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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
風きりの谷駆け
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Ⅲ-ⅩⅣ 眠れぬ夜に月は無く-①

 吹きつけてくる風が只の突風じゃない事がわかる。それはこの峠を吹き抜けていく風よりも、清涼感のある風。術力の違いとかを分かるかと聞かれたら、見た目に色が薄いのかとか、それともこれはしょっぱいかとか聞かれるのに等しいくらい分かりづらい。

 春明が感じた涼風はやっぱりそれぞれに吹き付けている風らしく、そこかしこからこんな声がしている。


「斡辰様が猛っている」


「やれ、この風具合だとイラついていらっしゃるか」


 聞こえつつも作業をとめる手はなく、それぞれが溜息交じりに寝る場所を確保するための立屋作りを続けていた。

 どうも、斡辰のご機嫌がそのまま風に現れている?らしい。だとすると彼は風の属性になるのだろうか? 突風をおこす様なイメージといったら安直過ぎるがそのままだろう。吉郎(よしろう)立屋(たてや)を組む手をとめずに、春明はそう思っていた。寝るための場所という事で廃村のまだ屋根が残っているところや、綺麗なままの家とかもあるのでそこにとまればいいのかと思ったが、羽黒(はぐろ)さんや遠いところで戒渡(かいど)さんの声が立屋を組もうとしていない兵をしかっている声が聞こえているので、そうもいかないようである。

 吉郎もそうなるだろうとは分かっていたようで、立屋を組むための縦木を手早くのばすと、春明へと覆いになる布を張る手伝いを頼んできた。使いこんである立屋の具合からみても、おそらく年代モノなそれの布の端をうまく結べないでいると、すぐにそれを結び紐をつくって反対側に吉郎はもどっていく。少し思っていたが、吉郎さんは器用なのだ。


 野営をそれぞれが張っているが、その塊は幾つも集まるようにできていて、すくなくとも三分割に分かれている。見た感じでは中央の一番広いところを斡辰の陣幕が覆っているところから恐らくあそこに、斡辰様がいる。次に崖沿いに近いほうにいるのがおそらくわたし達、片木梨様に属している近条路さんたちの隊だ。峠の岩壁に近い付近へ陣取っているのが井双路さんたちの隊。のこっているのは斡辰様がひきいている隊だが、これはいわずもがな、斡辰を守るように円状に囲っているのだ。

 それぞれもグループをつくり離れないようにしている造りから、きっと羽末(うすえ)の夜襲を受ける可能性を考えてのことなのだろう。複数の警戒で周りを固めていけば、襲撃も備えが出来る。けど、いつもならそうなっているはずだったろうに、と春明は遠巻きにされている自分と吉郎(よしろう)について触れていない周りが、同じ警戒を出来るだろうかと疑問に思っていた。

 羽黒(はぐろ)さんもついてから折々の隊の面子を確認したり、けが人の確認をしたりと中間管理職として大忙しのようである。連絡を一通り済ませ各隊の具合を見終わっていた頃、ざわめきが中央から聞こえてくる。見かけた鎧姿にそれぞれが居住まいを正し、気づけば各班の班長と副長がその人を前にするように並び始めている。

 無論、相手があの近条路様だからだろう。下っ端に当たる自分たち以外も興味はあるが、全員で聞く前にそれぞれが立屋つくりやら、夕飯つくりやらに追われているので放り出していかないあたり、連絡網がしっかりしている軍のように春明は思えた。羽黒さんも、奥のほうでけが人を確認していたはずなのに走ってこちらに向かってきている。


「常、警戒を怠らず。行軍予定地である先の河川まではまだ距離があるが、本日はここでの宿とするため各自身体を休めよ。後に、次の河川で早くの休息をとり、残り半分を一気に移動すると、達しがあった」


 近条路様が伝えてきていた伝達は、それぞれの班が集められた班長と副長が聞かされていて、その様が見えるが、吉郎さんが見ていようとした自分へ肩をたたいてこういった。


「ダメだよ春明。隊のはなしなら班長になる人が飯時前に、一度俺たちを呼ぶ時になる。今は立屋つくりへ専念してくれ」


「自分たちのはほぼ終っているのに? 」


「俺らはこれでいいかもしれないけど、羽黒さまやあっちのけが人の立屋がまだ途中だからな。経験がないから仕方ないなんていっておれないよ。出来るものが出来る事をする。ひとつの心持だけどそれが大事なんだ」


