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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
風きりの谷駆け
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Ⅲ-Ⅹ 峠に降る散羽

 峠の入り口が見えなくなり、常に空気だけがぴりぴりとしている状態がずっと続いている。

 入り口からみえていた街道の荒れ具合より、中に行くほど人が行き来した後が減っていきぼうぼうと草がそこかしこに生え出し、足元が滑りやすくなっている。先頭に位置する斡辰の隊がみちを切り別けて進んでいるのか、道中の草は春明が見ても分かる程度にはいくつか切り裂かれた後が残っていて進みやすくなってはいた。

 砂埃から離れた自分達のさきにあったのは、しばらくつづくらしい崖ぞいの道。峠の入り口からずっといったあたりはすでに山の横を迂回していくような形の道になっていて、動物の鳴き声も時おり聞こえてくる。

 その度隊の気配がそちらを少し向くが、あの竹筒音ではない限りというのでそれもすぐにそれた。耳に残るというか、身体にしみるその声をだれも間違えようがないようだったというのがきっと言葉にしたら正しかったと思う。


 隊を立て直してからは数度、今と同じような魔物が道中の先頭に三回、中央部のあたりへ一回、後方に三回と同時に現れたのを数えれば三度の襲撃が起こった。

 一度目の襲撃で対処法を学んだ馬上の兵たちが、現れるのを確認するや矢を射かけ、それを支援として一般兵卒がとりかこみ叩き伏せる。瞳が現れる前に足にあたるヒラヒラの角を斬られてしまうと、このヒラヒラ妖怪、羽末(うすえ)と呼ばれるらしい魔物は立てなくなるようで、重点的にそこを攻め立てれば、片木梨様がおこなったように内側から吹きとばすなどという、荒業をする必要はないらしい。

 しかし、熟練者がそれだけやって出来る事を新兵含みの団体にさせようというのは、少し無茶があると春明は本日三回目の後方への羽末出現に身を硬くして術を使おうと試みていた。


 黒乃が影から手伝おうとしてくれているが、黒乃の術力を形成する補助を使いつつ志坂に使った技、(すい)を発動しようとして羽黒さんに怒鳴られたのはこの戦闘のひとつ前のことだ。

 何故怒鳴られたかといえば、味方を巻き込むつもりかとう第一声に、続けてそんな使い方で倒せるかという言葉。その言葉についで思いきり影を踏まれたほうがむしろ本題で、暗に私に言っている事柄があると知れた。

 味方に式陣を使っているという気配を気取られるなという鉄則を忘れているのか。という事だ。


「けれど、だからといって式陣というか術さえきちんと手順を踏んで覚えたわけでもない奴に使えというのか。おい」


 誰にも聞こえないようにそう春明はぼやいたが、目の前にいる奴や周囲の味方なのか、敵なのか分からない斡辰の男たちには聞こえていない。吉郎だけがちらりと春明へ注意をするかどうか迷っているだけだ。

 どっちでも私を怒る口実にしかならないって言うなら、いっそ不定形でも発動させてやる。怒っているのかそれとも悔しいのかの感情の境界線を越えるスイッチが入った音がする。

 目の前には刀を幾つも向けられ、矢が背中に刺さっている羽末がざわざわと四角い足を断ち切らせないよう動かして周囲を牽制していた。

 術式を発動するためにと少し溜め込んでいた力を腹のうちから引っ張りだすかのような想像に、固まらない力の大きさを調節していく。黒乃がざわついて影から中で何かをしようとしているが、形にならない術力の放出が多いらしくて、それを彼が固める事はできていない。ただ、そんな無謀な術力の放出だけでも向こうにいる羽末がこちらへ注意をむけてくれた。

 それだけでも役に立たないよりはましである。標的になることでしか役に立たないというのでやはり嘲りもうわさもは納まらないけれど、使えないとかこけおどしと思われるくらいならそのほうがましだ。そして、今も向いているあの眼光にめにものをみせてやる。


