りない」


 揺らいだ波紋自体を崩しそうな答えだ。

 はい?と一瞬聞き返そうとすると、井双路が水面に伝わっている波紋からまた小さな波紋をつなげている。


「斡辰様並に術力操作ができるならともかく、こっちにきて一週もたっていない君が、今の影属性でさえ苦労しているのに併用なんて技術使えるわけがない。そこは、俺としても斡新様に同意だし、片木梨も当然だっていいきってるね」


「へ、いや。術力を昨日もらったみたいに、水属性の術力をもらえば発動できるって訳じゃ」


 そう、術力の受け渡しが出来るとか言う話も聞いたし、斡辰様が影属性を使用できるという話しを聞いたから、水の属性に何とかできないのだろうかと託そうと思ったのだ。水伝(すいでん)と呼ばれる術式によって広がっている波紋も、井双路の声にあわせて大なり小なりを繰り返していたが、春明のこの答えには一度波紋が収まってしまい、向こうが呆れるような声が聞こえてきた。


「ない。そもそもその発想自体が違う。うーん。だけどなぁ。こうして無駄話していると騒ぎ大きくなるし、俺らのところにも近条路既に来ているんだよね」


 げっとこれには顔をしかめざる得ない。もう近条路様づたいにこっちの現状伝わっているのか。おそらく羽黒さんあたりが優秀すぎるせいだと思われそうだが。そうすると、今見えない斡辰の陣幕のところには、三名に近条路様とお叱り候補が四名もいると言うことになるではないか。

 思わず力が入って水をかいたが、岩壁にあたる小さな水音以外は誰もここにはいない。安心できるがさがす声が聞こえる中なので、それは悪い方にしか取れなかった。


「ま、断りきれなかった君のせいではあるがー…………、何でも俺のところの隊の奴にぶん投げられたんだって? それとしたらまぁ、すこーしは俺のところの責がないわけでもない」


 井双路様は何かを含むような言い方をしつつ、んー、と向こう側で楽しげにうなっている。震えている水面がゆるーい波を打っていて、井双路様がためらうような字ラス様な言い方をしているのをそのまま現しているようだ。態度と声だけではどうという事はできないが、おそらくこの人は片木梨様と違って随分と物事を楽しめる気質も持ち合わせているらしい。ただ、水にプカプカ浮いている春明からすれば、こんな状態を楽しげにみられるのは正直あまりいい趣味とはいえないと思っていた。「春明ー」と名前を呼ぶ頻度がさっきより多くなったのも耳が痛い。


「まぁ、水術力をつかえないのはおいておこう。水中で擬態ができるって言うなら、そこでなら助発の言葉が使えるじゃない? 術式使うのは……斡辰様、ちゃんと許可は俺じゃなく当人が出してくださいよ。

 契約に今回俺は関わってないから、俺からいったんじゃ効力でないのはわかってるでしょう」


 少しだけ遠のいた声がすると、浮かんでいた波紋が一つ収まった。電話が一旦切れるようになんだか術力の波長でもなくなったのだろうかと、声の返答を待っていれば、オンっと急に音量を上げられたときのようなノイズ音とともに、今回話を聞きたくないNo1の本人の声が聞こえてきた。


「許可する。 あと、お前は どれだけ 俺に 頼り切る 気だ ド阿呆」


 音量はそれほどないくせにすこぶるすごい威圧感で、片木梨様と並ぶレベルの怒気を含んだ許可の声がすると、大きい波紋がぐわっと広がり、しぶきがたつ。水面から吹き飛ばされた水しぶきが顔にかかって思わず頭を左右にふったが、その後声は一切せず、斡辰も井双路も何一つ伝えてくることは無かったのだった。



「で、斡辰様、こっちから呼び出しておいてなんですけどねぇ。

 その、行き場がないからなのはわかりますが。今回彼女ばっかり攻められないのわかっててあれですか」


「井双路、お前が肩を持ちすぎるだけだ。なんで、あいつはこう、やっかいごとを作る名人なんだ」


 少し上に張ってある陣幕の横は落ちる水流の傍だった。井双路が流れに浸していた手の平からの術力を切ると、送っていた春明の場所を繋げていた感触も切れる。最後の最後ででかい術力波長をはなった本人は、折角抑えて話していた井双路の労力を無駄にしたかに思えるほどだった。ただ、そこはやはり主属性で、斡辰も力の放出を広げる事で拡散させて使うことで意図して使ったと思わせないような流れに偽装はしたようなのである。それでもお怒りなのを伝えては意味はないではないかと井双路も思うのだが。


