ⅩⅩⅣー沈みし夜に火が一つ
主属性だと告げた斡辰の瞳が少しもとの金を戻していたように見えた。自分の属性を隠すつもりなどまるでないようだが、主属性とか副属性って普通は隠しておきそうな気がするのだが、と春明は思う。姿を変えているのも自分の影属性を黒乃から経由して使っているのかとも考えられるが、主属性がどこまで用途の広い属性なのかと考えると、それは怪しい境だ。
鈍く変色させられている黒の髪がもともと銀髪なのもあってか、やっぱり輝き方が少し違う気がする。髪の色をじっとみていたが、やはり術の属性についてという詳しい話しをそれ以上に聞けないようなので、春明は斡辰へまた目線を戻した。
「隠しておく必要がないと、言う事ですか? 術属性を騙っておいても損は無いと思いますが」
「何故必要がある? 契約しているお前が必要に応じて俺の術力を使う場合も生じるだろう。そう言ったときに、術力性質を見極めていなければ必要でも使えんだろ。まぁ、しばらくは先のことだ。当面は抜けきることだけを考えるがいい」
抜けきるという言葉と共に、斡辰の目が自分からつっと動いて、廃村の入り口へと向けられる。斡辰自身が命じた見張りが二名、そこには立っているのだが春明には見えなかった。入り口を指し示しつつ仮定でしかないが、可能性を揚げていく事で春明へと説明を続ける。
「いいか。今は抜けきること、それだけを考えておけというのは、それ以外を考えている暇がないということだ。深く話しても、お前はどうも考えすぎる気があるからな。詳しく話せば理解もするが、そいつが今は裏目にでかねん。変わりに別の方向でお前には気をつけるべき事柄があるといっておこうか」
「その、それは逆に気にしてしまういい方になってしまってはいませんか? 自分は今、それについて聴いていいか迷いましたよ」
「聴いてもはなしにならんな。で、気をつけるべき事柄が命に関わってきてもお前はそれを優先するのか? 」
斡辰はそういうと水球のような術力の玉をまたつくって、隣にひじをついてこちらへと質問を返さずに重ねるように質問を返した。話しを聞かない人ではないのだが、今大事な事を出す事で別口で報せなければいけないようなことを逸らしている。春明が詳しく質問できないような言い方をしているという形で、だ。結界の中の反響する音とパチパチとなる火の音は、春明の沈黙の間をかすかに繋げている。
「そう聞かれると、命に関わる事を、としかいえないでしょう。いずれ必ず聞かせてもらいます」
「それでいい。今目下この気を失っているやつらが言っていた通り、お前にむかっていく羽末の奴らが多い。戦闘に餌をまいておびき寄せてはいるが、それでも行くということは、お前がこの峠の魔物にとって上等な種類の食事になるか、あるいは峠の魔物自体が既に刺客として前々から仕込まれていたか、複数考えうる中ではこのどちらかにあたるだろう」
斡辰はひじをついたままで軽くその右手を振るい、黒乃がそれにあわせて滑らかな蛇体を滑らせて、ほの明るい空間で翼を広げる。以前も黒乃が図で示した、翼絵図がそこに現れていた。
斡辰はその翼に己の指をさすと、何もない空間に水音がかすかにして、広げられた翼へと僅かに光を帯びている術力の水が精緻な絵をかたどっていく。最初は昼間に何度も戦った羽末、そしてその上にいるのは羽末を複数重ねたようなまるでヒラヒラの怪物だった。おそらく、それが斡辰の描いた二褄魔なのだろう。
「この化け物を見たことがあるんですね。そして、私が上等とはどういうことでしょうか? 」
「上等というなら、まぁ上等だろう。端的に言えば門外人はこの世界でつれて来られる以外では、生存者をあまりみない。理由はひとつ。
門外人は術力量がこちらの人間よりも高い為だ。そのせいでこういう魔物、あるいは式落ちから高級料理のように思われ、襲われる場合が多い。生きている門外人もいないわけではないらしいが、大体は食われるだろう」
