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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
風きりの谷駆け
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Ⅱ-ⅩⅠ 内の背中と火-①

 織田(おりた)峠は、本来は三日をかけていく峠である。行軍するとなれば五日は日程として組むのが無理のない予定となるだろう。陣幕(じんまく)を中央の少し上に幕だけで囲っている簡易式の本陣に、火を控えめにたいているいくつかの焚き火がある。

 行軍を進めに進め月が空にその姿をあらわすまで進んだところで、斡辰(あつしん)軍はもともと街道沿いにあったという廃村地にたどり着くことが出来た。この地点までを一日の日程でいくのに無理があるのは承知していたが、被害を斡辰、井双路(いそうじ)片木梨(かたぎり)、三名をふくむそれぞれの隊の主隊長をよび話しをしている現在、その被害の程度はやすくはなかったという結論によっていた。

 斡辰隊からでている、大常(おおつね)や井双路のところの桐継(きりつぎ)もその意見を曇らせていて、話し合いはよいとは言えなかった。夏風のぬけるこの峠は空気の通りはいいが、その風でも今の場の空気を払うことは難しいだろう。


「斡辰様がたのご意向もあっての、今回の早道でしたがうちの隊では斡辰様と井双路様のおかげもあって、負傷者が三名、軽症者が十二名という形でとどまっております。しかしながら、本来ならこの傷を負わずに帰れる筈だった事を考慮に入れれば、今回の帰路での事柄は問題のあることと思います」


「左様。私も大常殿の意見に習うわけではありませんが、どうみても今回は被害が多い。羽末(うすえ)の襲ってきた回数はゆうに六度、うちに同時に起こった戦闘も含めて倒した数は十五体になりまする。羽末の被害をこれで抑えられているのはまだ、数として落ちていないだけマシである。といわざるえませんな」


 広げられている敷き図の一枚である今回の峠の行路をみていると、現在当たっている廃村のあたりは、三分の一にあたる。予定であるならこの二分の一にあるはずだった峠の中で下の川に隣接している一番の低所にあたる河川での野営を敷く予定であったはずだったのだ。これほどまでに羽末がでる事がなければ。腰に挿してある刀の位置をすこし動かし、井双路もその予定行軍の道筋をどうしたものだろうかと考えていた。


「予想より羽末が多かったのは想定外だ。最初に出てきたものを片木梨と俺とで威嚇がわりに一撃で屠ったが、それでも出てくるのはよほど人に飢えているということか」


 斡辰の顔には疲労こそ現れてはいないが、行軍の進みようが難しいという事に金眼も鈍い輝きである。片木梨にいたってはその険しい顔に、眉を立てているので一層に怒っている風情で近寄りがたさを醸し出していた。


「でしょうな。術式を食らうという目当てで雑魚がやってきましたが、こちらの被害は馬が最初の戦いで二頭、死者が二名。重傷者が一名に、軽症者は十四名です。三戦目以降は春明の術式のお陰か負傷者はだしていません。ですが、襲われる回数は減ったわけではない。

むしろ、春明の術式を確認するために増えた気も私はしております」


「術式を食らいにくるというので、あいつらを使いはしたが、それでも春明のほうにうまみがあると、あいつらが踏んでいるという事か? 」


 おとりのえさを軍の頭のあたりにおいての行軍だったが、その餌にくいついてもそれだけでは足りないという事なのだろうか? 井双路もそれに頬をこわばらせている。

 式陣士であるということをこの場で確と知っているのは三名以外で近条路くらいだろう。多数に伝えなければそれが原因がと言い切れるが、霧守を背後にもつ今でその情報による混乱はさけなければならなかった。

 大常と桐継も式陣使いといっていたものが術式使いだという話しをもたらしたが、門外人であることは誰も否定しない。門外人が急に術式を使えるというのもおかしい話だし、それ以上に主君がそれを抱えた事も実に中身のわからない話だろう。

 ただ、主君に対する信頼、それで今は繋がっている部分が強いのを、斡辰の両腕たちは理解している分に、そこを詳しくいえないもどかしさにさいなまれている。わかっていたことだが穴はこれから本国へ戻る途中でいくつでも出てくるだろう。だが、塞ぐ手立てが全てあるわけではない。なんとも心許なさ過ぎる話ではあった。