 先ほども羽末を羽黒さんが倒していた時、意図して使おうとしたわけではない力に、馬上から別口で圧する力が少しこっちを向いていた。春明が真っ先に気づくようにそれは少し分かりやすい視線だったとも思える。

 教育的指導が羽黒様から来ていなければ、文字通りの鉄拳制裁ならぬ雷撃制裁というのがまっていたらしい。鉄仮面目、その威圧感だけで充分に私含む複数以上の兵隊が胃をいためていることに気づけあの、将来でこっぱちめ。

 そんな胃を痛める仲間の一人である吉郎さんも、守られるだけの状態に不満そうだった私の気持ちを汲んでくれたようで、隣で刀を構えつつ周囲がこちらに向かおうとしてくる羽末を撃とうとする中で、自分に実際の被害が出ないよう補助に回ってくれていた。


「雷術の使用者であるとは聴いていましたけれど、やはり習熟していらっしゃるというのがよくわかる。圧縮させら力を刀に満たし、くまなく体の全体を覆った時に突き刺して流し込んだのでしょう。暴発のさせ方があそこまでになったのは驚いたけど」


「術っていうのも自分が知るのと、別の属性をもっている人物がそれを行うのとでは大分違うみたいですね。ああいう手法は自分の属性では難しい技だと思います」


 術力の集めかたもなにもへったくれもない自分からしたら、形になるだけで十分すぎる習熟だと思っているとは、春明はおくびにも出さずそう言った。

 放出はできているけれど形にいざしようとすると、その形を保ちきれない。想像していた力が崩れて変形してしまい、棘を想像した自分の術力は棘というよりさきのまるまった三角帽子のような形になってしまうのだ。

 今回も少しとがっているけれど羽末の肉体を貫くには足りないその棘の先を、影からだしたが、羽末が一瞬それを見て止まった。けれど、術力の形などものともしないようにそんなとげを乗り越えようと身体を持ち上げる。高さはあるその陰の障害物を出している人物への攻撃か興味かは、なくならないようだ。

 だが、それだけのことでも、一点集中するという好機が訪れる。


「よし、立ち上がったぞ! 下を叩ききれ! 」


 羽黒さんが持ち場にいる何名かに令を下して、背後に回っていた兵隊の何人かが長方形が立ち上がった部分めがけて刀や槍を突き立てていく。

 超えようとしていた羽末の足元が切られたことで、乗り越えたところの力の支点がなくなり、再度棘もどきの上に干された布団のように羽末がもがく。


「おらぁ! 」


「こいつめっ」


 二人の新兵がそこに踊りかかり、一気に両側から切り裂いていく。三枚に分かたれた羽末はそれでも動こうとするが、そこへおなじく三本に分かれた矢が軽快にタタタンと突き立っていった。


「よーしよし。あとは燃やしてしまえ。油はまだあっただろう少しでいいからそっちを含ませておくとよいぞ。羽黒、あとはお前の隊でつけよ」


 最後の補助を後ろにいる江藤様が行って、羽末をその場に繋ぎとめる。

 この最後の縛りつけのおかげで、羽末がばたついて攻撃をしてくることがないのがとても助かるのだ。白眉の、このおじいちゃんとおじさん中間にあるロマンスグレーというには紳士身が少ないこの人は、弓の使い手だそうで、文字通りこれだけしか距離が離れていないなら百発百中という精度を誇っている。

 江藤様の矢が幾つにも分かたれて放たれるのも術の力によるものらしいが、どういう仕組みなのかは、春明も想像がつかなかった。

 術の力というか、属性がわからない。物理にかんする属性というのはたしか単純に物理となっているだけがRPGだけれども、それだけで分けるにしては春明の中では雑すぎると感じるのだった。


 切られた羽末へ油の小瓶がなげつけられ、行軍は本日四度目の魔物退治を無事終える。だが、昇っている日差しはもう空を横切り、炎の赤が空に混ざり始める色合いを迎えていた。

 その様に、先頭に立っている斡辰と井双路も、いい顔はしない。

 帰路への行軍初日、考えていた予定よりも幾分遅く、部隊は織田峠の中ほど手前にての野営をする決断に至るのである。

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