斡辰が指を更にうごかすと、自分の姿が小さく描かれ、複数の魔物が周りから殺到する絵が一気に展開され、あっという間に二褄魔だけがその場に残された。立ち位置として酷い扱いをうけるだけではなく、存在自体が厄介なのだとまた知らされることになるなんて。
「では、生きているだけで狙われると。黒乃がいなかったらあの山でも? 」
「そういう類はそこかしこにいる。術力のない獣でも、食えば切っ掛けになるから狙うこともあるだろうな。だからこそ、俺がわざわざ出張ったんだ。さっきの話しをもう一度するつもりはない。其処にいる式陣から聞けるだけ聞くがいい。夜の自分に俺の術力と同時に発動すれば、抵抗して俺にねじ伏せられているくらいには思われるだけですむだろうよ」
斡辰はそういうと、区切りがついたらしいのか、背後に起きている吉郎へ目を動かした。
今の今まで放置されていたが、ずっとその傍で彼も話しを聴いていたし、それに口を挟む事は出来なかった。だが、向けられる目線に気づいたのか、吉郎は直ぐにも頭を下げる。
まぁ、本当だったら彼にあった時点でこれくらいに頭を下げ続けている必要があったが、斡辰が吉郎にまるで視線を向けずに春明と話していた事もあって、少し対応が遅れていたのだ。
「申し訳ありません。式陣使いの方を守る役目を頂きながら、このような有様では」
「謝罪はいらん。お前が何とかしようとしたのは見ていたからな。だが、力足りず過ぎる」
切れ味のよい一言で吉郎を更にへこませたが、斡辰はそれを見て億劫そうにこう、つづけた。
「今更だ。
頭が高いともいわんし話しを聞いていたなら、春明への協力を一層に尽くせ。それくらいしかお前に言うことはない。術力に関している知識だけは俺は多少はお前に一目を置いているからな。隊の人間すべてがそれを出来るわけではなく、お前の力もなければ先は暗くなるぞ」
「はっ、はい。お言葉ありがたくいただきますっ」
以外な斡辰からの言葉に凹んでいた吉郎はがばっと身を更に低くして礼をとり、春明は少なからず驚いていた。斡辰のような一番上の存在が、吉郎という下っ端の存在に関しての情報をここまでもっていることはある種で情報を全てもてているという、上下の関係がしっかりと繋がっている事を示している。大抵は近条路様が御している隊どまりの人材内容にあたるはずだ。
さも知っていて当たり前だという彼の態度は少しだけ鼻につく気はしたが、その程度くらいだろう。それでも、色々と知っているならばの問題点はあるが、そこをつついては今の空気に水をさすだけだ。
「面をあげろ、ついでだ、春明が無茶をせんようにそれを見張る事もお前に命じておく」
とってつけられたような発言だが、スッパリ切られた一言のついでとばかりに自分にも刀が振ってきて、思わず反発した。
「待ってください、私がいつ」
『御方、残念ですが先ほどの術力の放出を知っているものからすれば、御大の言いようは最もかと思います。あの放出が無茶でなければなんなのかと。ついで、吉郎には我らが初手で《意断ち》をつこうた事による、影属性の術式への耐性がございます。
御方の術力を一番近くで見ているのは近条路様、羽黒様ではない、彼です。貴方の術式について一番傍で彼がそのよしあしを見ることができる目があるのですよ』
そういうと、黒乃は広げていた翼を折りたたむなり、ひょいと彼へと向かって回復している爪の一本を差し向けた。
「うわっ」
なんと吉郎さんがそれを思わず庇うように腕を揚げたではないか。彼にあったときは黒乃の技事態見えていなかったはずだ。
「式陣による術属性によるこれが欠点とも言うべきでしょうな。我らの姿は高位には術式使いたちには見えますし、感じられます。ですが、こうして術式を相手に作用させた際、ひとつのつながりが出来る。式陣に与えられたという傷が式陣とのつながりをもたせ、私の姿を見る事が可能になってしまったのです」