 三名の空気はその心配を出さぬようにしてはいるが、やはり納得のいかない桐継がこう切り出した。


「あの、術式使いのか。御大が雇いを入れたとはお伺いしましたが。無礼失礼承知でお伺いいたします。そこもとにはそれほどの力をもつように、あやつはみえませなんだ。まして門外人です。術式をいつしいれたのやも分からぬ。本当に、あやつを入れたことは増強の布石へとなりうるのでしょうか? 」


 大常もそのことばに深く頷き、斡辰とその隣にいる両名へ問いかける。近条路は同様に二人に対して頷いてはいたが、その顔つきは知っている故に僅かに硬いだけだ。

 兵からの不審、主隊長たちの不審はそれとして伝わっているのを、片木梨も行軍中の動向でいくつかはみてとっている、だが、それを上官として阻止してしまうのも軋轢が生じる。みなまでいえぬからこその言葉だと知りえているのは、先をいっていた近条路と、副隊の羽黒。

 片木梨から切り出そうと僅かに口をあけようとすると、その隣で衣擦れの音がわずかにした。

 井双路も音に気づき音源へと目線を走らせると、斡辰の解かれた手甲がかれの右手に握られている。続くように腕にのこっている袖口を捲り上げれば、そこには春明と結んだ術血印が浮かんでいた。


「これ、は」

「御大、どういうことですか」


「見たとおりだ。俺がアイツを逃さないためにつけた術血印だ。契は結ばれて俺はこの手に、アイツの首にはこれよりきつい術血印が刻み込まれている。

 素質をみてとった俺の決断だというには、お前らを含むおれの二首からも説教はうけていてな。

 アイツの契を結び付けているのは俺の力だ。だが、お前等のいう通りに見た目では謎の門外人を引き入れたようにしか見えんだろうな」


「と、申されますと」


「術力の発動についての見解、近条路や片木梨がまだ報告していない事柄が、あったんじゃないか? おい」


 斡辰はそういうとまた袖口を元に戻しつつ、手甲をはめなおしている。となりの片木梨がそれを結びなおす手伝いをしながら、大常たちへ向き直った。そう、斡辰がつなげるのならばと。


「斡辰様のとおり、確かに報告しておりませなんだ言葉はございます。

 あの術使い、助発(じょはつ)の言葉を使わずに術を発言をしたということでございますか?

 」


 斡辰はそう問う片木梨を横目でみつつ肯定の言葉をいい、片木梨はその言葉をもってさらに話しを繋げる。


「助発なしで紡ぐ術式。大常、桐継、その使用についてわれら術式を扱えるものであるならば、それがどう意味をあらわすかは知っているだろう」


「まさか、あの門外人がそんなはずはございますまい! 近条路殿、片木梨様もろともで我らを担ぐおつもりですか」


「いいや、桐継の。わしも隊主を任される者。偽りは申さぬ。一度羽黒にあの術式使いは怒鳴られておったので、その後の動向には少し目をやっておいてな。

 無駄なものなれば今日のうちに隊を離れさせる話も考えてはおったさ。だが、術式を発動するのに何があったかしらまではしらなんだが、形はいびつに相手を仕留めるものではかったが、確かに影の術式を紡いでおった」


「なんと、おまけに。影術の使い手と?! 」


 志坂を倒したのは、その術式であったのか。と、大常も納得したように口元を押さえつつ眉があがっている。感情を表さないようにしているつもりであろうが、はっきりとそれは現れていた。門外人がそんなことがあるはずがないと。


「もし、もし、そうなれば。斡辰様は志坂めの一件にて術使いが、影術の使い手とは、既に」


「気づかないわけがないだろ。大常。仮にも御大だぞ。その発言は口を慎め」


「申し訳ございませぬ」


 井双路に謝罪をする大常の隣でも、桐継は何も言わない。二人共に影術の使い手となると少数に属している術者であることは承知しているが、今回の門外人の術者がまさかそうとは考えていなかった。

 しかし、そうであるならばすこしは得心がいくのだ。御大ともあろうお人があんな戦のいの字も知らないようなものを兵にする契を自らが結ぶほどのものであったと。門外人は総じて術力が何故か高い。術を使えるようになるためには相応にその適正を見定めねばならないが、術を発動するために必要となる助発の言葉無しで紡いだ術式者となるならば、それは、形を定めぬままに術力を発動するに等しい。ただの術力を誇示するだけの発散と本来ならばなるはずなのだ。

 それが形となるだけでも、相応の術力が型に残る。つまりは、発散しきれずに現在するなどということが起こっているだけでも普通ではない。




 

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