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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
風きりの谷駆け
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Ⅲ-Ⅵ 遅れ来るのは見し人

 人の姿だけでは中身を決められないといういい例を見た後で、建臣(たておみ)さん、改め戒渡(かいど)さんはからからと笑っていたが、ふと何かの影を見て、その後ろで気色を無くして立っている青年をみた。

 たどって同じものを春明はみつけると、どこか見覚えがあるなと、もう一度みなおした。

 姿を確かめると春明の目がゆっくり開かれ、それに気づいた戒渡さんが指で彼をさしつつ話しを繋げる。


「おう、そうそう。本当はね春明ちゃんに会いに来るのが目的だったらよかったんだが、二の次なんだなぁそれ。

 本来は新城様、上の方からの達しで処分保留だけど、この隊で下っ端からやり直せっていう事になったコイツの引渡し」


「よし、ろうさんが、ですか? 」


 少し乾いた声になってしまったが、声が出たのだけでもよかったと思う。自分の生死が掛かっていたのもあるけれど、彼の事が驚くほど抜け落ちていた。影から黒乃がぐるりと円を描いたが、おそらくそのゆっくりとした動きは、私をなだめるためだろう。すごく穏やかだ。

 一番に被害を(こうむ)った吉郎さんについてまで、自分は気を使うことができなかったのが仕方ないとは、いえなかった。

 立っているのはあの時一緒に馬を駆ってここまで案内してくれた彼だ。自軍を思って罰則も覚悟していた彼だ。ただ、その表情はおどおどとしていて、血色の悪い顔色からは随分と疲労が滲んでいる。吉郎さんがきてから、周囲の空気がすこし煙がかってあらくなっているように見えたのもきっと、勘違いじゃない。周りの目線が自分よりもずっと彼に、きつくなったのも感じられた。


「建臣、本当にか? 俺は聴いていないが。引き受けもまさか俺だと? 」


「そのまさか。いやー、気の毒だね友成。二人を見とけとさ。副隊の次官を使ってお前さんはそのままに行軍するそうだ。馬はお前だけだから最悪はわかっているだろ?

 処断はなされているらしいが、俺も詳しく内容は聴いていない。本国に戻ってから詳しい話しをするってことらしいけど、だからといって志坂の隊の奴らと一緒にするわけにもいかないしな。

 本式からしたらご寛大すぎる処置だろうと思われるよ」


 戒渡さんの声はすっきりとしているが、周りの空気を薄めているような言い方をしていて、悪い方に傾いている感情をかくしていないのははっきりとしている。それが、自分をこの斡辰へと引き合わせてしまった彼の罪なのだろうか、それとも、吉郎さんの地位を貶めたのは自分なのか。

 春明がどちらとも言えずに口を軽く結んでいても、どちらが悪いとも誰もいってはくれない。

 言わない空気にも砂をかけるように、目の前の焚き火に砂利を蹴りいれたのは戒渡さんだった。


「と、いうわけで吉郎、お前はここにいる春明ちゃんを守れ。いざとなったらお前が盾だ、副官である羽黒にはコイツを損なわせず本国にまで連れて行ってから話しをせにゃならん勤めがある。

否は、ない」


 口元の笑っているだけのつくり笑顔に、自分へも同じ笑顔が軽く向けられ、彼も繕っていただけなのだという分かりやすいポーズをみさせられた。羽黒さんへは困ったように眉を少し下げて見せたが、そのまま何も言わずに立ち去っていく戒渡さんへは、羽黒さんも声をかけずに見送った。


「なるほどな。片木梨様も、近条路様もお考えがあるにしては面倒なことをなさる」


「面倒なんて、そんな。吉郎さんは今回私を引き連れてきただけで」


「それが面倒ごとに繋がった。

 今回の行軍訓練を切り上げる話になったのもお前が隊にきてから早期に決められていた事だ。吉郎のことを詳しく俺も聴いてはおらんが、志坂の隊であったそれぞれから情報の一部は聞き出している。

