Ⅲ-ⅩⅨ月に影はよりそいて-②
月が見えなくとも夜はふけていく。周りの火がほとんどすくなくなり、起きているものも焚き火を絶やさないようにしているようで、廃村の家屋の板を引き剥がしたり、あるいはたやさぬように峠の傍に生えている木々の近くに落ちている乾いた小枝をたしつしている。
そんななかで、まだ二人は術力についての話しを途切らせずに出来上がったおかゆに近い味噌味の御飯を食べていた。
御飯をたべることでやっと自分の中にこころもち力がたまってくる。羽黒さんから頂いたお説教の痛みはどうもストレスとは関係がなかったのもあって、すきっ腹にご飯がよくしみる。
「けど、じゃあ術力は血統に拠るほうが確実に使用者が増えると言う事になって、吉郎さんはきざしが無いといったけれど、血統は確かに継いでいるはず?
よく分からないな」
「血統は発現しやすい要素ではあるけれど、みい出すのは自分ってさっきも言っただろう。己の性を見つめるということは言葉では容易いが、試して見つけられるような事柄ではない。春明だって、いざ自分を説明しろといわれて説明できるのか? 」
そういわれてしまうと確かにそうだ。意外と魔法とかに近い割には自己分析のスタイルももっていて自己啓発本とかを愛読している人物なら、術力を操りやすいのとかもあるかもしれないなと、思う。ただ、春明のように属性は闇? なのかと思う割りに、その性を説明できないというのは式陣からの関与だけで成り立っている術式使いとして正しくは無いありかただからだろう。
渡されていた椀やはしで食べるが、数日間を寝て過ごした割りにはおなかも減りが少ないし、今日の行軍で疲れはあるはずなのに、肉体的な疲れよりも目に見えないところが細っているような気がする。
「出来ない。術力というのはそうすると万能ではないな。力としてあるのに使えないというのは、持っているだけ勿体無い。属性も自分のは闇? になるのだろうかと思うけど、どうしてそうなったんだろうと聞かれても答えがあっているかもわからないしな」
属性について春明がこういうと、吉郎はそれについて否定した。
「いや、術力はあって勿体無いものではないさ。それと、春明。お前の術力の属性だけれど、闇というよりは副属性にあたる影の属性だろう」
「副属性?なんだそれ」
属性に副とか主とかあるのだろうか? 多数に術式を使う用途は分かれるようだが、属性というもののそれは違いになってくるのだろうか? 春明が吉郎の顔をみつつ疑問を浮かべていると、吉郎が一つ小枝をとって地面へ何かを書き出した。
「一つ。炎というものは、熱と光と形とで構成されている。術力を炎に変換する使い手を、炎術式使いというけれど、実際にこれを扱えるという術式士は多数いるだろう。ただ、副属性とよばれるのは炎術式使いとは違う。主属性である炎が従える、熱や、溶岩、あるいは爆裂という形で属性が細かく分かれて使用される場合、これを、炎主の副熱属とか、炎主の副爆属といった形で、主属性である炎の属性と違う形で発現しているとみなされる。
近条路様もこれで、炎主属性だが副属の溶岩属という属性で発現する」
「じゃあ、近条路様は主属性の炎属性というくくりは無いと? 」
「あー……そうではないよ。ほら、これをみてくれ」
吉郎は固い地面のうえにある砂になにやら炎を描き、その下に三つに分かれている形を書いていた。一つはトゲトゲとした草、一つはもやもやとした煙、一つは水のような川のような模様だ。見た目が悪いせいで分かりづらいけれど、これが今話してくれた副属と呼ばれている属性なのだろう。
「炎というのはこの副属性全てを司っている事象をさす。副属性は確かに炎の属性に身をおいているが、主属性である炎のように、溶岩が熱をまとっても熱気事態を操る事はできない。逆に熱が発せられていても溶岩属性じゃない以上は、いくら熱をつかって溶岩を作り出しても、溶岩自体を操ることが出来るわけじゃないんだ」
