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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
風きりの谷駆け
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ⅩⅩⅡー月に影は寄り添いて-⑤

 斡辰の結界を維持している間は誰もこない。黒乃はそれを疑いつつも、斡辰が抱きとめている主の心配を続けた。術力を放出し続けていた彼女は、折角たまっていたうちの四割近くを今の状態で放出してしまっている。体力的にも八割であったその力は行軍や周囲からの圧で更に削れており、行軍を耐えられるはずだった体力はあるが、術力が残る四割を切りかかっていた。


『御大、例え貴方の思惑があろうとも、御方のことをバラすおつもりがありませなんだなら、この術力の量では持ちこたえられますまい。峠の二褄魔(ふたつま)を御大が倒されたとしても、御大をこの隊に残していかれるということは、行軍を続かせる事。御大をこれ以上疲弊させれば早々に力尽きます』


「だからといって特別扱いにするほうが事だがな。今はこの程度で済んでいるだろう。だが、俺の式陣士になるということを誓った以上、甘えも差別もない」


『本音を知るものからすれば、詭弁ですな。白のモノ達への力の発露を御大の存在に確証を与えないためとしているのを、よもや私が存ぜぬと? 御方の術力を押さえ込まれたのも御大が別の式獣を伏せたと見させる意味合いあってのことでしょうとも』


 ぎらつく鱗を黒乃は僅かに波立たせている。主に無理をさせている斡辰の意図を汲んでいるからこそ、彼は必要以上に春明に話そうとはしなかった。一ノ白の遠目はこちらを常伺っている。術力が悟られれば即座にこちらを深く見ようとしてくるだろう。


「それなら、あいつ等だってとっくに気づいているだろう。春明は術式を発現させたが、あいつらならその術を感知させたはずだ。何故ならばこない? お前の考えすぎだろう」


 流すように黒乃からの追求を受けると、斡辰はその目を真っ向から受け止める。同じ金の瞳がかち合って、術力どうしの発現を阻害するようなたわみと空気の混ぜ返しをつくり、斡辰の周囲に持ち上がる術力に黒乃の翼が立ち上がっていく。

 そのままいけば、主である春明をおいて彼ら二人の激突がするか、に思われた。斡辰は膨れていた術力の一端を黒乃へ向けていた全てを一畳みに仕舞いこんでしまった。ボルテージを揚げていた場の流れが崩され、黒乃から影術力の割合が増すことで結界の内側の術力が影のもやを帯びていく。


『どうした、若造。臆したか』


「今お前を殴りとばす気はない。こいつの術力を少し補填する作業のほうが先だろう、黒乃」


 斡辰はそういうと、腕に抱えている春明の首に左手を寄せるように置くと、閉じているようにその文様を消していた契約の術印紋が首をひとめぐりして浮かび上がった。斡辰の刻まれている文様は見ることが出来ないが、恐らく同じように二人を繋いでいる契約は斡辰の意思によって浮かばされているに違いない。

 首筋に熱を集めるように、術力の塊が出来ていき斡辰の周囲には霧霞(きりかすみ)といった風情の細かい術力の結露ができだしていた。


『……ふっ、御大の、言うようは正しい。いいだろう。抑えてやる。

 だが、術印紋だけで通そうとするな。属性が違う人間からの術印通しによる補填は利き辛い。御大の属性なれば、そう言ったことも少なからずできようが、影を通すなら私を伝えろ、人の術力を内にとりこんで力となすも、また式陣ゆえ、な』


 黒乃は言葉を和らげて言っているようだったが、牙をむき出した爬虫類の顔を怖くないとは言い難い。春明が起きていたならば、きっとおびえただろう。


「その面、なんとかならないか。仮にもこいつの式ならばちっとは主君に配慮しろ。般若の面を常につけているような奴からの提案なぞ、誰も受けんぞ」


『こんな顔をさせたのはお前だろう。ああ、時が足りないといっていたならついでに御方をおこす。御大、あなたが話したかったこと、少なからずわが主を安らげる事に繋がりそうだから私は力を貸すという事、覚えておかれよ』


