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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
風きりの谷駆け
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ⅩⅩⅧー這いて次ぐ日を望む

 誰もがぶつかった夜、時間はゆっくりと流れていき、春明たちの立屋周りに居た男たちは引きずっていかれ周囲がそれにざわついたが、わかるものだけにしか斡辰がきていたことは知られなかった。起きていた人物の話から、近条路様や羽黒様まで何もないところで座っているというので、上の人はというヒソヒソとした話がでていたが、瞬間にもやのようなものが晴れるように人が現れたことへは、驚くしかなった。たたずむ二人の男の姿は片方は自分たちが見下していた術式使い、片方は一番上から沙汰まちを言い渡されて言る罰則待ちの吉郎だった。

 何もないところから忽然と現れた二人を迎えた近条路たちが当然という形で迎えたのも、そのごぼそぼそと話しをされている姿がみられたのの、上官二名はあそこに彼らがいると知っていたからだろう。


「何が、あったんだろうな」


「知るかといいてぇが、足元見りゃなぁ……あれはよ」


 誰かがの声は一様にその場にいるもの達の考えだっただろう。


 この一件、隊の術を使えないものたちにしてみれば、春明にちょっかいをかけた故に逆にたたき返されたと見ているものも少なくはなかった。

 隊長である近条路、副隊長である羽黒まで出張っていたさきに忽然と現れた春明と吉郎の姿に、積まれた気を失っているであろう男たちの姿は、語るよりも実感を植えつけるのには充分だった。やたらに手を出せば、術式使いである彼の怒りを何らかの形で受け取る事になると。

 羽黒たちからほどほどに注意と話しを受けたが、思っていたよりもその言葉は多くはなく、彼ら二人とも自分たちが悪くは無いと思ってはいたらしい。明日の行軍も考えて直ぐに休みをとれといわれたあとは、火が落ちるように声も引いていった。周囲の消された跡にはうっすらと煙が昇っている。


「あー、すまん。外で寝るべきかもしれないが流石にそれもな」


 吉郎が静まったせまい立屋の中でそう言った。つかれきっているが駄目な事の境くらいはしっかりしている。知っているものは上司に自分と少ないが、春明は女性だということで小さな問題が起こっていた。立屋は二人一組が原則なのだが、普通なら女性と一緒に眠る事を前提にしてはいない。せまい立屋で男ふたりでそれぞれ眠るが、圧迫感があることこの上ない。間違いを自分はおこす事は今は無いが、知っているというのでやはり変に目を逸らしてしまう。春明はまた式陣の術式を戻して身体を覆いこんでいるがやはり女性なのだ。


「いいから、寝ときましょう」


 吉郎がそんな風なのも気にもしないと言ったように、春明はそっぽを向くと横になり覆い布をかぶってしまった。


「は? いやしかしそれが」


 吉郎がそれに意見しようとしたが、春明のほうからは小さな呼吸音が聞こえてきていた。そっと顔を覗いてみようとしたが立屋の布が邪魔してみることが出来ない。疲労が濃くなっていると斡辰様方が仰っていたとおりなのだろう。春明は瞳を閉じると同時に寝入っていたようだ。影からキロと目線が送られ、式陣様も傍に寄るなと暗にいっている様で、それ以上彼女の顔をみようとする事は憚られた。


「俺も一応男なんだがなぁ」


 軽い失望の混ざった感傷に胸の裏側が痛くなった気がする。あと、余計な事を考えれば自分は男として見られるような脅威でもないという彼女の意思表示なのだろうか? そうと考えてしまうと、吉郎の落ち込みを察することは出来るだろう。深く溜息をついたがそれ以上にいえることも無いと、彼も背中をむけて反対に覆い布をかぶる事にした。

 初めて女人と同じ部屋で眠る事になったので目がさえて眠れないだろうと思っていたが、吉郎も重なる羽末の襲撃や、騒動を春明と同じように受けてきていたのだ。横になった途端にどっと押し寄せてきた疲労は彼も春明と同じように眠りへと押し込めてしまったのだった。