 吉郎はそういうと、自分を急かして次の立屋を造る場所へと引っ張っていく。怪我をして動けないでいる数名は、羽末に噛まれたり、包みこみを受けて骨を折ってしまったもの達だ。見た目にも血が滲んでいるのがわかる彼らの怪我は、浅くは無く、あるだけの布をつかって包帯代わりに巻き込んであるだけである。添え木もついていない様はとても痛々しい。そんなうちの頭に包帯を巻いている一人は、心配そうにこっちをみながら話しかけてきた。


「お前等、立てられるのか? 特にその術式の門外人は立てたことも無いだろうに」


「ああ、俺がいつもやっているのをみせながら建てる手伝いぐらいはできるさ、その腕じゃ組めないだろう? 」


「助かるがね、だが、術式使いにはなぁ」


 口ごもるように包帯の男はそういうと、後ろの仲間にちらりと目配せをする。じとりとした目つきで下から見上げる彼らは、それは嫌そうにこちらを見ていた。

 何が嫌なのかと思うが、けが人の一人は共に歩いていた近場にいた歩兵の一人だった。その他の者も自分の前だったり後ろ付近だったりした、いわば自分の周囲を歩いていたものたちばかりだ。


「そうさ、おまえさんがいるところに羽末がよってきている。お前が立てた立屋なら、さぞ多くの羽末がよってくるだろうよ」


 下から掛けられる声は恨みを込めて春明に言っていた。


「春明がその全ての原因だといえないだろう。立屋を造るのに関係あるものか」


「あるさ、術式で羽末もまともに倒せんやつが、下手に触れればそれだけで立屋だってくずれっちまうかもな」


 かすかに笑声まじりで包帯男はそういうと、手でしっしっと春明を追い払う仕草をした。

 吉郎さんが庇おうとしてくれているが効果はほとんど無く、二人は怪我人たちに追い払われるように元の場所に戻ってこなければならなかった。首筋をかきながらどういったらいいだろうという顔をしている彼にも、酷く悪い気がしてくる。

 羽末がもしかしたら、自分に目をつけてきているかもしれないとは春明も考えていた。当然のことながら自分だけがそう思っていることは無かった。それだけだ。

 あれだけの攻撃を受けながら自分は彼らと違ってかすり傷や、片木梨様につけられた刀傷だけしかない。痛みに耐えても誰かしらに庇ってもらいたいとは思わないが、それでも、なんといっていいかわからなかった。


「春明、その」


「何もいわなくていいです。あとは、何かする事はあるでしょうか? 」


 気丈そうに見えるかどうか分からない。でも、男の姿をしている自分が女々しく泣いていたらそれこそもっときつい言葉がくる。どうにも、今はできないことだけはわかっているから。吉郎にそういうと、彼も眼を細めて笑いかけながらこういってくれた。


「……なら、あいつ等が拒否した分で羽黒様の立屋を作ってしまおう。おわったら少し水くみに行こう。この近くにしたの沢に降りれる道があるそうだ」


 作り笑顔は私より下手らしい彼は、それ以上は触れずにそういうと、額をぽりぽりと掻きつつ羽黒様の立屋つくりのための組をとりにいこうとした。春明もそれに習って一緒に立屋を組み立てていたが、ふと、思いたって吉郎にこう言った。


「そうですか。

 その、ならば自分が水を汲んできますので、吉郎さんは残っている立屋たてのほうに行ってください。自分がいて建てたくないでは、いつまでもたちませんよ」


「ああ、でも」


「組み立てが終ってなくても怒られるなら少なくとも、分散すべきです」


 効率を考えればそれが一番になる。加えて、やっぱり一人になりたくてどうしてもそういいきってしまった。吉郎も、なんども反対はしたが、水をくみにいくくらいならばと、許しをもらい。

 早速、沢の降り口をしめす松明の方へ桶を片手に春明は歩いていったのだった。 

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