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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
風きりの谷駆け
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Ⅲ-ⅩⅡ 内の背中と火-②

 まさにそれは天恵だろう。これだけの術式使いを拾うことが出来、かつ斡辰がすでにそのものと契約を結んでいるのならば、それを誰かがくつがえす事は出来ない。大常(おおつね)はそれに喜色を浮かべていた。


「さすれば、志坂を倒したあの術式も……。まだ、練り上げてはおらんだろう。これはまた、よい雛を見つけたものですな」


「価値があるかどうかは、しごき次第だ。そこまでに過剰な値をつけるものではない。契をかわしているということを知るのはお前等含み、井双路と片木梨、其処の近条路も場に居たので知る限りだった。だが、知らねば境をつくるばかりだろうとは俺も思っていたところだ。全てはまだ報せん。だが、得心は出来たか? 」


 斡辰(あつしん)が、手甲をはめなおした手を握る仕草をすると皮の握られる音に、谷風が抜ける音が混ざり、主君たちの場にあった空気が少しだけ変わった様に感じられた。

 

「御意。御大をお疑いした事、深くお詫び申し上げまする」


「右に習う形にて申し訳ありませぬ。御大の深慮を知らずとはいえ、不忠でした」


「いや、構わん。そこまでかしこまる事も無い。ただ、今はその事だけで治めるわけでお前らを呼んだわけではないのは、わかっているだろう? 本題はここからだ」


 声音に沿うように谷風が斡辰の背後から流れてきて、その銀髪を揺らめかせる。そこに僅かながらに立ち上る術力は、僅かなれども、彼の銀流のように深みのある濃さをもっていた。術力を紡いでいる斡辰の言わんとする事に、各々の主隊長はハッとすると自らも術力を紡ぎだし、それぞれの術力をゆるゆると放出させていく。

 井双路が、それらが放出されていく様をみていると、背中にある二棍を手にもち、朗々と助発の言葉を続けていく。


「ありて数種、昇りて絡種、四種をもって壁をなす」


 棍に加えられている玉が鈍く輝くと、井双路の言葉に反応して斡辰たちが立ち上らせていた術力をそれぞれに加えて、陣幕の内側にさらに壁が形成されていく。流れた術力を紡ぎ、それを一つに平らげる。斡辰の隊で水術二番手にあたる水術の使い手である井双路の術力を束ねる『水術 三式 混色壁』と呼ばれる結界術のひとつである。

 斡辰の気を主格ににして練りこみ、複数の術力をもって束ねたこの閉鎖空間を作り出すことを促した斡辰の本題を、主隊長たちは構えて聞くこととなった。


「今回の本国帰路について、急が過ぎるとは誰しも思っていた事だろう。俺も、春明の件がなければ予定通りの行軍にするつもりではあった、まぁ、アイツが来たことで気づいた事もある。

一ノ白が霧守(きりもり)を使っていることがそこにあるな」


 斡辰はそういうと、主隊長たちの反対側からまた不定形の白い駒をとり出すと、織田峠の反対にある山波のあたりにその駒をおいた。


「まさか、あの霧守がそこまできているとおっしゃるのですか? 」


 桐継はまさかと、それを否定する。霧守といえば、一ノ白が誇っている隠密の一隊である。情報収集に徹している部隊と行動を担当する部隊とで分かれているらしいが、その部隊が行動を起こしたとなれば、こちらへの関与がある可能性がでてくるのだ。

 大常もだされた白の駒へ対して桐継と同意見で、いささか信じ固いようにその駒と自軍の駒とを目が往復している。峠を越えなければ、自軍がいっていた筈の道筋を霧守が通っているというのだからそれもいい気はしないはずだ。


「術眼持ちでも、俺たち三名の感知は鋭い。主隊長格に悟らせないようにつけているということから霧守でも上のやつらをつけてくれているみたいでな。大層なお見送りだ。

 今回の行軍を見られているだけなら構わんが、折角みつけた奴を横取りされかねんのを考えれば念を入れておいて問題はない。あとは、お前等各人にこいつを渡しておく。万が一のためだ」


 そういうと、片木梨は自分の背後にもってきていた何かの袋から幾つかの薬瓶をとりだした。素焼きの簡素なつくりのそれは、見た目よりも幾分か重く出来ている。中には液体が入っているらしく、栓をしてあっても僅かに揺れる音がした。