「折角の水伝でしたのにねぇ」


 井双路が流水から手を挙げると、背後にいる片木梨と斡辰、そしてそのうしろで膝をついて控えている近条路の苦い顔が勢ぞろいしていた。斡辰の隣に控えるように浮遊してる黒乃以外で、男が揃って苦々しい顔をしている様は、どう見ても異常事態が起こっているようにしか見えない。


『御大ともどもがいつも並びでいただけるのはありがたいですが。さて、許可が出たのなら直ぐ下がります。御方の手助け、とめる気はよもやありますまい? 』


「無い。いけ」


 短く出された主の声をみなまで聞くまでも無く、黒乃は水中へとその長い身体を躍らせると、水流を下へと下っていった。斡辰たちはといえば、あとは自己の力で何とかしろと言った以上、裁量をくだす事は出来ないし、待つだけになる。どう転んだとしてもだ。

 井双路は黒乃から手短に聞いた話で、彼女の転落経緯を聞く限りではもう少し助けるべきだと進言はしていた。だが、近条路は納得したが残る二名は頑として首を縦に振らず、井双路が力を使って助力を使うことへも否を唱えていたのだ。水面から挙げた手の平はまだ水滴を持っているが、井双路が少し術力を通すと、からりと乾いてしまう。乾いた手の平で頭をかくが、決めた事に口出しするようで気が進まなくはあるが、それでも井双路は何とか助力をしてやれないかと思っていた。


「とはいってもなぁ。配慮するとかはできないし、最低限春明は接触しないようにはしていたんだろ? 別隊の奴らからの誘いも受けないようにはしていてこうなったのは、他にどう防げと? 片木梨」


「完全に断り切ればいいだけの話だ。そもそも、あいつが」


「片木梨、井双路、迷惑の話はおいておけ。近条路今の話を聞いていて、お前なら隊に戻ったときどういいくるめる? 」


 井双路の助力につながる話しを斡辰は真っ先に切った。不機嫌半分なその声音は、ぽたぽたと滴っている水滴にその理由がある。

 苦い顔の筆頭で椅子に座っている斡辰の銀髪は、しっとりと濡れた光沢を放っており、銀の色が日差しに輝いていくらかまぶしく感じられた。うっすらぬれているのは髪だけではない、上半身も白い肌が水滴を弾いていて、上半身を覆っていた鎧は今は無い。脱いでいる上半身からは流線的ながらしっかりとした筋肉がついていた。部下たちの水浴びに乗じて、斡辰本人も水浴びをしていたところでの黒乃の出現で、どうやら気分を害する羽目になったようである。

 不機嫌さもまるで隠そうとしない斡辰へ、近条路は内心の笑いも相成っての苦笑いを作るばかりであった。


「さて、さて。水中に入れられてから随分と立ちますが、御大のところから契約印を通して呼び出しの術力を受けていたためそのまま水中を移動していったというには、いささか無理がありましょうか。さすれば、後は力量次第になってしまいまする」


「影の術式をどれだけ使いこなすか、か。いや、俺等こそそれは春明に任せきりだからダメじゃないかって話じゃない。ああ、斡辰様。後々でいいですかね?」


 近条路が言っている意見に答えた井双路は、突然思い立ったように斡辰へ何事かを話しかけたが、すうっとその場を白いもやに覆わせると周りの水煙に巻き込ませるようにその姿を隠した。

 片木梨がおい、という呼びかけをした頃にはその水煙は晴れたが、井双路の姿はどこにもない。


「術力の後がうっすらか。相変わらず術力痕跡を残さねぇが。あのヤロウが。出ばらねぇって話だろうが」


 斡辰も術力を使ったという感知と、彼が春明に向かっていったということはわかったが、目の前で発動しても井双路の術力は見づらい。斡辰を筆頭とする三首の青首と呼ばれる彼は、それぞれが頂いている通り名にこのような名を残している。曰く、姿を見せると思えば、水煙の如く失せている。『水煙(すいえん)の井双路』と。


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