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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
魔にありて対はあらず
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ⅣーⅠ 名を以って総べる

 日の昇ってから先の行軍はすぐにもという形だ。昨夜の事を真相を知りえているのは当人たち以外では、斡辰の二つ首くらいなものだろう。斡辰本人の気を感じたとはいえ結界を張ってまで押さえつけた術者の力は相当なものであったといわねばならない。

 誰もがその次の日に見た術式使いの姿と、それに添えられている斡辰の術印が浮かび上がっている様をみて、己が主君達の、特に斡辰の力の強さを再認識させられる事となった。術式使いの中でも副属性とはいえ闇に属している属性術者を捕らえることは難い。その特性ゆえに斡辰の水術属性でさえ巻き込む力をもつ影の術属性が、斡辰の力量を以ってすると術属性の優位性など微塵もなくなってしまうのだ。春明の術属性を知ったもの達、特に副官以上のモノたちは改めて主君が抱えた術属性のものが特異であり、希少である事、そして、主人がそれを総べる力をもてるだけ彼を支配できているという認識をもち、一層の支配が強まったのであった。

 そのことに気づいているのは、事情を事情で知る以外は、まさしく、斡辰の三つ首たちだけがその現状を理解している限りとなる。

 朝日も直ぐに差込み、峠には二日目の朝が訪れていた。

 斡辰の陣幕内にも米を炊くにおいや、外でたかれる火の音が聞こえ、煙が上に上っていく様が見えている。斡辰も幕内で早くも目を覚ましていたが、既に手洗いの水が満たされて傍に置かれていた。顔に水をかぶせるように幾度か洗うと、黒い桶と水面に映っている自分の銀髪が揺れた表面に機嫌が悪そうにこちらを見返している。

 その水面を消すように術力の波を立てれば、桶の水はそれに従い斡辰の術力のままに球体になる。回転している水球をそのままに、斡辰の金の瞳が一点を注視。透明な玉はそのまま音もなく滴っていき、地面へと落下すると不定形にうごめいて地面にしみこんでいった。


「朝から何をしておいでですか、斡辰様」


 昨日の説教から自分の好調をとっていった張本人が臆面も無く、仕切り幕のそとからはなしかけてきた。術力の波長を隠すことなく使用したのだから、気づかれて当然ではある。


「別に、俺の術力調整だ。昨日使ったのとであわせても悪くない回復具合だ」


「左様ですか。では、本日は私が控えておりますので、道の終まで温存できるとよろしいですが」


 外で既に支度までしているであろう片木梨は、そういうと遠ざかっていった。まったくもってよく出来ているものである。血筋の流れは同じものを持っているはずだが、家が違うとこうも違うのだろう。寝て起きてすぐだったが、何かを見た気がするような記憶のひっかかりがあるように斡辰は感じていた。夢を見た記憶はないから、恐らく夢はみてない。覚えてないだけかもしれないが、夢を引きずるような事なんかした事もないので、彼はすぐにその感覚を切り捨てていった。

 用意されている朝餉を直ぐに食べて準備をはじめれば、斡辰が鎧を着て身なりを整える頃にはそれは影も形もなくなっていた。



「まったく、あの子のところにいくとは思いましたけどね、いささか出張りすぎじゃないかと岩と意見があいましたよ。御大将。まぁ、何をしたのかはあの力具合でわかりますが」


 井双路は出立前の馬上で斡辰へそう語りかけた。今日は斡辰の隊をそれぞれ移動させ、井双路の青首隊が後方に移動する形をとる。隊の編成をしなおせば次の休息所までは出来る限り早足になり、かつ再編成をとることが難しくなるだろう。伝令をとばすにしても少しばかりこの先は道が細まっているので、互いの連絡も遅くなると思えば、今日が羽末の第二波を掛ける一手であるだろうとも思える。


「出張ったとはいうが、荒れた収拾をつけるには近条路ではちときつかったと思うぞ。放出の具合をみて思ったがまだまだ伸び代のある出方だったしな」


「近条路では、そうですねぇ。術力属性の相性でいったら俺と貴方でしょうとも。だからといって肩入れする気持ちをおこすまでにいけないといいますか。感知と実見では違いもあるでしょうから、今日で私も見させて頂きます」