「熱と溶岩と爆裂ですか……、でも熱ってどちらかといえば風とかの大気とかを含むし、溶岩は大地が解けたものだから、地属性をもっていそうな気がするのですが、そこのところは?」
「確かにそういう見方もあるだろうけど、うーん。風主属性だと毒気を含む大気やカマイタチ、飛行、複数を抱え込んでいる意味合いでは、砂嵐も難しいところだが、これは風属性になる。
主体になる属性自体によっては、境目が薄いのかあるいは自覚している属性がという事かもしれない。ただ、言える事としては、副属性よりも主属性が圧倒的に強い。副属性に属している事柄を全て掌握しているのが主属性になるからね」
くくりの違いについてはいまひとつ分からないけれど、つまりは、術式というのは主属性でない限り炎の力という全ての力を使いこなせないという事なのだろう。闇という属性が主属性になるなら今の副属性と呼ばれている影属性も、その理念に沿うというわけだ。
ただ、そうなると少し残念である。
「じゃあ、闇の属性でないという事は術を使いこなせるようになっても、副属性どまりということになるってことか。主属性にたどり着けないんじゃ、随分と挫折する人も多い役職なんだろう? 」
「いや、それもちがう。副属性が始まりだからといって、なにもソレだけが全てではないらしい。主属性へ至るまでは長いという話だけれど、副属性を複数もつ術式使いは位が上の術師になるが存在しているよ、春明」
抱え込んでいた器を空にしつつ吉郎は残っている傘の中にある味噌メシの残りにひかれているらしい。話が上の空になりそうな気配を察した春明は、吉郎の椀をとるとさっさと全て盛り付けてしまった。困ったような顔をしているが、足りないであろう事は顔についている飯粒をみればはっきりだ。
「その、すまん。謝ってばかりだが、かたじけない」
「飯を食べながらでいいから、続けてくれ。上位術式を使うということは、複数の副属を持ち合わせての術式を使いこなせる人材という事にあたるのか? 」
かつかつと椀にはしの当たる音がしつつ、吉郎はあっという間に残っていた飯をかきこんでしまうと、口いっぱいにしている顔でおおまじめに首を上下させた。
「うむっ。ん。 ぷはっ。そうだ、上位になるほど術式使いとしての役職は上がり、自分が使い粉なす術式が多様性を極めていくものが多くなる。現に片木梨様の術式を近くで見ただろう?雷の副属性である身体への速度強化に、雷爆と呼ばれる技を併用していたはずだ。あれは雷の主属性まで届いているのかもしれないなぁ」
「なるほどなぁ。で、こんな時に聴いておいてなんだが、そんだけ知識があるのにどうして吉郎さんはあの隊にいたんだ? 」
途端に喉につかえる物はもうないだろうに、吉郎の口がへの字に結ばれた。みそと米しかないはずの食事に魚の骨でも入っていたような素振りだ。
だってそうだろうと、春明は思う。これだけの術式についての知識とかをもっている人物がなんで戦場へと行く兵の訓練に付き合わなければいけないのだろうか? 志坂の隊にいたということも考えて本当に釣り合いが取れていないと思う。
「話したくないならいいけどな。この知識はあなたの財産だ。いくら武がある人間だって知識がなかったらそれを活かせる事ができない。そういう意味合いで尋ねたんだが、藪から棒だったみたいだ、申し訳ないな」
答えられそうにないとしたらそれ以上は聞くまいと、春明はそう告げると、吉郎は未だバツがわるそうで、への字に結んでいる口をとこうとしない。ちょっとだけ口を開こうとしては、何かを思いとどまったようにまた閉ざしてしまう。目に迷いはでており、どういったらいいかと思い悩んでいるようだった。
「その、あ…………うん。
いや……」
「言いたくないならいいといっているだろう。落ち着こう。余計な事を聴いて悪かったさ」
「んなこたねぇよなぁ、吉郎」
吉郎がどうと答える前に、気づくと複数の足が傍にきている音がした。