 どの瓶もかすかに甘く、せんじ薬のような鼻に通る香りをさせており、それがなんなのかは各人が知っていた。


「緑酒薬ですか」


「ああ、最大の敵はこれからだ。俺や両名は平気だとしても、術力量の違いは明白になる。もしもの為にはなるが、二褄魔を倒す、あついは霧守とやりあうようになった場合はコイツを惜しみなく使え。いいな」


 術式を使用するものにとって術力の枯渇は戦線で一番避けねばならないことである。末端の術式士や、上位にいる複数の上級役職、大殿にあたる斡辰本人でさえこの枯渇は恐れている。

 枯渇状態に陥ればおいそれとは回復できない。だから、上位にいるものなら常で底上げや回復薬を常備していることが多くなる。こと、軍の上位ならばそれも当然だろう。

 渡されたそれぞれの瓶を大事に仕舞いこんでいくそれぞれの思いは、硬くなっていく。


「それほどですか。二褄魔は」


「霧守が、というべきだろうな。警戒しておくにこしたことはないが、二褄魔を追い払ったあとこそが奴らの好機になるだろうという判断だ」


 斡辰はそういうと片木梨がさしだす緑酒薬を自分の腰帯の飾り紐に軽く結びつけた。聡い主君のこの動作で、控えていた主隊長たちの思いがおさまりをみせていく。二褄魔には斡辰様は追い払うという言葉をかけた。だが、霧守に対しての引きしまった顔立ちが二褄魔よりも鋭い。隊に引き入れたものよりも、背後に控えしものに警戒を絶やすなと。そう、主君が言っているのだ。

 三名の主隊長の意志が揃ったのを片木梨は見届けると、持っていた竜の首の駒を要となる場所へ配備していく。最初は先頭位置にあった左首の竜、井双路をしめす駒が場所を移動していき、後方へと置かれ、同時に井双路が主体になる隊が後方中央部に位置する。井双路の青首隊は基盤を後方中央へと隊の軸が動かされた。

 片木梨のもつ右首の竜は、その井双路へ受け渡した場所から空をきり、今度は斡辰隊の背後に位置している形に連なる。斡辰の隊は銀首の一つを先頭に、その後方に斡辰がついている。斡辰隊をさらにもう一つはさんで片木梨が中央部の先頭へとくる形になった。

 三首の竜がそれぞれ場所を移し、均等に配置されていくこの並びに、主隊長の顔が自隊の配置図を確認していき、配備する人員についての話がされていく。

 九の隊それぞれが配備する場所を確認し終わると、井双路が最終確認でそれぞれに聞こえるように図上の配へ異論がないかを尋ねた。


「では、これからの峠攻略に関してそれぞれの意見をだしてもらおう。三首の意向としては、河川の経路までをこのまま続行させ、最終休息地とする。残りの半分の行程に二褄魔の本体があると確認できそうな箇所が数箇所ある。

 うち、一箇所は人の手がおよばぬ高所だ。二箇所は東壁面にある穴だという。この経路でいくならば、被害が出ている後方の黒首を中央へ移動。俺の隊である青首が後方を受け持つ形になる。斡辰様は先頭なのは変わらずだが、いざと言う時には大常、残る二名、警笛が鳴らされたら片木梨、お前も出張ってもらう。まだ餌の役目をしているものは生きているが、春明に対して攻撃がくるなら俺も目は放さんようにしておこう

 取り、場所、何か異論があれば述べろ」


「ございませぬ」


 三名の並ぶ等しい声音に井双路が頷くと、斡辰へ顔を向ける。三名の隊長格にそれぞれ話しを通ったことを確認するように斡辰も三名をそれぞれ見ると、近条路のところでその顔がとまった。


「近条路」


「はっ」


「お前の隊についてはまだ沙汰を全て下したわけではない。だが、お前の所へとやっている者、術式使い、二人を損なわぬようにしろよ」


「御意」


 短く答えている近条路だが、斡辰の術力がそこから更に膨らんだのを感じた。鎧ごと押しつぶす様に発されているその術力に、隣同士に膝をついている大常、桐継の鎧も軋む。

 圧していく結界の中で満ちるその気配は斡辰の横に並んでいる二名の髪をはためかせるほどだ。放出され、本来なら散じる術力が閉ざされた場によって対流を引き起こしている。鈍く輝く金眼のとなりで放出された術力が行き場をなくして形を造ろうとグルグルと周囲を渦巻く何かへ変わろうとして、斡辰は己の術力放出を止めた。

 納まった術力の余波でも風が渦を巻いているようだが、その力にありように三名が(こうべ)を一層に深く垂れたのはいうまでもあるまい。


 

 

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