 井双路の整った顔が片木梨が隊を編成している中の紛れてしまえない、彼女の服装を捉えている。鎧の中でやっと息をついているような顔をしている男にみえるかみえないかの偽装術を施している彼女が、目立たないように出来るはずもない。隊の人間たちはまだ彼女、いや、彼の事を疑って掛かっているだろうがそれもこの行軍中で変わるだろう。井双路は笑みを絶やさないその顔で行軍の列を整えている片木梨の隊の面々を順次見ると、自隊へと向き直った。

 昨晩の羽末による襲撃が無かった事に対して違和感があり、この違和感は抱えていくべきだろうと思えた。合計十五体の羽末が襲ってきたのならば、頭数は少なくはない。仮にいくつもの自分の手下をもつ魔物であれば、ここまで手をうっているのにも関わらず後おいで夜襲をかけないことは、敵に塩を送るようなものだ。

 何名かを立てていた夜半の見張り、片木梨と井双路が交代で起きもしていたが、たまに音がしてもなにかの動物が立てる走る音や、がけ崩れの音だけだった。


「今日仕掛けてくると俺は踏んでいますけれど、斡辰様は? 如何にお考えで」


「妙な手を使うやつが定石を持ってくるか、それとも更に奇襲を考えるかと聞かれるとな。魔物としては随分こずるい性質の奴らしいのを考えれば、今日に本体は出ないが何かもってくるとは踏んでいる。崖上を警戒しておけ」


 斡辰も彼を見ていたらしく、話しかけた井双路へ彼が先ほど向いていた方向と同じ向きだった顔がこちらを向いた。すこしだけ橙を含んでいる太陽を受けた銀の髪が行軍を進めようとする彼の思いのように風に少し抵抗したように揺れた。彼の言った崖上へ斡辰の金眼が向けられ、井双路も主君にならって見上げると、先日に感じ取っていた霧守の気配が少し近くなった気がする。


「おや、奴さんも感じ取ったんでしょうねぇ。昨日の術力」


「更に急ぐ理由が増えて、説得材料も増えた。それだけだ」


 斡辰はそういいつつ霧守の動向が離れていたところから峠を迂回する道である箇所へ移りだしているのが早いらしいことに気づいていた。そうなれば、本当に時がない。一ノ白が疑いだしていることは予測よりも確実になっていると思わなければならないだろう。

 馬首を返して斡辰は自隊へとむけつつ、井双路にこう言った。


「片木梨が見ていたものと、お前が見ていたものとでは違うだろうからな。後方の頭に回ってあいつは中隊の末になる。実力を術式の発動具合をみるならお前のほうが向いているだろ」


 片木梨の隊に出ている負傷者は後方が多い、故に後方末に春明を置く事で羽末(うすえ)が狙う位置を決まった形にする事を今回の隊列では目的としていた。日が差し込んで場が明るくなってくれば隊を組みなおしたことで、それぞれの末兵達も緊張していた意識がすこしは緩和されるだろう。人ならばそれだけでぬぐいきれなくとも多少の心の調整をかけられる。だが、二名が乗っている馬はそんな乗り手たちよりも意思表示を繰り返し、馬首を進行方向から切り替えしたそうに振っていた。

 動物の直感でも、奥にいる二褄魔(ふたつま)の存在が感じ取れるからだろう。斡辰たちを落とすような荒々しい動きはないけれど、それでも鼻息を散らして彼らは奥にいくべきでは無いと主たちへ伝えていた。


「やれやれ、乗りなれているやつならもう少し大人しいんですがね。あいつらばかりとはというので、連れて来た若馬では怯えが取れないようだ」


「そうだな。だが、今回の行軍の奴らと同じだろう。こいつらにも必要があればくぐらなければならないところはある。それが早まっただけだ。

 井双路、後方の具合はお前に任せる、俺は前方に来る奴らの一掃をする。術力量のほうはまだ余裕があるからな」


「承りました。御大。片木梨も残している量は多いようですから警戒は常あるかと。

 また、彼らの調整は既に済ましております。今日半日の行軍程度なら私の術式下から離れる事はございませんが、そちらの大常(おおつね)に損なわぬようにとお伝え頂ければ助かります」


 峠に入っての行軍二日目、織田峠にいる本体の二褄魔はいまだその姿をあらわす様子はなく、どこか先行きに煙がかったような雰囲気の中、本国への足は動き出したのだった。

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