 それ以上は無用とばかりに、黒乃はぐるりと二人を取り囲むと双方の影の中に飛び込んだ。意識とは違う、手を繋げられるような表層に触られる動きと、術印紋に一筋の黒筋が走ったのに、少しずつ、斡辰の術力がその回路を通って流されていく。

 流されていく術力が徐々に春明の内側にたまりだし、ゆっくりと彼女に意識をもたせるだけの力をつけさせていった。斡辰の術力の一塊を受け取りきる頃には、顔色と息遣いもやっともとにもどってきたのだ。



 春明はそんな事は知りもしなかっただろう。黒い中で意識が開かれた時には、鼓動の音がやけに大きく聞こえた気がした。周りを見渡して自分だけがいる事に安心したような、答えて欲しい寂しさがあった。


「どうして、こんなところにいるのだろう? 」


 意識が少し途切れてしまって何をしていたのかを思い出すのがつらい。なんだか、ちょっとだけテレビの画面が途切れたような不自然な歪みがあって、思い出せないわけじゃないけど、引っかき傷を作っているところに触れる感じで、なんだかさわりたくない。


『御方、御方、意識だけで気づかれたようで何より。直ぐに目をお覚ましください。御大がお待ちです』


 意識の端から電流のような声が届いた。また、あいつかと。


「黒乃、今更だけど何があったの? 思い出す切っ掛けありそうだけど思い出したくないのと半々で、かさぶたがはげない時みたいな気持ち悪さがあって」


『御方は、術力放出して無礼者を粛清なさろうとしておりました。その際の術式操作を誤りまして今のように昏倒しておいででしたのです。今、私が領域に浮上しておいででした御方の意識に話しかけております』


 粛清という嫌な単語が聞こえた気がするが、思い出そうとしているところにその爪が引っかかったから、きっとそうなのだろうと思う。ひとかきに掻いてしまう様に思い出をむしり出すと、視界が黒かったという記憶がでてきた。

 続くように隣から臭ってきた汗と口臭、そして肩に触れられていた痛み。叩いた手、吉郎さんが殴られていると、芋づる式に記憶が抜き出されると、最終的に自分が無理やり術式まがいの何かを使おうとしていたことを春明は思い出した。

 理性をふっとばしてこいつらを殴り飛ばしたいという感情を当てはめたら近かったかもしれない。手が自分にあるかどうか見えなかったけど、意識の中だけで頭を抱え込んだ瞬間だった。


「オモイダシマシタ。思い出しましたよ。うん、術力っていうか術式を使おうとしたわけでもなくて、その、彼らをぶん殴りたいって思う程度に怒っていたのよ。八つ当たりまがい。

 まぁ、脱がされそうになったからそれを全力で拒否したかったのもあるけれど。

 ちょっと待った、じゃあ私脱がされたの? 黒乃が飛んできているって事は非常事態で?! 」


『意識でそうガチャガチャとお話されると答えようが無いと以前も私は仰いましたが。それを御大が大事に至る前に止めてくださったんです』


「へ、御大って? 」


 聞いたような聞きなれないような単語におもわず聞き返してしまうと、これまた盛大なため息が彼から帰ってきた。意識の中だけでため息が分かるのが不思議だったが。声だけだった黒乃の声がそばまでやってくる、見慣れた長い口と金の瞳がよってきて、ここまで来るかと思うほどの距離に

黒乃が居た。春明がたじろぐのも構わず、黒乃は相手が聞き逃さないようにと、耳によく聞こえるような音声でこう言った。


『御大! 貴方の、春明の主君である斡辰 水守宗様です! 記憶をかっ飛ばしているお暇がお有りなら、早々に起きてくださいお待たせしているんですよ』


 意識もジンジンとするような音声? で、周囲がふわっと浮かべられるような感触がした。

 上空から光のようなものが見えているのだけわかるが、意識が起きるという事だけがはっきりとわかり、黒乃がその隣で春明の身体をもって上へ上へと引っ張っていかれる。春明のしびれた意識にあるやってしまったという困った感覚と、目覚めたくないと思ったのも、黒乃にはまるで構われる様子がない。瞬間には薄暗い瞼の裏側になってしまっていた。


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