 

 春明の静かな寝息と吉郎の深い寝息に外の火は熾き火だけが小さく鳴っている。わずかに立屋へ差し込んだ影もほとんど動かない。ひっそりと闇から黒が立ち上がっていき、黒乃が姿をみせても二人がおきることはなかった。せまい立屋にゆっくりと主の身体に触れぬように伸び上がっていく竜体と畳まれた翼は、双方の寝入っているのを邪魔しないようにとひどく気を使っているようだった。

 春明の顔を覗き込んだ黒乃は安心するようにゆっくりと顔を寄せると、ついで吉郎へぺしりと尾の一撃を尻にくれる。眠っている吉郎がくぐもった声をあげたが、この眠りの深さでは覚めることもあるまい。

 主から顔を外し立屋の外を覗けば、数名が起きている火があちこちに見える。交代の時間にはまだ間があるのか、眠い目をこすりこすり起きているあの半ボケの意識では自分を見ることも出来まい。黒乃は小さく鼻をならすと、念を入れて立屋の裏側からその身体をするすると抜けさせていく。地面を這うのは性分に反するし、むしろ嫌悪があるが、術眼もちがいるこの隊で自分の隠匿術がどこまで効いているのかも気をつけなければならなかった。


『やれ、しばらく見なければ術力の使い方も様になろうさ。我のいぬ間がいかほどの時だったやら』


 僅かにそういうと、長いからだの式陣は廃屋の一つへと滑り込んでいき、そこについてやっと浮遊する事が出来た。全身に土がついた気がするのでくるりと一回転に、ぶるりと身体をふるわせてわずかな土をおとす。黒乃が入り込んだ廃屋は鍋や釜、鋤などもおきっぱなしされ、床の其処ここに転がされている。残っているようだった食料も動物が入り込んだのか一部が食い荒らされ、残りは腐敗が始まっていた。

 鍋を支えている囲炉裏鉤には手ぬぐいのようなものが掛かっており、黒乃が近くに寄らずとも、ほこりと土気色にかわっているそれはかびた臭いをさせている。


『ふむ、人はひの、ふの、むか。』


 金色の目にそれぞれ浮かび上がってくる術力の残りかすは、人がいた形跡が僅かにあることを見逃さない。てぬぐいはカビの臭いがしているが、土気色にまぎれた赤黒さはかくせはできないだろう。黒乃が天井をみやると、そこからも濃い術力の残滓が漂っていた。

 一羽ばたきさせてその天井付近に術力をこらせば、手の跡のように形作られている手ぬぐいより濃い黒がそこにはあった。


『やれやれ、この術力、近条路と同格のものか、ふむ、ふむ。術力量が同格がそれぞれ三に連れが二、あとは一だが刀術士がおったとみられるが』


 黒乃は手形の主が今わの際に残したであろう術力の叫びを見ていた。斡辰隊が来る前にここを通り抜けられると思っていた何がしかの戦闘可能な術式使いと、剣術士がいた。出来るできないで言われれば、少なくとも近条路と同格には動ける力の持ち主が数名と、それより少し上ぐらいに当たる剣術使いと只人で構成されていた旅の者だろう。

 ここを抜ける自信もある力量の持ち主だったに違いない。黒乃の主に比べればずっと強いもの達だ。だが、


『屍すら残さんか。主君に忠するが我の縛りではあるが。ここを根城にしているモノ、安く落とせるとはやはりみえんだろう』


 そうつづけた黒乃が見ている先には、手の跡よりもはっきりと残されている術力痕があった。それは、人による術力痕ではない。術力のつけ方はまるで大きな波がぶつかったかのようなあとで、この天井の高さにまで水をたたきつけることが出来るような洪水は起こりえない。

 万一、斡辰のような術力使いであったとしても、水量に任せるような術式はとてつもなく使用する術力量も多くなる。


『二褄魔、か。字面どおりとすれば、一対の魔と見ておくべきか』


 主の力量もだが、黒乃はこの跡に一抹の不安を覚えずにはいられないのであった。


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