 不問に付された春明とは違い、吉郎には今回の事には志坂を止める責務があった。それが出来ないものには、負うべきものを負わせるということだ」


 厳しい判断だが、それを間違っているとは春明はいってはならないと、口をかみ締めた。志坂をとめないことに怒っていた自分も、吉郎のことを知らなかったとはいえ諌めないことに憤っていたし、彼が自分を助けてくれたからその印象を上にもってくるのは、自己満足だ。

 なにも反論をしない春明からまた俯いたままの吉郎に顔をもどした羽黒は、まだ下を向いている吉郎の前へ立つと、手元から一つの欠片をとりだし目の前に差し出した。

 俯いていた目の前に出されたそれが、なんだったのか分からなかったが、吉郎の目がそれを見て変わった。


「その、羽黒様。それは」


「知っているな。お前は卓見だとは聞いているが、こいつを見せて分からないようなら頬っ面を春明がしたようにひっぱたくつもりではいた。

 まずは、決を待つ以外にない。そして、こいつの事情を知っているものは術に優れているなら大体はそれを知っている。斡辰様方からもその話しは下っているはずだ」


 男同士の話し合いなのか、事情が読めないが春明の見ている前で交わされた言葉のお陰で、沈みきっていた男が少しだけ光をもてたようにみえる。そうとだけ話した羽黒さんはさっさと今度はけしかけている焚き火の後始末をはじめだし、もうそれ以上話はしないと春明たちの傍を離れた。

 残ったどうして私が頬をはったのを知っているのだろうか? という疑問附に顔をすぼめていると、吉郎がこちらへこういってくれた。


「すまんな。……まだ、話せなんだ事が多くてな。だが、お前が倒れていた数日の間で、何が起こったのかについては全て話していて、羽黒さま含む、副官の位をもつ方々には、戒めとしてアレが配られているみたいなんだ」


「その、アレが分からないんですけれど。一体? 」


「君が志坂から取り出した 術核の石をわけたものさ」


 その言葉に背中が黒く染まった気がした。一番忘れてしまいたかった事、人の形をしていた化け物、そして突き抜けた赤に、大地にひしゃげた果実の落ちる音。光景が視界を一瞬占めて、体が本当に黒く染まった気がする。春明の様子に吉郎が手を差し出し、わたわたと慌てふためいていた。でも、それも何だか遠い。


「す、すまぬ。お前にもあれはきつかったか。思い出させてしまってすまない」


「っ…………あ、いえ。こちらこそ失礼しました。終わった事をいつまでも。

 男らしくないにもほどがある」


「あ。……かさねて、すまぬ」


 本当だったらこういう対応が正しい、でも吉郎さんだって知っているはずだ。私は今男の姿をしている。そして、まるで女のような対応をしては変な目でみる周囲は、より一層疑う。いらぬ噂も考えたけれど、春明としてあらなくてはいけないのは今女のような見目をしている男で、中身までなよなよしいという評価じゃない。どう見られても構わないけれど、それ以上に落ちてはいけないのだ。


「いえいえ、申し訳ない。私自身も失礼をしていることが多いようですので、できるなら教えていただければ幸いです。人のいる場は苦手です」


 自分の中でもう一度顔を作り直し、春明は完璧とまではいかなくとも、一見されるくらいでならわからないような笑みをつくって吉郎に笑って見せた。

 吉郎もそれをみて、下がっていた眉と目に少しだけ迷うような動きがついたが、それ以上は言わなかった。すぐにも隊を出さなくていけない状況は、二人がそれ以上話すには時間足らずだ。

 周囲の目線はやまないし、忙しいのもかわらないが近条路様の声が聞こえて、それらも消されていった。


「出立まで四半時をきっているというに、なにをやっているか! 間もなく斡辰様を先頭に、通達どおりに事をはこぶ! さもなくば自国に帰ってから わしがじきじきにしごいてくれるわ! 」

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